自由のない自民党とは

自民党若手有志による勉強会で、作家である百田 尚樹氏の「沖縄の2つの新聞社はつぶさなあかん」という発言が大々的に報じられました。

「言論の自由」に対する攻撃は看過できません。なぜなら、健全な民主主義に「言論の自由」は不可欠であり、多様な言論が偏りの少ない社会を実現するからです。その一方で「言論の自由」は野放しではありません。

神戸連続児童殺傷事件、俗に言う「酒鬼薔薇事件」の犯人による本の出版に、非難の声があがる理由でもあります。そして百田 尚樹氏によれば、発言はそもそも関係者以外を締め出した「オフレコ」のなかの雑談で、報じた記者は締め出された廊下から、曇りガラスに「耳」をこすりつけての盗み聞き。盗み聞きをもとに「言論の自由」を声高にさけばれても鼻白みます。

沖縄議員による言論封殺

ネットニュースとして飛び込んできた第一報は百田氏の発言を問題視するものでした。しかし、野党ながらも沖縄選出の議員らが、百田発言を憲法違反と抗議声明を発したのは天に向かって唾を吐くようなものです。

すでにNHK経営委員を辞めている百田氏は民間人で、舌禍的な発言で注目を集めますが、あくまですべて「言論」でのできごと。対するは野党ながらも国会議員。抗議とは、百田氏の言論の封殺を求めることです。

与党議員の言論封殺は許されず、野党議員なら良いという道理はありません。どちらもダメです。沖縄の2つの新聞が、県民生活にどれだけ必要であるかを述べて反論するのが筋というものです。

ここで一つ例を出しましょう。

飲食業界の現場に明るい経営コンサルタントのA氏は、ある大企業のトラブルを釈明するプレスリリースに違和感を覚えます。仮の話ですが、国産ウナギをつかった鰻丼を一杯500円で販売したところ、想像以上に売れすぎて、鰻の確保が間に合わず販売を中止したというような釈明です。

高騰が続く国産ウナギが一杯500円なら、それだけで売れるというもので、そもそもの計画が間違っていたか、話題集めのための「発売中止」で、すなわち「炎上商法」ではないかというブログで指摘します。翌朝、多くのコメントが寄せられていました。

匿名の闇からの攻撃

当初、A氏はコメントを応援メッセージと勘違いしました。主語が抜け落ち論旨が不明瞭なのです。そこで「賛意」と解釈し、社交辞令として感謝の言葉を述べたところ、翌朝、罵詈雑言が並んでいました。どうやら指摘がお気に召さないようです。

攻撃は執拗で、一晩に5、6件のコメントが寄せられます。専門用語らしきものを引いてきて並べていますが、客観的な論拠に乏しく、インサイダーを匂わせる記述も目立ちますが、検証不可能なものばかりで、なにより論理的一貫性がありません。

端的に言えば「思いこみ」で綴られているのです。A氏は何度か反論を試みますが、それへの回答は十分ではない、というより「答えられるところだけ答えている」といった調子。話しが噛み合わず、あきれたA氏は放置を決断します。

数日後、無視されていること気がついたのか、この批判者は「言論には言論で答えろ」と執拗に返信を求めます。

それはヤジに過ぎない

批判者を象徴するような書き込みに、A氏は微苦笑しました。なぜなら批判者は匿名で、所属も立場も年令や性別も明らかにしていません。物陰に隠れ小石を投げながら、正々堂々と勝負をしろと叫んでいるようなものです。

批判者の批判はすべてこの調子。言論を主張できるのは、発言者が身分を明らかにしているときだけです。必ずしも実名である必要はありませんが、人物像が判然としない主張など、ただの「ヤジ」に過ぎない「言論0.2」です。「酒鬼薔薇事件」の犯人が批判されている理由のひとつでもあります。

犯人は「少年A」と匿名の闇に身を隠しながら、一方で被害者は実名で登場させ、犯行時の陵辱を詳細に綴り利益を得ています。言論の自由には、発言者がその言論の責任を背負う義務があります。匿名からの言論とは、この義務を放棄した上での権利行使。「言論の自由」を振りかざすことなどできません。そしてこれは日本の新聞報道全体にも通じることです。日本の新聞記事の多くは「無署名」で、つまりは「匿名」です。盗み聞きを「恥」と感じない理由のひとつです。

ちなみにコメント欄への執拗な書き込みにより正常な業務に支障をきたせば、それは「威力業務妨害罪」に該当し、批判の限度を超え精神的に追い詰めてしまえば「傷害罪」が適用されます。もちろん、罪に触れる「言論の自由」はありません。一方でA氏が罵詈雑言のコメントを削除せず、公開し続けているのは、それも「多様な言論」の有り様だからです。

エンタープライズ1.0への箴言


匿名からの攻撃は言論ではなくヤジ

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」