「あらたにす」の終了の意味するところ

朝日、日経、読売各紙の一面ニュース・社説などを読み比べできるサイト「あらたにす」が来年の2012年春にサービスを停止します。鳴り物入りで始まった各紙のコラボレーション(コラボ)ですが、発表によれば新たに「ANY連絡協議会」を新設して3社の協力体制を強化するのに伴っての停止といいます。まるで発展的解散のように語っていますが、Web業界の常識に照らせば実状が透けて見えます。

企業サイトの成否を冷徹に見極める基準は収支です。物販サイトではなくても、多くの訪問者が見込めるサイトは広告的価値が生まれ利益をもたらします。あるいは、サイトから自社サイトに誘導することで、本業の利益増加を期待する運営方法もあります。

つまり、いずれかの方法で利益が上がっているサイトを停止することは利益をドブに捨てるようなモノなのです。「報道機関」として利益よりも大切なものがあり停止するというのでしょうか。ならば、協力体制の強化にあたり、「あらたにす」は「報道機関」のを足を引っ張っていたという告白。つまり、どちらに転んでも「失敗コラボ」だったということです。

税理士が考えたコラボとは?

振り返れば、「あらたにす」が始まった2008年頃、日本中が「コラボ」ブームでした。有名ラーメン店とコラボしたカップラーメン、萌え系イラストがラベルとなった日本酒やお米が登場し、メディアを賑わせていました。当時、さまざまな企業の会議に顔を出すたびに「コラボ」という言葉が飛び交っていたものです。

税理士のKさんもコラボに乗った一人です。Kさんの顧客は中小企業を中心とし、不景気の続く21世紀、どこに行っても良い話を聞くことはありません。税理士という商売は、適切な節税をアドバイスすることはできても、お金のない会社にとっては必要とされません。納税するほどの売上がなければ、節税の必要がないからです。

決算書や確定申告の書類作成も、インターネットを中心にリーズナブルな料金で代行する会計会社が増えましたし、「弥生会計」などのソフトを使えば素人でもできます。第一、当たり前のことですが、決算や確定申告書類の書き方に申請の仕方は、地域の「税務署」に行けば教えてくれますし、最近の税務署は驚くほど丁寧に応対してくれます。

誰も辿り着けないコラボサイト

そこで「コラボ」に目をつけます。地元の異業種交流会のメンバーに声をかけ、中小企業専門のコラボ情報交換サイト「相乗効果(仮称)」を立ち上げました。各企業の得意分野によるコラボが狙いです。日中忙しい経営者のために、ネット上で情報交換できるようにし、外部からの参加も自由としました。サイトもコラボで作成します。地元の信金が主催する勉強会で知り合ったホームページ製作業者を「コラボが活発になれば、ホームページの受注に繋がる」と口説いて無料で製作させたのです。

Kさんが夢見たのは、メンバーの自発的な活動により生まれるコラボです。参加企業の活動に触発され、サイトを見た外部の企業が加わり生まれるケミストリー(化学反応)。そしてコラボが成立した頃合いを見て、利益の分配や決算の方法などを税理士の立場を利用して口を挟み、顧問企業を増やす目論見は見事に失敗します。

異業種交流会のメンバーは20社弱。中小企業経営にも少子高齢化の波は訪れており、主要メンバーはみな老人で、インターネットを積極的に活用する世代ではありません。外部の参加も自由とはいえ、具体的な目的や固有名詞を持たないサイトを第三者が発見することは困難です。検索エンジンに入力するキーワードは「具体的な欲求(目的)」であり、漠然としたコラボサイトに辿り着くことはありません。単純な話、サイトの利用者が少なかったのです。

おこぼれだけを狙ったコラボではダメ

まず、ホームページ製作業者がフェードアウトしていきました。無料で引き受けたコラボサイトの更新ばかりでは1円も儲かりません。そして次に消えていったのは、なんと発起人のKさんです。そもそも、Kさんが提供できる「業務」は税務だけで、すなわちそれは「本業」で、「無料相談」を繰り返しても利益が出ないことに気がつき、放り出した「コラボ0.2」です。

成功例からのおこぼれだけを狙った片務的なコラボなど、成功するわけがありません。その後、「相乗効果」は異業種交流会のオフィシャルページへと「発展」し、静かに役割を終えました。

かつて、私もさまざまな企業からコラボの提案を受けました。Kさんの依頼のようにサイトを無料で作れと言うものから、アイデアを出せ、人脈を貸せまで多様ですが、すべてに通じたのが「依存」、すなわち片務的コラボです。

自分以外の誰かに頑張らせることで、そのおこぼれを頂戴しようとする目論見は「あらたにす」にも感じます。これは想像にすぎませんが、それぞれの読者をサイトに集めて読み比べさせることで、あわよくば自社に鞍替えさせる下心で始まったのではないでしょうか。

「あらたにす」には別の問題もありました。サイトの特徴である「読み比べ」とは、「各紙が一面や社説に何を取り上げるか」という「ニュースバリュー」の判断も見所と考えたのでしょうが、そこに興味を持つのは新聞の関係者ぐらいで、企画自体が「新聞業界」という狭い世界の「コラボ0.2」だったのです。いっそ、読み比べなら「産経新聞と琉球新報(読み比べると違う国の新聞のようです)」で行えば、ネットの住民に「燃料投下(盛り上がるネタを提供すること)」できたのですがね。

エンタープライズ1.0への箴言


「片務的コラボは必ず失敗する」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi