エコロジーにみる矛盾

消費電力の少ない電化製品購入すると特典がつく「エコポイント」に、CO2排出量の少ない自動車の購入を優遇するエコカー減税が始まりました。米国ではグリーンニューディールが叫ばれています。景気対策として取り組まれるこれらを見ていると、21世紀は「エコ(環境)の世紀」という主張に頷き、「フォーエバー21」に長蛇の列に首をかしげます。

フォーエバー21とは原宿に国内1号店をオープンしたアメリカのファストファッションチェーン店で、流行を取り入れたファッション性に、全てをコーディネートしても1万円で収まるという安さが人気を集めています。フォーエバー21の他にも同じくアメリカから来たH&Mも盛況で、国内勢もシマムラ、ユニクロが元気です。

流行には旬がありクローゼットの収容能力には限界があります。最近の洋服は丈夫でワンシーズンではボロボロにならず、20年目に突入したDCブランドのトレーナーを愛用する私はこう呟きます。

「エコはどこいった」

ロゴ入りの袋一杯に買い込まれた洋服達の将来が気になりますが、消費を否定するものではなく、理想と現実の違いを明示するサンプルだということです。そして、ITでは理想と現実の交差点が迷宮の入口です。

タイガーのショット並みのキャリー

地域の企業が集まり運営する互助団体がホームページを開設することになり、制作業者が呼ばれました。代表者のT会長は参考にしたサイトのプリントアウトを手にリクエストを伝えます。動画を取り入れ、リアルタイムに情報更新でき、会員企業の交流を促進し、毎月発行している会報誌をアーカイブし、スタッフ専用ページで情報共有したいといいます。業者は「なるほど」と頷き予算を尋ねると、ゼロが1桁足りません。ざっと見積もっただけで、タイガーウッズの放つドライバーショット並みに予算をキャリーで越えていきます。

理想のサイトを考える際に、予算という現実が置き去りにされることはよくあることです。コンテンツ制作費用について説明し、予算内で可能なサイトを次回の会議で提案することになりました。

会議も終わりかと思われたとき、おもむろにT会長が「大切なことを忘れていた」といいます。個人情報保護法の施行に伴い、当団体でも情報管理に取り組んでおり、ホームページの開設には「自社サーバの設置」が必須だといいます。レンタルサーバでは情報漏洩のリスクがあるというのです。

セコムしてません

制作業者は会議室を見渡し、ここまでの道のりを思い出します。バブル以前に立てられた建物を囲う壁は低く、防犯カメラはありません。入場を制限するゲートはなく、建物をはいっても警備員も受付嬢もいません。玄関から事務所までに人影はなく辿り着いてノックした事務所の扉は木製です。扉を開けると事務所の全てを見渡せます。 会議室はその隣にあるのですが、安普請のパーテーションで区切られているだけで話し声が漏れてしまいます。ここにサーバをたて、情報漏洩を防ぐためのセキュリティを施すとしたら、ホームページ制作業者ができる見積もりの領分を越え、建築業の領空を侵犯します。制作業者は訊ねました。

「セコムしてますか?」

警備サービスを導入しているかの問いにT会長は「とられるものもないから必要ない」といいます。サーバは24時間365日稼働させなければならず、突然のトラブルへの対応が欠かせません。ネットに詳しい人がいるのかと訊ねます。すると「詳しいものがいれば君を呼ばないよ」と笑い飛ばします。

つまり、セキュリティが担保されていない場所にサーバを設置し、一人も専門家がいない状況で情報漏洩を防ぐということです。

専門家の意見という偏り

エコロジーが至上命題とはいっても、靴下のほつれを繕い、つぎはぎだらけのスーツを着ろというのは、100円ショップで靴下が買え、百貨店の松屋銀座に9800円のスーツが吊されている現代日本では非現実的です。「情報」だけが流通するITの世界は特に理想論に流されやすく、特にサーバやセキュリティー関係者の唱える「安全」とは職業倫理観からくるのか、一般的には粘着質とも思えるほどのこだわりで装飾されています。

会議前にT会長は「ネットで検索」し、これらの「専門家」の意見から自社サーバに固執したのです。

しかし、自社サーバ設置が情報漏洩防止になるというのは机上の空論です。情報が漏れるのは、ネット上よりリアルな人間の手によるものが圧倒的に多いからです。自社サーバのある場所に誰でも出入りできるのなど論外です。

また、外部からの不正アクセスは自社サーバだからといって見逃してはくれず、対応する専門家がいなければやられ放題。ならば「レンタルサーバ」のほうが安全で現実的です。

専門家は自らの「スキル」と「モラル」を基準に語りますが、それが一般的には現実にそぐわないことは多いのです。

サーバ設置には「室内改修」という課題が見つかり、会議の延長が宣言されました。理想に固執すると議論が迷宮入りします。エコポイントもエコカー減税も今使っている家電やクルマの「廃棄」に目をつぶり実施しているように、現実的な妥協は大人の智慧です。

エンタープライズ1.0への箴言


「ネットは理想への偏りがある。反対意見も検索して比較するべし」