NECが、中期経営計画「V2012」をスタートし、最初の3カ月を経過した。V2012では、最終年度となる2012年度の売上高が4兆円、営業利益が2,000億円、ROEで10%という数値が経営指標。売上高は年平均成長率で3%。営業利益率は、2009年度実績の1.6%から5.0%に引き上げることになる。NECの遠藤信博社長は、「いまの延長線上のままでは、V0212は達成できない。会社そのもの、社員ひとりひとりが変革しなければ、V2012の成功はおぼつかない」と言い切り、「V2012は、自己変革プログラムになる」と位置づける。
V2012の成長のキーワードは、「グローバル」「クラウド」「新規」の3点。いずれもNECが挑戦するという意味では、高い壁ともいえるテーマだ。
「新規」の観点では、スマートグリッドやエネルギー領域のビジネスが大きな挑戦となる。第一歩は、自動車用リチウムイオン電池事業だ。日産自動車との協業のほか、本社直下に環境・エネルギー事業本部を設置。4月からは関連会社としてNECエナジーデバイスを設立し、リチウムイオン電池の電極部品を量産する体制確立に取り組んでいる。この技術のほかに、NECが得意とするネットワークとITの技術を活用したスマートメーター、ホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)などにも参入。将来のスマートグリッド市場に向けて、ITとネットワーク、蓄電技術を活用した提案が行える体制づくりを目指す。エネルギー事業の目標は、2012年度に1,000億円が当面の目標となる。
「クラウド」では、2012年度における関連事業を含めたクラウド売上高の目標を1兆円に置き、海外展開を含めたクラウドビジネス拡大に取り組む。NECが自ら構築し、活用しているクラウド指向経理システムなどの実績を踏まえ、基幹系の領域にまで、クラウド展開を早期に図り、自治体や製造業、サービス業などへのクラウド提案のほか、KDDIと連携したモバイルクラウドサービスも今年度中の商用化が予定されている。さらに、キャリア向けのクラウドコンピテンスセンターを欧州に設置。協業関係にあるテレフォニカとの連携によって、グローバルのビジネス展開にも余念がない。
「クラウドビジネスを推進するには、ITとネットワークの融合が必要。ITの企業が、慌ててネットワークの企業を買収しても、倍数の成果を出すことは難しい。両分野に渡る長年の実績を持つNECがクラウド時代に優位性を発揮できるのは明らか」と遠藤社長は自信をみせる。
そして、もうひとつのキーワードとなる「グローバル」では、2010年度から、北米、EMEA、APAC、中華圏、中南米の5極体制を敷くとともに、現地での雇用を促進や、買収した企業のアセットの活用やアライアンスを推進。「地域に密着した展開を推進する」(遠藤社長)考えを示す。
2008年に買収したNetCrackerにより、通信事業者向け運用システムの受注を、ロシア、ドイツ、マレーシア、ニュージーランドといった世界各国で獲得。また、遠藤社長自らが手掛けてきたパソリンクも、3年連続で世界シェアナンバーワンを獲得するといった実績をベースに、さらに海外事業を加速する考えだ。
冒頭にも触れたように、遠藤社長は、「V0212は、自己変革プログラムになる」とする。
変革のなかでも最大のポイントは、NEC自身のグローバル化だといっていい。2009年度実績で、NECの海外事業比率は20%。比較されることが多い富士通は37%。NECの国内偏重は明らかだ。
NECは、V2012では最終年度となる2012年度に25%の海外売上高比率を目標とするが、さらに2017年度を目標とする「NECグループビジョン2017」では海外売上高比率を50%にまで引き上げる計画を発表している。NECにとって、海外売上高構成比50%というのは未知の世界である。まさに、NEC自らが変革をしない限り、この目標は達成しえない。
実は、遠藤社長は、4月1日の社長就任以降、この3カ月に渡って、同社の国内拠点を訪問し、約2,500人の社員と直接対話を行い、NECはなぜ変革しなければいけないか、いま社員が問題意識として抱えていることはなにか、そして、会社としてなにを改革すべきかといったことなどについて議論を行ってきた。つまり、変革することの重要性を自らの言葉で語ってきたというわけだ。そして、今後は海外拠点においても、同様の取り組みを行うという。「V2012は、NECグループビジョン2017を実現するための確実なステップとしてのマイルストーンになる」というのが遠藤社長の基本姿勢。そのV2012の最初の3カ月は、まさに基盤づくりともいえる、社員との価値共有に時間を割いたともいえる。
「前向きな発想をする社員が増えている」とする遠藤社長の感触は、そのままNECの成長戦略への転換につながるのか。また、グローバル事業拡大への変革につながるかが鍵となる。