たばこ、ツイッター、ブログ禁止

プロ野球読売巨人軍が、2014年の新人選手へ下した通達がネットで話題となりました。

「野球を辞めるまで、たばことブログ、ツイッターを禁止する」。

たばこはともかくとして、SNSの禁止についてネット上では賛否両論。野球選手のSNSといえば、メジャーリーガーのダルビッシュ有選手のツイッターが有名ですが、親近感が増す反作用として、スーパースター的な空気がなくなっているという評価もあります。これを報じたニュースの見出しは

"ドラ1小林、触れ合い重視「AKB式ファンサービス」"

つまりAKB商法における握手会のように、対面のファンサービスを重視するという意図があるようです。だからといって、いまのご時世にSNSを禁止するだけで解決を目指すのは0.2。参考にしたAKBグループは、Googleが提供するSNS「Google+(プラス)」とタイアップしており、ネット上でのファンとの接点も捨ててはいません。今回は特別編としてSNS時代のプロ野球球団はもちろん、企業や団体が「SNS1.0」へなるための3要素を紹介します。

そもそも巨人軍による、この通達は憲法違反の疑いがあります。

ロッテ神戸事件の余波

プロ野球を引退後、草野球に興じる元プロ野球選手もいます。「野球を辞めるまで」という条件設定は、引退後の彼らに「ホームランなう」とつぶやく、表現の自由を剥奪することを意味するからです。そもそも、プロ野球チームは巨人軍だけではありません。トレードで放出されることもあれば、フリーエージェントの権利を取得すれば、選手にはチーム選択の自由が与えられますし、田中将大選手のようにポスティングシステムでメジャーリーグに移籍する可能性もアリ、「野球を辞めるまで」とは人権侵害の可能性が高く、あるいはプロ野球チームは巨人軍しかないという傲慢さのあらわれで、多分こちらでしょう。

巨人軍が通達した背景には、2013年の「ロッテ神戸事件」があります。千葉ロッテマリーンズの神戸拓光選手が、「三鷹JKストーカー殺人事件」について、被害者を侮辱するようなツイートをし、炎上しました。抗議は球団にまで寄せられ、謝罪会見を開き、問題のツイートは、ブログの管理を任せていた、彼の友人の独断によるものと説明がありましたが、自宅謹慎処分となりました。こうした発言そのものを封じようとする狙いが、巨人軍にはあるのですが、その封じ方が0.2なのです。

プロなんだから…

プロ野球選手になるには「契約」を結ばなければならず、そこに「契約期間のSNS禁止」と一文を添えれば良いだけのことです。口頭での通達ですまそうというのはアマチュア、すなわち0.2です。

また、ブログやツイッターを禁止としても「LINE」はどうなるのでしょうか。新人のなかには高卒(本稿の時点では予定も含む)の選手もおり、彼らが多用するのはLINEです。グループ内での会話(チャット、メッセージの交換)は非公開ですが、それを友人が「転載」する可能性は否定できません。あるいは仮想コミュニティ空間「アメーバピグ」で「今日、手抜きで投げたら打たれちゃった(・ω<)」と発言しても良いと言うことでしょうか。もちろん、ダメでしょうが。

本ニュースを聞いた際、物書きの末席を汚すわたしの脳裏に浮かんだのは「版権」です。奇術師のプリンセス・テンコーさんは、プライベートに関する発言は制限され、髪の毛の長さまでエージェントと契約しているといいます。同様に選手の発言まで球団保有の権利とするのかと考えたのです。個人的発言が拡散されるSNS時代に逆行するかのようですが、「興行主」としてみれば、ひとつの選択肢でもちろん「契約」は不可欠です。巨人軍にそこまでの深い考えはないようですが、SNSが普及した現代において、一般企業や各種団体でも「契約」による発言の制限が「1.0」への要件のひとつとなります。

ルールブックに明記する

いまという時代を象徴する人物を問われれば、迷い無く「山本太郎(参議員)」の名を挙げます。「ネットで検索」するだけで「デマ」と分かる程度の発言を信じた有権者が66万人もいたことも「いま」を象徴しますが、なにより本人です。ノーネクタイで参院本会議場に現れ、「議員の品位に欠ける」と議院運営委員会理事から注意されるとこう釈明します。

「国会のルールブックの中には、ネクタイ着用ということは書かれていない」

園遊会における天皇陛下への「片手渡し手紙事件」もそうですが、禁止と明文化されていないことは、すなわちやって良いことだと考える人種が国会議員になれる時代です。そこからSNS利用のマニュアル化、山本太郎流にいえば「ルールブックへの明記」が必要だとわかります。モラルによる歯止めが期待できないことは、山本太郎をみれば明らかです。

最後の「1.0」への要件が「監視」。実名で登録しているSNSのアカウントは、その提出を義務づけ、監視すると告知しておくのです。公序良俗、守秘義務に反しない発言は「表現の自由」により保証されていることは言わずもがなですが、「見られている」と知っていながら、バカッターを投稿するようなバカは即時解雇と「ルールブックへ明記」し、解雇を含めて「契約」しておくのです。監視の実効性より「抑止力」が狙いです。

3要件が必要となったのは、SNSという新たなツールの登場が理由ではなく、社会全体の「モラルハザード」によります。そして巨人軍といえば、新人獲得において「ルールブックに書かれていない」ことの悪用を繰り返しており、モラルハザードを引き起こした当事者で、自業自得、いや自作自演の0.2なのかもしれません。

エンタープライズ1.0への箴言


「禁止するより監視しろ」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」