株価はビジネスモデルの限界の現れ?
上場と同時に大きくつまずいた「Facebook」。世界最大のSNSに暗雲が垂れ込めています。本稿執筆時の株価は公募価格の38ドルを大きく割り込み25ドルにタッチし、チャートから見ればそろそろ下げ止まっても良い頃ですが反発する気配を見せず、そもそもの売り出し価格が高すぎたとすれば、一段安の可能性も否定できません。
株価は未来の業績の現れで、上場前に自ら認めたように、Facebookは今後ネット接続の主流のデバイスになると見られるスマートフォンへの対応が遅れています。スマートフォンにキャッチアップしたとしても、PCと比べて画面の小さいため広告掲載エリアが限られます。つまり、スマートフォンへの対応は広告収入に依存するビジネスモデルを直撃するのです。危機の本質は「プラットフォーム戦争」です。
「プラットフォーム」とはPCなどの動作環境のことで、かつてはWindowsとMacが戦い、ネット時代がはじまるとInternet ExplorerとNetscape Navigatorの2大ブラウザが覇権を競いました。「検索」の時代に突入すると「検索エンジン」がプラットフォームの役割を果たすようになり、グーグルがヤフーを蹴散らしたのは記憶に新しいところです。
ITの世界では「プラットフォーム」を制したものが勝利の美酒に酔えるのです。そして、Facebookの持つ杯は、枯れつつあります。
らくらくスマートフォンの矛盾
SNSと言えば友人知人による「つながり」が強調されますが、それだけで10億人が利用しているのだとしたら、世界はもう少しだけ平和になっていることでしょう。Facebookで「アラブの春」が訪れたとされる国々で、いまだに政治的混乱が続いているのが象徴的です。Facebookではさまざまなアプリケーションが提供されており、無料で利用できるゲームやサービスがたくさんあり、電子メールと同等の機能も提供されております。つまり、利便性の高い「プラットフォーム」という評価が、Facebook躍進の背景にはあったのです。
日本では「らくらくホンシリーズ」のスマートフォンが登場しました。「らくらくホン」とは、機能をそぎ落とした携帯電話のラインアップで、高機能携帯電話であるスマートフォンとして発売する時点で「0.2」な気もしますが、裏を返せば、回線会社がそこまでしてスマートフォンを売りたい証です。
実際、今夏に発売されるドコモのケータイはすべて「スマートフォン」です。さらに、国内最大のポータルサイト「ヤフー」も経営者を一新し、「スマホファースト」とスマートフォンのサービス拡大を掲げます。そして、健康グッズを販売するM社長も自社サイトの「スマートフォン対応」を指示します。
広告とメディアの「妄想コラボ」
60代目前という年齢の割にM社長はITに明るく、商談で全国を飛び回る時はノートPCにデータ通信カードが必需品で、寸暇を惜しんでネットを回遊します。PC向けサイトはもちろん、メルマガを発行し、ケータイサイトを開き、ブログを更新し、Facebookページも開設しています。ところが、ネットからの注文は低迷を続け、打開策を検討する会議で企画部署の女性が「iPhone」を取り出して「これからはスマートフォン」と提案します。
M社長は早速「ネットで検索」すると先の「らくらくホン」に、ヤフーの対応とスマートフォンを礼賛する記述ばかりが目に入り、先の指示へと繋がります。しかし、ネットにスマホ礼賛が躍るのは、新しいモノ好きのIT業界の悪弊です。また、回線会社と端末を開発するメーカーの思惑と、そこから広告を貰うメディアとの阿吽の呼吸も見逃してはなりません。
「高機能携帯電話版(スマホ版)らくらくホン」という矛盾を孕んだ商品を発売するドコモのように、なりふり構わぬ売り込みにより生み出されているのがスマートフォンホのムーブメントです。そう、M社長は「プラットフォーム0.2」です。
実は、スマートフォン向けサイトが好調な企業はPCでも、ケータイサイトでも売上を立てています。そのうえで、スマートフォンが「プラットフォーム」になることを視野に入れて対応しているにすぎません。つまり、M社長の健康グッズが売れない理由は「プラットフォーム」ではなく、サイトの作り自体に問題があるのです。
そもそも、スマートフォンに対応したからといって急激に売上が伸びることなどありません。これは、ブログが流行すればそれを持ち上げ、ツイッターが注目されればそれをマーケティングに利用せよとけしかけ、最近ではFacebookの特集が組まれるのは、Web業界人と出版界の「妄想コラボ」といっても過言ではありません。
時間争奪戦に巻き込まれるFacebook
プラットフォームを制するものが勝者となるのはネットが登場して以来の大原則で、さしものFacebookとて覆すことはできません。先に述べたように、Facebookではさまざまなアプリが利用できます。しかし、iPhoneなら「App Store」、アンドロイドなら「Androidマーケット」からアプリを直接入手することができます。
つまり、ネット接続の端末がPCからスマートフォンに移行した時、プラットフォームは再びOSに回帰するということです。また、利用者の多さがFacebookにアプリを提供する開発者のモチベーションを刺激していましたが、スマートフォンの普及が進めば利用者は「端末の販売台数」に正比例するようになります。プログラマーはより多くの人に利用してほしいと願うもので、開発者はスマートフォン向けアプリに軸足を移し、魅力的なアプリが減少し、その結果、利用者が離れるという悪循環に突入します。
Facebookがこのまま手をこまねいていれば、PC版だけでの生き残りも厳しいと言えるでしょう。なぜなら、ネットビジネスの本質とは「時間の奪い合い」だからです。スマホアプリで時間を潰すようになったユーザーはFacebookに割く時間がなくなります。
エンタープライズ1.0への箴言
「売上が少ないのはプラットフォームの問題じゃない」
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。