みなさんこんにちは。エンジニアが持つすばらしき「シェア文化」の背景に迫る連載の第4弾。前回に引き続き、エンジニア特化型Q&Aサイト『teratail(テラテイル)』のトップ回答ユーザーへのインタビューを通じ、「なぜそこまで自身の知識やノウハウをシェアするのか?」を探っていく。
今回は、iOSアプリ開発関連の全てのタグにおいて、常に上位ランクをキープしているjollyjoester氏に話を伺った。
jollyjoester氏iOSアプリ開発エンジニア。Repro所属。業務系Webシステムの開発に従事後、”野良エンジニア”として独立。受託開発やアプリ開発スクールの講師などを務め、現在に至る。共著書に「世界一受けたいiPhoneアプリ開発の授業」(技術評論社)がある。2015年よりSwiftユーザーのコミュニティ「Swift愛好会」を主催しており、『teratail』エキスパートユーザーの1人 |
無駄な苦労をするのは俺で終わり
--よろしくお願いします。最初に、普段どんなお仕事をされているか教えてください。
『Repro』というモバイル向けのアナリティクス&マーケティングサービスを提供するRepro株式会社でDevRel(Developer Relationes)担当をしています。DevRelとは、サービスと外部の開発者をつなぐ繋ぐ技術者向け広報のことです。『Repro』の導入方法や使いかたについてチャットでリアルタイムにサポートしたり、『Repro』についてもっと知ってもらうための勉強会を開催したりしてます。
--Repro社ではずっとDevRelを担当されているのですか?
いえ、2015年の秋ごろからですね。それまではずっとSDKの開発をしてました。ところが、『Repro』のようなアナリティクス系のサービスは使い始めが難しかったり、そもそも導入でつまず躓いてしまうケースが多かったりします。だから、我々が細かな導入サポートを行い、お客様にきちんとサービスを使ってもらったうえで評価してもらうことが大事なんです。最初はチームのエンジニアみんなでサポート担当を順番に回していたのですが、サポート体制を強化するために僕が専属になりました。さらに僕にはスマホアプリ開発の講師やさまざまな勉強会での登壇経験があったので、その経験を活かしDevRelとして『Repro』を広めていく役割もするようになりました。
--スマホアプリ開発の講師もされていたんですね。
はい、Repro社に入る前にやってました。学生時代は塾講師もしていたので、もともと「誰かに何かを教える」ことが好きだったんだと思います。ちょっとしたポイントさえ抑えてしまえば、実は簡単に次に進めるのに、そのポイントを自分だけではどうしても見つからなくて諦めてしまうことってありませんか?それってもったいないと思っていて。そういった”ハマりどころ”とその解決策を伝えることで、困っている人の悩みがスッと解消される瞬間を見るのが楽しいんです。困っている人たちがハマったポイントは過去に僕自身もハマった箇所ばかり。「無駄な苦労をするのは俺で終わりにしてくれ~!」なんて思っちゃいますよね。
teratailに回答して「やる気」を仕入れる
--jollyjoesterさんは『teratail』初期ユーザーでもあり、これまでに200件以上の回答を投稿してくださってますが、どんなときに回答を投稿されますか?
だいたい業務で疲れたときですね。けっこう大変な業務が終わって一息ついたときや、逆に行き詰まってニッチもサッチもいかないときに『teratail』を覗いてることが多いです。特に今はサポートの仕事が増えてきて自分で実装する機会が減ってしまったので、技術の課題に取り組める良い機会になっています。擬似的な課題を『teratail』の質問の中から拾い、それにチャレンジして回答する。その流れがいい気分転換になっています。
特に、1年ほど前のReproに入社したての頃はかなり使ってました。入社前はアプリ開発を本業でやってたんですが、Repro社に入ってからはSDK開発を担当することになって。ライブラリ開発なので今までの業務とはレベルが違うんですよね。それが最初は辛くてつらくて(笑) でも『teratail』を見ると、自分が過去に躓いたところで困ってる人や、自分でも解決できそうな質問がたくさんあって。「この領域なら活躍できるぞ!」と回答していると、「自分も役に立ったな~」とモチベーションが上がるんです。その後本業のSDK開発に戻って、また打ちのめされる・・・・・・そんなサイクルで奮闘していました(笑)
--未経験な領域への挑戦と、すでに自分が持っている経験をアウトプットして他の人を助ける。この2軸でバランスを取っていた時期だったのですね。
はい、なんかこう…『teratail』でやる気を仕入れて、会社に全部売るみたいな。
--「やる気を仕入れる」って言い回し素敵ですね!
そうですね。当時だと、1日1~2問ずつ回答していくと、気づけばランキング上位になっていて。それもまた『teratail』で回答するモチベーションになってましたね。
誰かに教えることで、「使える」だけだった技術が、「理解して使える」に
--回答するときの一番のモチベーションはどこにあるのでしょうか?
