創業した企業の7割が3年以内に消える現状

新しく生まれた会社の3~4割が1年以内に、約7割は3年以内に廃業するというデータがあります。「IT系」ではこの割合がより高いように感じます。小社からの徒歩圏でも、ホームページ制作やホスティングサービスを謳う会社が5社ほど誕生しましたが、1社は移転し、1社は廃業を宣言し、1社は音もなく消え去り、残りの2社は開店休業状態となったのは、みな開業から3年以内の話です。

廃業率の高さは不定期にお届けしているシリーズ「Web業界人に多い0.2」の理由の1つ。彼らは「ホームページ制作」というスキルでのみ商売という戦場に参入します。しかし、今や社内公用語を英語にして海外を睨み続ける「楽天」が成長の先鞭をつけたのは「どぶ板営業」でした。創業メンバーが全国に飛び、電話帳片手に片っ端から商店を訊ねたと言います。

ホリエモン時代の「ライブドア」の急成長は、今や「アメーバピグ」でIT起業に成り上がった営業集団「サイバーエージェント」が支えたことはつとに有名です。どちらも「営業」に力点を置いたからこその成功で、裏返せば「ホームページを作れる」だけでは商売を継続させるのは難しい……いや、不可能です。

Web業界特有の自己申告の肩書

WebイベントプロデューサーK社長。というよりも「ファンタジスタK(仮名)」の通り名のほうが有名だとWeb業界紙は持ち上げ、彼の成功を賛美する美辞麗句が紙面を埋め尽くします。ちなみにその通り名は「イタリアの至宝」と呼ばれたロベルト・バッジョも、あやまんjapanのメンバーとも関係ありません。Web業界では「ハンドルネーム」に代表される匿名文化からか、自己申告の肩書きを受け入れる空気があり、K社長の「ファンタジスタ」もその1つです。

社長とあるように「ホームページ制作会社」を経営しています。会社のホームページを覗くと、SNS構築から、ブログのリストラと題した移転サービス、「アイデアグッズ」の通販により蓄積されたノウハウに基づく通販支援まで掲げています。この「アイデアグッズ」が売れに売れているということで、そこから商品開発についても一家言あるようです。

K社長の個人ブログに移ると、テレビなどのメディアに「辛口駄菓子評論家」として登場しているとあり、年に2回ほど自ら主催するイベントを紹介し、今はそれを主な肩書きとしています。

自転車通勤の理由は「節約」

K氏が生まれ育った街で起業したのは7年前です。しかし業績は伸びず、一発逆転を狙い都心の一等地にオフィスを構えますが、そこは同業者がひしめく激戦区で、高い家賃負担に耐えきれず、家賃の安い三等地へと「プチ都落ち」をします。この時のダメージが響き、起業前の会社員時代に購入していたマンションを手放しています。

「現在の"成功"はこの時の苦労が報われたもの」と業界紙に語るK社長。さらに最近は「自転車にはまっている」とあります。昨年の東日本大震災以降、自転車はトレンドですが理由はそこにはなく「節約」です。往復1,000円の交通費を食費に廻すための苦肉の策としてペダルをこぎ始めたのです。彼は「成功 0.2」です。

会社は一昨年より週休3日制となりました。ドイツのフォルクスワーゲン社を参考にしたと言います。しかしそれは「成功」と対極の告白です。90年代初め日本車に押され、経営危機に陥ったフォルクスワーゲン社は労使交渉の末に雇用確保を最優先として、賃金の15%カットに加え、週休2日の週36時間労働から週休3日の週28時間労働にしたのです。つまり、会社として成功していないからこその「週休3日」です。

「週休3日」で通販業は成功するのか

そもそも他人を支援するほど好調な「通販事業」なら週休2日も難しいものです。発送作業などは平日に集約させても、週末だからと顧客対応などは疎かにできず、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイが「1日6時間労働」として話題になりましたが、こちらの会社もメールでの問い合わせには24時間以内の対応をうたっています。にもかかわらず、平日もう1日休めるということは、休める程度の注文しかはいっていないという告白なのです。

成功は「本業」においても厳しい状態です。積極的なメディア展開により広がった人脈から、案件は紹介されるのですが、「ホームページ制作」のスキルしかないK社長の会社では応じることができないのです。これは「Webイベントプロデューサー」を名乗り、Web業界に特化した人脈作りをしたため、回ってくる案件が最先端の高度な技術を要求されるものばかりになってしまったからです。商売においても、人脈作りにおいても、すべてが「0.2」なK社長です。

それでも創業7年目を迎え、業界紙の取材を受けるぐらいの「成功」を果たしたK社長のカラクリは「実家」です。

K社長の父親は資産家で、マンションのローンの保証人も父親で、ローン返済を滞り売却することになった残務整理も父親が尻拭いしました。マンション売却後、オフィスに寝泊まりすることの多いK社長ですが、実家に帰れば暖かいベッドと食事が待っています。つまり、「採算」を意識しなくても死なない彼の環境が「成功」を支えているのです。同時に「採算性」と対峙する機会を奪っていることが、ビジネスの「成功」を遠ざけているのですが。

エンタープライズ1.0への箴言


「営業の重要性を知らないWeb業界人はとても多い」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」