日経記者の資産運用

2014年2月24日の衆院予算委員会で、元厚生労働大臣の民主党長妻昭氏が政府に投げかけた質問を要約するとこんな感じ。

「リスクマネーでの年金の運用はヤメロ」

リスクマネーとは、株式投資を筆頭に、商品先物、デリバティブなど元本保証のない金融商品を指し、国債や定期預金の対極に位置づけられます。国民から集めた年金保険料を、「リスク」に晒すことを批判しているのでしょうが、長期投資においては定石のひとつです。

先進国の国債は、元本が保証されますが、金利の低さから「インフレ」になると資産の目減りが起こります。リスクマネーは「ゼロ」になるリスクがある一方、高いリターンが期待でき、インフレに対するリスクヘッジ(保険)となるのです。リーマンショックなどにより、一時的に損が出ても、中長期で見れば、リスクに見合ったリターンは得られると、投資の世界では考えられています。なお、安心安全で資産が増える「定額貯金神話」は、金利が10%を越えるなど日本が「新興国」だった時代の現象です。

後に述べるように長妻昭氏の主題は別にあったのかもしれません。しかし、国会議員の資産公開で、「資産ゼロ」の長妻氏に「資産運用」を語る資格があるのかに疑問が残ります。

相も変わらぬ楽天スーパーセール

長妻昭氏は日経ビジネスの記者を経て政界入りします。日経といえば交換所が破綻した「ビットコイン」を礼賛し、系列誌の「日経MJ」で発表する「トレンド番付」に疑惑は多く、昨年は世間を賑わせた「ビッグデータ」が幕内入りできず、昨年末の本稿で、

「2014年に残しておいたのではないか」

と疑問を呈しておいたところ、この春から

『日経ビッグデータ』

を創刊しました。「日経」の「実像」が透けて見える気がするのは、わたしの乱視が進んだせいでしょうか。

昨年の11月、「二重価格」の杜撰なチェックにより、「詐欺」といっても過言でない不祥事が発覚した楽天市場。ほとぼりも醒めたと判断したのか3月あたまに「スーパーセール」を開催します。期間中、飲食の「デリバリー(宅配)」でもセールを発見します。妻が、貯めたポイントがあるというので、楽天市場から「寿司」を注文してみることにしました。

あると強弁し20分

住所を入力すると、検索結果に「ピザ屋」が表示されます。宅配寿司の「配達対象外」だったようですが、こちらが欲しているのはさっぱりとした「寿司」で、濃厚なとろけるチーズではありません。さすが「在庫切れ」を検索結果に反映させる楽天市場です。楽天市場に見切りをつけて、直接店舗に「電話」をかけてみたのは、何度も自宅にチラシがポスティングされていたからです。対応に当たった男性スタッフにいきさつと住所を伝えると

「宅配対象地域です。ネットからも注文できます」

と反論します。試した旨を伝えても「そんなことはない」と譲りません。そして「こちらで試して折り返しお電話します」と小馬鹿にしながら電話を切ります。

わが家の電話が鳴ったのは20分後。スタッフはぼそぼそと別の住所を尋ねます。それはサイトから注文できる住所ではありますが、5年以上もむかしに住んでいた、転居前の住所だと告げると、一瞬言葉を詰まらせ、悔しさを押し殺すように「ネットからは(注文)できませんでした」とようやく認めます。

とにかく使ってみること

全国展開の宅配チェーンで、この種のトラブルはよくあります。かつて「宅配寿司」という業態を開発した企業の役員は、出店を決めるとみずからミニバイクにまたがり「エリア」を決めていました。地図でみただけでは、わからない「宅配可能エリア」があるからです。いまのチェーン店は本部が「地図」をもとに宅配エリアを策定し、ホームページもこれに従います。あるチェーンの出店速度は10年で300を超えます。これではバイクにまたがっている暇などありません。しかし、現場ではバッティング(系列店舗のエリア重複)がなければ、宅配エリアが柔軟に運用されるのは先の役員と同じ理由です。これが「本部」に反映されず、また「現場」もサイトを確認しません。双方はそれぞれの仕事をそつなくこなすことで、お客に不便を強いる「運用0.2」です。また日経イチオシの「ビッグデータ」を利用すれば、ネット上からの注文が極度に弱い地域=すなわち対象外とされているエリアを炙り出すことは簡単です。つまり注文履歴という「ビッグデータ」を利用していない「運用0.2」でもあります。

日経出身の長妻昭氏の質問の目的は、年金の「官民格差の是正」にあったのかもしれません。公務員年金の運用において、リスクマネーへの投資は民間の半分以下だからです。しかしリスクマネーへの投資そのものをヤメロと迫る長妻氏は、やはり「資産運用0.2」です。「安全資産」とされる日本国債は最大でも1.744%(40年)しか金利がつかず、政府と日銀が目指す2%程度のインフレが実現すれば資産は実質目減りします。長短問わず、投資において重要となるのは「リスク管理」であり「リスク拒否」ではないのです。

さらに長妻昭氏が国会で使ったPDFの「資料」を民主党のサイトからダウンロードすると、パソコンで作ったはずの資料は「スキャン」されたPDFで右に左に傾いています。民主党内のイデオロギーの違いを皮肉っているとは穿ちすぎでしょうが、デジタルデータの「運用0.2」を見つけたのでした。

エンタープライズ1.0への箴言


「自社サイトは「運用」ベースで情報更新する」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」