自己宣伝ですみません

久しぶりにセミナーで講演することになりました。楽天市場への出店と比較しながら、小さな企業がネットを活用するための方法を紹介する予定です。もともと人前に出て話すことは苦手ではありません。高校生の頃は「生徒会長」を拝命していたこともあり、全校生徒の視線に晒されてもへっちゃらでした。また、バンドブームに乗じた若気の至りで観衆の前で人生を語っていたこともあります。しかし、積極的にセミナーに関与することは避けていました。

その理由は、あるプロの「セミナー講師」と知り合いになったことがきっかけです。「ネットビジネスの現場のノウハウを伝えるためにセミナー開催を考えている」と告げるとプロはサラっと言いました。

「だったら、本を書いたほうが良いよ」

セミナーは「客受け」が優先されるので、専門性の高い深い話は敬遠される傾向があり、何より深い話をその場で理解する聴衆は少ないというのです。執筆活動なら、じっくりと1つのテーマを掘り下げられるので、より「伝わる」とのことでした。そこで、本を書きました。

皮肉なもので拙著が世に出ると、セミナーの話もちらほらと舞い込むようになるのですが、登壇するたびに興ざめすることが多く、いつしか遠ざけるようになっていたのです。

成功事例が集客の要

ビル管理業のI社長が生まれて初めてのセミナーの壇上に立った時、話はしどろもどろで、ちゃんと練習してくれば良かったと後悔がよぎりました。壇上に上がると、多数の目が黙って自分だけを見つめており、言葉が詰まるとプレッシャーが雪だるま式に膨らんでいきます。海千山千のI社長も用意したカンペを読むのが精一杯でした。

I社長を壇上に登らせたのは、異業種交流会で知り合った税理士のK先生です。K先生は言いました、これからの営業活動はセミナーの時代だと。ビル管理業とは、フロア清掃から簡単な修繕に点検作業を、オーナーに替わり行う業務です。例えば、フロア清掃でテナントの満足度が高まった事例をセミナーで語ることにより、集まった受講者が「客」になるというのです。

怪訝そうな顔をするI社長をよそに、K先生はノートPCを開き、「これは『満室ワンルームマンションオーナー』の○○さん、つぎは『ひとり年金コンサルタント』の□□さん」と「成功事例」というサイトを紹介し、「みな成功している」と言いました。

見込み客ゼロの焦点

過ぎてみれば、30分の持ち時間はあっと言う間でした。必死すぎて何を語ったのか記憶にありませんが、これで客がわんさか集まれば、かいた恥も流した冷や汗も報われると目論むも、誰一人として詳しい話を聞いたいと近づいてきません。不安気にK先生を見ると、自信ありげに頷きながら励まします。

「後日連絡が入ることもある。何より、今日のセミナーの様子をホームページにアップしておけば次に繋がる」

後日もその次の日も客は訪れませんでした。冷静に考えればわかる話です。セミナーを開催して受講者を客にする、この手の営業手法で最も肝心なことは、受講者を集めることではなく、ビルオーナーといった「見込み客」を集めるところにあるのです。K先生は人脈を総動員して「集客」しましたが、集まったのは顧問先の社員や知人ばかりで、ビルオーナーは一人もいなかったのです。

これは、ネットで見つけた成功例の表面をなぞってこけた「セミナー商法0.2」です。セミナーを営業の舞台にするには集める客層が肝心で、これを疎かにすればただの時間の浪費です。そして見込み客を集める方法を知っていれば、わざわざセミナーに足を運ばせずとも、ハガキの「DM」を1枚送れば十分だということをK先生は知りません。

セミナーを介して天下りに加担した過去

実は、K先生のサイトで紹介されていた「成功例」にもカラクリがあります。「満室マンション」は先祖伝来の立地の良い土地を持っていたことが最大の成功理由で、オーナーの手柄はそこに物件を建てたことであり、誰もが真似できる手法ではありません。「年金コンサルタント」が語る内容はワイドショーに登場する経済評論家と同じレベルのもので、何一つ目新しいものはありません。

彼らの「成功例」とは「セミナー」そのものの成功であり、ビジネス上の成功とはどこにも触れていないのです。情報起業家が「実績」と錯覚させる時によく使う手口です。そして、ネットで見かける「セミナー」はこのタイプが主流で、筆者が「セミナー」への意欲をなくしていた理由の1つです。何かを伝えるためでなく、「自分の客を探すため」あるいは「登壇した実績をサイトで喧伝するため」の「やらせ」で開催されるセミナーがあまりにも多いのです。

そもそも、セミナーの主催者自身が内容に興味を持っていないことも珍しくありません。ある公益法人のシンポジウムの終了後、名刺交換も兼ねた食事会に参加すると、そこは身内のサロンでした。先ほどまで「聴衆」にいた人が筆者の正面に座り、食事会からの参加者が右隣にいます。注意深く話を聞いていると、公益法人の「活動実績」というアリバイ作りだったのです。語弊を怖れずに言えば、天下り団体の予算の食いつぶしに加担させられていたのです。これがセミナーから遠ざかっていた最大の理由です。

今回、セミナー出席を決意した理由は「本」です。発刊当時、Web業界から辛辣すぎる批判に晒されていたなか、主旨に賛同する書評を書いてくれた方が筆者を講師に推薦したのです。ネット上での付き合いだけで、面識はなく、利害関係もありません。税金も無駄遣いしません。だからもう一度だけやってみようかと思ったわけです。

エンタープライズ1.0への箴言


「セミナーで儲けるカギは集客リスト」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

「中小企業の成功事例が聞けるEC・アフィリエイトセミナー」(8月28日開催)で講演予定。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」