日曜日の珍現象
日曜日の朝、フジテレビで放送されている『新報道2001』に古市憲寿氏が出演するたびに、「古市憲寿 バカ」という検索キーワードで、私のブログへのアクセスが急増します。読売新聞などが「社会学者」と称する彼の、独自すぎる論理展開を指摘した私のブログを見て、安心する視聴者が多いようです。
古市憲寿氏は「いまどきの若者」を代弁したとされる論考で注目を集め、各種メディアに呼ばれるようになるのですが、その珍奇な発言は各所で物議を醸しており、学校荒らし事件報道では「格好いい」とコメントし非難を集めます。ところがそんな古市氏はフジテレビのお気に入り。「格好いい」発言もフジテレビの「とくダネ!」ですし、『新週刊フジテレビ批評』でインタビューアーまで任されております。なるほど、フジテレビは凋落するはずです。
かつて視聴率の首位を独走していたフジテレビが落ちぶれた理由を、古市憲寿氏の起用に見つけます。
振り向かずに前にいた
「振り向けばテレ東」とは低視聴率を揶揄する業界用語です。もっとも近年は、テレビ東京の独自の番組作りを支持する視聴者が増えており、対するフジテレビの凋落ぶりはもはや惨状です。週間視聴率のランキングトップ20で、フジテレビの番組が『サザエさん』だけであることが常態化しています。
古市憲寿氏が出演した直後に、視聴者がチャンネルを替えたとはいいません。しかし、日曜日の朝から、政治問題を取り上げることの多い『新報道2001』にチャンネルを合わせる視聴者が求める見識は、学校荒らしを「格好いい」と評するものでないことは明らかで、視聴者の求めるコンテンツが提供されていない象徴的な事例です。
この傾向は数年前から始まっていました。『新週刊フジテレビ批評』とは、「テレビ」について有識者の声に耳をかたむけるというコンセプトの番組です。Twitterで世に出た当時の津田大介氏が、『岸辺のアルバム』や『ふぞろいの林檎たち』の演出を手がけた鴨下信一氏と、ドラマ不信の打開策について論じる回がありました。かつてのドラマは、冒頭の「あらすじ」により、見逃してもキャッチアップできたが、その不在がドラマ不信の理由のひとつとは鴨下氏の指摘です。対する、津田氏は大ベテランの意見を一蹴し、自説を開陳します。
「新ドラマは全局録画して全て見て、最初の数分でその後の視聴を決める」
意見をすり替える人々
全局のドラマを録画する人がどれだけいるというのでしょうか。この当時、津田大介氏はフジテレビの情報番組にたびたび登場しています。フジテレビの凋落は、ドラマを全局録画し、学校荒らしに憧憬を見つけるような特殊な人の声に耳をかたむけていることにあります。
十年近く前の話になりますが、携帯電話販売店の社長が「これからはP社の端末だ!」と豪語し、大量に仕入れました。結局大量に売れ残り、0円でばらまく、いわゆる「損切り」に追われました。社長が方針を決めたネタ元は「2ちゃんねる」の、携帯電話の自称業界人が集う「板」でした。これから流行る端末は? の問いかけに返ってきた回答が、たまたまP社だったからです。
玉石混淆といいながらも、匿名のネット情報の大半は思いこみで綴られています。私的体験や性癖を、世界の新常識のように語るのはネット界隈の住民の日常で、私憤を公憤にすり替えるのが彼らの手口です。当然、世論の支持を集めることはありません。つまり意見を求める相手を間違えた「アドバイス0.2」です。
あまちゃんとごちそうさん
フジテレビの番組ではTwitterの垂れ流しも散見します。これも凋落を加速させることでしょう。ネットとテレビでは、盛り上がるツボが異なるからです。2013年に放送されたNHKの朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の盛り上がりは、社会現象といっても過言ではなく、特にネットでは異常な盛り上がりを見せていました。しかし、そこまでは話題に上らなかった後番組『ごちそうさん』のほうが、視聴率が高く、現在放送中の『花子とアン』も同じです。「つぶやかない視聴者」は『ごちそうさん』をより高く支持したことを、『あまちゃん』を上回った視聴率が証明します。
ツイートなどSNSのクチコミを、視聴率の代替にしようという動きもあります。しかし、ネット世論とはタレントや有識者、活動家といった「ノイジーマイノリティー(声の大きい少数派)」が形成する傾向があり、一般消費者の大多数を占める「サイレントマジョリティ(声を上げない多数派)」の意見を汲み上げることは不得手です。つまりツイートが盛り上がるような番組作りを目指すフジテレビは、今まで以上に「つぶやかない視聴者」を置き去りにするということです。ちなみに選挙において、「ネット世論」が、リアルの投票結果と乖離する理由もここにあります。
さらに、先日のフジテレビ。猪子寿之氏が「これからのテレビ」について語ります。彼は現役で東大に合格し、在学中に米国に留学し、
「友達とずっと一緒にいたかった」
という理由で会社を作った人物。古市憲寿、津田大介両氏にも通じるのですが、茶の間でのんびりテレビを見る人々ではないでしょう。
エンタープライズ1.0への箴言
「アドバイスは人選がすべて」
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」