当たり前のことだが、百組の夫婦には百通りの馴れ初めがある。だから、それらを細かく聞きだしてみると、これはもう小さな恋愛ドラマを楽しむような感覚を味わえる。自分の人生という実録ドラマにおいては、誰もがみんな主人公なのだ。

中でも、知人であるA君の馴れ初め話は興味深かった。彼が現在の奥様と初めて出会ったとき、彼女には付き合って何年にもなる恋人がおり、A君はその男からの"略奪愛"に成功したという。それも、ただ強引に口説き続けて、彼女をついに寄り切ったという単純な話ではなく、その"略奪愛"の裏には実にしたたかな計算があったのだ。

どんなカップルにも恋愛の倦怠期、その時期の見極めが"略奪愛"成功の鍵

一般的に、"略奪愛"を達成する上で、略奪したい異性の心は"難攻不落"のイメージがあるだろう。相手に恋人がいることがわかった時点で、早々と諦めて恋愛対象から除外する人も少なくない。実際、相手がその恋人と順調に付き合っているときは、どんなに強気で口説いても効果がないはずだ。

ただし、である。どんなカップルにも一度くらいは恋愛の倦怠期、停滞期というものが訪れるもので、その時期を狙って略奪作戦に打って出れば勝機はあるのかもしれない。A君曰く、その時期を確実に見極めたことが自らの成功につながったという。

奥様と出会ったばかりのころのA君は、この見極めのために"ある作戦"を実行したのだが、その内容にまず驚かされた。賛否両論あるだろうが、今となっては奥様も笑い話にしているため、どうか寛大な心でお読みいただきたい。

相手の警戒心を解く「架空の彼女作戦」を発動

その作戦とは、A君が彼女に対して「自分も長く付き合っている彼女がいる」と嘘をついたことである。つまり、自分のことを当時の奥様と同じ境遇に置いたのだ。

この嘘設定に信憑性を加えるため、A君は自らのケータイにどこからか勝手に拾ってきた「架空の彼女」の写真を保存。そして、「君も彼氏いるんだ? 俺も彼女がいるんだけどね」と言いながら、その写真を白々しく彼女に見せたという。

これによって、彼女はA君のことを男女の垣根を越えた友達として認識するようになった。本来なら、特定の恋人がいる手前、他の男性と二人きりで会うことに躊躇してしまうが、A君にも彼女がいるということが絶好の言い訳になったのか、彼女はやましい気持ちを感じることなく、A君と二人で食事するようになったのだ。

A君の狙いは、まさにここであった。A君曰く、略奪愛を成功させるために最初に超えなければならないハードルは、恋人のいる女性にありがちな「他の男性に対する警戒心」を解きほぐすことだ。まずは男女の別なく友達になり、その後は時間をかけて略奪のタイミングをゆっくり待つことが、結果的には一番の近道だという。

次に繰り出したのは「架空の悩み」作戦、相談しながら好意を伝える

そして、次にA君が繰り出した作戦は、自らの恋愛相談である。A君は「架空の彼女」に対する「架空の悩み」を、当時の奥様に真剣な顔で相談したのだ。

また、その相談内容もすごい。まずは「架空の彼女」の性格が奥様によく似ているという設定にし、事前に「俺の彼女は君とよく似ているから、アドバイスが参考になる」と印象づけておいたという。しかし、その上で「架空の彼女」には唯一の欠点があり、そこが悩みの種であると告白。具体的には「俺の彼女は君と同じで、家庭的でしっかりしているんだよ。そういうところは好きなんだけどねえ……」と言うことで、暗に「君のことも好きなタイプなんだよ」というメッセージを伝え、その後で「だけど、君と大きく違うのは、女性としての色気がないところなんだよね」と補足する。つまり、「架空の彼女」の唯一の欠点を補っている存在が、奥様であるとアピールしたということだ。

A君がこうしたことで、当時の奥様はおおいに優越感をくすぐられた。「この人の彼女より、わたしのほうが女として上なんだ」と誇らしい気分になっただけでなく、「この人はわたしに少なからず好意を持っている」という意識も芽生え始めたという。

この段階になると、A君もずいぶん大胆になり、「俺の彼女より君のほうがはるかにいい女だよ。もっと早く君に出会っていればなあ」といった台詞も冗談交じりに発するようになった。挙句、「俺も彼女と別れるから、君も彼氏と別れちゃえよ。俺たちが付き合ったほうがうまくいくんじゃねえ?」といったダイレクトな告白までするようになった。

後はじっくりタイミングを待つだけ…「逆相談」受けた時点で勝利の道

A君曰く、後はタイミングをじっくり待つだけだったという。すなわち当時の奥様が恋人と喧嘩したり、マンネリ気味になってきたりする時期を正確に見極めることに尽力したわけだが、それは意外なほど簡単にわかったらしい。当時の奥様はそれまでA君の恋愛相談を散々受けてきたわけで、だからこそ自分が同じ立場になった途端、「今度はわたしのほうが彼氏と気まずい感じなっちゃって……」と逆相談してくるようになったのだ。

さあ、いよいよ略奪チャンス到来ということだ。A君は待っていましたとばかりに彼女の恋愛相談にのり、その中で「君を悲しませるなんて最低だ」といった定番の口説き文句を連発。そしてダメ押しに「自分も(架空の)彼女と別れた」と告げたわけだ。

こうしてA君は略奪愛に成功し、やがて彼女と結婚に至った。先述したように、この作戦には賛否両論あるだろうが、その一方で確かに論理的で実用度は高いと思う。幸せな結婚を果たすためには、ある程度の狡猾さも必要なのかもしれない。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち)
小説家・エッセイスト。1976年大阪府出身。早稲田大学卒業。『神童チェリー』『雑草女に敵なし!』『SimpleHeart』『芸能人に学ぶビジネス力』など著書多数。中でも『雑草女に敵なし!』はコミカライズもされた。また、最新刊の長編小説『虎がにじんだ夕暮れ』(PHP研究所)が、2012年10月25日に発売された。各種番組などのコメンテーター・MCとしても活動しており、私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。

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