単純におもしろいんです。小さい課題を解いていくドリルみたいな感覚で、解くこと自体が楽しい。そして結果的に「ありがとう」と言ってもらえれば、+αとして嬉しくなります。
加えて、自分の勉強になるという点もいいですね。たとえ自分で解決できる問題であっても、答える際には、言葉遣いに気を配ったり、回答の裏取りを行ったりといった作業が結果的に自分の勉強になるんです。自分が知ってるつもりだったことがより明確になっていきます。
自分で開発しているだけだと、特に忙しいときは動いちゃえばOKと思ってしまい、改めて「それって何で動いてるんだっけ?」ということを抜かしてしまうこともしばしばあるんです。”使える”だけだった技術が”理解して使える”レベルになるのが、回答してていいなと思うところですね。
--どんな質問に回答されますか?
パッと見て、そこそこ簡単に解決できそうな課題ですね。質問者は悩んでるけれど、僕が調べれば5分くらいで解決できそうな質問をサッと調べ、自分のパソコンうえで裏取りをした上で回答します。
--なるほど、基本的にはサクッと回答できるものを選ばれているのですね。とはいえ、ついつい時間をかけて答えてしまう質問もあるのでしょうか?
あります。簡単に解けると思って調べ始めると、意外とハマってしまって、意地になって最後まで回答するパターンとか。本業の息抜きのつもりだったのに、なんでこんなに時間をかけてるんだろうと思いつつ、負けられない戦いがそこにあるっていう(笑)
また、一度質問に回答すると、質問者とのコミュニケーションが発生するので、礼儀正しい質問者の場合は、本人が納得するまでお付き合いしたくなっちゃいます。
--本当に困ってる質問者にたまたま触れ合うと、やはり最後まで気になってしまうんですね?
そうですね、一度触れ合っちゃったら(笑)ちょこっとだけ声をかけたのに「俺やっぱ無理だわ~」とは言い難いので。
--回答するときはどんなことを心掛けられていますか?
「そのくらいググレよ」と言われそうな質問だとしても、きちんと回答するのが僕は好きです。質問する側が勉強不足だと感じるような質問でも、丁寧すぎるくらいの回答をして、相手がしっかり納得してくれることが大事だと思っています。あと「ここをこう直せばいいよ」という結論だけの回答はしないようにしています。そういった回答しかついてない質問をみると、「こういう理由でこれが問題なので、こうするといいですよ」といった理由や背景なども含めた回答をかぶせます。
--なるほど。知りたかったことの背景まで情報を得られるのは、Q&Aサイトでの問題解決ならではの魅力ですよね。本日はありがとうございました。
世界単位で「無駄な苦労」をなくそうとするエンジニア界
jollyjoester氏の『teratail』で回答する理由をざっくりまとめてみると、下記3点のようだ。
【1】ゲーム感覚の楽しさがモチベーションアップへつながる
単純にドリルを解くようなゲーム感覚的な楽しさがある。業務などで行き詰まってしまったときにはいい気分転換になったり、モチベーションアップにつながったりもする。
【2】質問者とのコミュニケーション
回答することで質問者から「ありがとう」を言われるのは素直に嬉しい。礼儀正しい質問者にはついつい長時間かけてコミュニケーションを取ってしまうことも。
【3】結果的に自分の勉強にもなる
回答する際の根拠となるポイントを再調査することで、「使える」だけだった技術知識が「理解して使える」レベルになる。
筆者がインタビューの中で一番印象に残ったのは、「無駄な苦労をするのは俺で終わりにしてくれ」という言葉。自身のチームや社内といった狭い範囲に留まらず、世界中のエンジニアが抱える”無駄な苦労”を失くしたいというjollyjoester氏の強い思いの現れであろう。これは、彼1人に限ったことではなく、世界中のエンジニアが公開しているブログ記事やライトニングトークの発表内容などからも見て取れる。まさに「転ばぬ先の杖」なTipsは、毎日、世界中から世界中へと発信され、共有されて続けている。この、コミュニティの枠を超えた日々の知識共有こそ、エンジニアの素晴らしき「シェア文化」ではないだろうか。
次回は、さらにもう1名の『teratai』上位ランカーに焦点をあて、別の角度から「シェア文化」の背景を探っていく。さらにその後の回では、国内エンジニアのコミュニティ文化を形成されてきたスペシャルゲストに、シェア文化のルーツを語ってもらう予定だ。次回もお楽しみに。
執筆者紹介
木下雄策
1988年生まれ、福岡県出身。エンジニア特化型Q&Aサイト「teratail」のDevRel(技術者向け広報)担当。2013年にレバレジーズに新卒で入社し、1年でトップ営業マンとなった後、現在のteratailチームにジョイン。年間30以上のエンジニア向けイベント/勉強会を開催している。好きなものはJavaScript(ただしド素人)とスノーボード。