【コラム】
まもなくアメリカナスダック市場に上場するSNS「Facebook」の狂想曲が国内でも過熱しています。時価総額は1,000億ドルと見られ、1ドル80円換算で8兆円。1杯280円の吉野家の「牛鍋丼」なら285億杯分となり、1日3食食べ続けたとして、2,600万年かかっても食べ尽くせない巨大企業が誕生します。こんな馬鹿馬鹿しい計算で表現したのは、株式時価総額の大きさを喧伝するメディアへの皮肉です。
そもそも「株式会社」とは大航海時代に生まれた、貿易船が沈没するリスクを覚悟して、無事帰港した時の利益にかける「博打」的手法です。牛鍋丼2,600万年分の株価としても、Facebookが倒産すれば紙くずとなる「リスクマネー」であり、エンロンやJAL、IT企業で言えば旧「ライブドア」の例を見るまでもなく、時価総額とは「ふ~ん、そうなんだ」ぐらいの価値しかないと、旧ライブドアの紙切れ……もとい、株券から学びました。
ところが、メディアはいつも「大型上場」に浮かれはしゃぎます。しかし、上場により業績が傾くこともあるのです。
上場の最大のメリットは「資金調達」です。上場企業の株価には「将来利益」が反映されます。例えば、資産と純利益が100万円の会社が1万円の株券を100枚発行すれば「額面通り」です。この会社が100倍の規模に成長すれば、1万円の株券は100万円の価値を持ちます。
このように、将来にわたり有望と見られている企業の株価は高まり、Facebookが上場と同時に巨額の資金をゲットできるのは将来利益への期待からです。また、株式により調達した資金に「利子」の支払いどころか元本の返済すら不要です。「配当」は儲かった時だけ支払えばよく、それは馬券や宝くじとまったく同じ構図で、経営者にとっては都合の良い資金といっても過言ではありません。
いまだ上場している企業も関係しておりますので、業種は「架空」とご理解ください。リサイクル業を営むA社は、独自の買い取りシステムと販売ノウハウをもとにフランチャイズ展開していました。当時、大手が存在しなかった業界であったこととドミナント(地域集中出店)による展開が功を奏して、株式上場に漕ぎ着けました。社長を「オヤジ」と呼ぶような中小企業から大企業へと転換しなければならないと、上場を前に入社してきたアドバイザーに諭されます。
そこで、各店長の「頑張り」に依存した運営体制が改められます。コンプライアンスの観点から全社員が完全週休2日制となり、残業時間も制限されます。企業ガバナンスから指揮官は前線に出るべきではないと、店長は現場作業を禁止され、アルバイトの管理が主業務となります。これらは、企業の本来あるべき姿と言えるかもしれません。しかし、それはこの仕組みで利益が出ればの話です。
極論すれば「商品を売って利益を出し、利益から投資する」というサイクルが確立できている企業に「上場」は不要です。サントリー、リクルート、YKK。言わずと知れた大企業ですが、どれも「非上場」です。
上場前のA社には、このサイクルがありました。店長は客の声に耳を傾けて率先して働き、利益が出なければ経費を抑える努力をしたものです。ところが上場後、社内のルールが整備されるにつれ、サイクルが崩壊します。コンプライアンスの観点からと社員の週休2日を堅持するためにアルバイトを過剰に採用し、ガバナンスを確立するために店先の蛍光灯が消えていても「バイトの仕事」と店長はスイッチすら入れなくなります。
それを支えたのが「上場」で得た「資金」です。
先に述べたように、上場で得た資金は返金する義務はありません。「株式買取請求権」というものもありますが、これは額面を保証するものではありません。新興市場の場合、「成長性への期待」が強く、短期的な赤字にはしばし寛容であったことも災いしました。その寛容さが上場で得た資金を食い潰す時間を与え、コンプライアンスとガバナンスが定着した結果、見事な「赤字体質」となった「上場0.2」です。社員が休むためにアルバイトを雇い、アルバイトの勤務表を作るだけの社員ばかりで利益が出るわけがありません。
身の丈に合わない資金を手にして、経営の優先順位を間違えたのです。上場直前のFacebookが先日、写真共有サービスのInstagram(インスタグラム)を10億ドルで買収しました。巨額の資金を手にした(する)IT企業が、同業のベンチャー企業をマイケル・ジャクソンの買い物のように買い漁るのはグーグルを見るまでもありませんが、ベンチャーキャピタルが買収決定の前週に下した評価額は5億ドルだったと言います。つまり、1週間で倍の値段をつけたのです。
ちなみに、インスタグラムは「売上ゼロ」です。一方、Facebookがアメリカ証券取引委員会 (SEC) に提出した2011年の利益は10億ドルであり、牛鍋丼2,600万年分・1000億ドルの評価には100年分の将来利益を織り込まれているということです。
急騰する物件価格、それを金に糸目をつけずに買い漁る新興企業、遥か未来の利益まで織り込まれた株価を重ねた時に「バブル」という文字が脳裏に浮かんで消えません。そして、バブル経済とITバブルのそのどちらにおいても、民衆を煽っていたのは「メディア」です。なお、A社の株価は上場直後の高値から20分の1で低空飛行しています。
エンタープライズ1.0への箴言
「3度目のITバブルに要注意」
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。
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