私、ツイッターやめました

昨年末にツイッターを止めました。アカウントは継続していますが、コミュニケーションをとったり、タイムラインを眺めたりすることをやめたのです。きっかけは別の連載で書いたので割愛しますが、ライフスタイルとビジネスモデルから見て重要ではないと気がついたことが理由の1つです。

そもそも、その日、その時の行動をネットで晒すことを好みません。「原宿なう」と居場所を公開するメリットもあるのでしょうが、毒の多い文章を書いている身からして居場所を晒すのは非常に危うい行為ですし、誰かの意見を常に拝聴するような殊勝な心を持っていたら、毒入り文章など書けはしません。

また、自宅に事務所を併設しているので通勤時間の暇つぶしも不要で、たまの電車移動時は「積ん読」していた書籍を読破するための貴重な時間と活用しています。ビジネスモデルも異なります。執筆活動を除けば、取引先の大半が地元企業で、スーパーマーケットで会ってお総菜コーナーで打ち合わせするほどの近しさのなか、わざわざネット回線を経由して接する必要がないのです。

要するに向き不向きの問題ですが、ツイッターに適しているのに活用されていない業界が「携帯電話販売業(ショップ)」です。その理由は彼らのビジネスモデル……いや、業界構造にあります。

沈黙を守る携帯キャリアのアカウント

地元の某キャリア(携帯回線会社)のショップからフォローされたのは2年前。ちょうどこのキャリアの社長が当時放送されていた大河ドラマに傾倒し、「ぜよ」をツイッターで連発していた頃です。

「地元の商売が活気づくなら」と、頼まれてもいないのにツイッターのダイレクトメール機能を使い、活用法についてアドバイスをしました。しかし、余計なお世話だったのでしょう。一言の返信もないどころか、アカウント取得から半年後にツイートが停止していました。

それでは他の販売店はどうかと、同キャリアの店舗をランダムに抽出した100店を調査しました。2月中旬の調査日より1週間以内にツイートがあったアカウントを「継続中」として、これが27店。1ヵ月以内に拡げても37店しかなく、63店のアカウントは沈黙していました。

1日の平均ツイート数は1回より少なく

ツイッターで客と触れあっている店舗はとても珍しく、1日平均ツイート回数は0.77回でほとんどが割引サービスやキャッシュバックの告知です。「継続中」の27店に絞ってみても平均0.81回で、これではツイッターの醍醐味であるコミュニケーションがとれるわけがありません。最も平均ツイート回数が多いショップでも2.95。そして、2回を超えたのはこの1店舗だけでした。

あるショップの店頭では、スタッフが熱心にスマホを勧めています。耳を澄ませて聞いていると「スマホなら、今話題のツイッターもできます」とのこと。

しかし、これは真っ赤な嘘。いわゆる「ガラケー」でもできます。もっとも、「○○なう」とつぶやくことはガラケーでもできますが、使い勝手の面からスマホに軍配が挙がることは間違いありません。しかし、ツイッターができるとスマホを勧めるショップがツイッターを活用できていないというのは0.2な話です。活用の実態は先ほど紹介したツイートの平均件数に如実に表れています。

ちなみに、携帯ショップのツイッターの平均寿命は434日。最も少ないツイートは390日間で5件、1日17回と最多を記録したショップのツイート寿命は1日でした。燃え尽きたんでしょうね。

ショップ間の競争が重要というカルチャー

先に取り上げた地元のショップは、8ヵ月の休止を経て昨年3月よりツイートを再開し、休みながらも間もなく1年を迎えます。内容は宣伝ばかりで、在庫情報と割引キャンペーンの繰り返しです。ショップの現場は雑事が多いからツイートができない……というのは言い訳です。平日の午前中など来客の少ない時間も多く、入れ替わり立ち替わり接客が求められるコンビニなどとは違います。

また発信するツイート、いわゆる「ネタ」も、使用方法や活用術など尽きることはなく、ショップはツイッターに「向いている商売」なのです。しかし、活用されないのは彼らの業界の構造にあります。

儲けのカギは「インセンティブ」と「端末」です。インセンティブとは通常の販売手数料のほかに支払われるボーナスのようなもので、端末を0円で売っても儲かる理由の1つです。また、かつての「Nシリーズ」、今なら「iPhone」のように、店頭に並べるだけで売れる商品を仕入れることができれば「儲け」は約束されます。端末の供給をキャリアがコントロールしている日本の携帯業界の特徴です。

そして、○○ショップとはフランチャイズのような仕組みで、「××駅東口店」と「××駅西口店」で経営者が異なることは珍しくありません。また「○○ショップ」の運営企業が「××ショップ」を営業していたり、複数のキャリアを店頭に並べて取り扱う「併売店」を運営していたりすることもあります。さらに同じキャリアの同じ商品でも仕入れ先が異なることもあり、A店とB店で商品在庫に違いがある理由はこれです。

つまり、キャリア間の競争に加えて、ショップ間での争いがある構造から、彼らの顔は業界にしか向いていません。つまり、そもそも客を向いて商売をするというカルチャーがない……とは言い過ぎでしょうか。しかし、これが、最もツイッターに向いているといっても過言ではない業界で、ツイッターが活用されない大きな理由であることは間違いありません。

エンタープライズ1.0への箴言


「ツイッターには向く業界とそうでない業界がある」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi