間違うのは日本人だけではないにせよ…何か見分けるコツはあるんでしょうか

いつの間にか6月となり、子供たちの学校はあと1週間もすると夏休みに突入するころとなりました。ちまたでは、"Have a great summer!"という挨拶がかわされるようになりました。親としては、ほぼ3カ月もある長過ぎる夏休み中に、子供に何をさせていかに乗り切るかが毎年の課題となっています。さて、そのsummerという名詞ですが、"a summer"とすべきでしょうか、それとも常に"the summer"なのでしょうか。わかっているつもりでも、改めて聞かれるととっさに答えられない方が多いのではないかと思います。今回はarticles(冠詞)の話をしましょう。

英文を書いていると、なんとも不可解なのがa/an、theの存在と、これらをまったく付けないときがあるというarticlesの使い方です。このようなarticlesについては、何度も文法を勉強してルールはわかっているはずなのですが、いざ英文を書きはじめると、何にするべきなのかどうしても迷います。さんざん考えたはずなのに正しく使えていないこともよくあり、まったく悩みの種です。この、日本人を悩ませるarticlesですが、英語のネイティブスピーカはどうやら間違えないようです。おそらく日本人が日本語の「てにをは」を間違えないのと同じではないかと思うのですが、言葉を覚える過程で染み付いた感覚なのでしょう。間違った使い方をしていると"sounds strange"とすぐに感じるようです。

正しくarticlesを使えないのは日本人ばかりではありません。たとえば、JRubyのコミッタとして有名なスウェーデン人、Ola Bini氏のブログ"Ruby doesn't have meta classes"のエントリをじっくりと眺めてください。Ola Bini氏は英語で書籍を書かれていますし、現在は英国で仕事をされていて、英語にはかなり堪能なはずですが、推敲されていない文章にはarticlesの間違いがあります。最初のパラグラフの最後の文章ですが、countable nouns(可算名詞)である2つのclassという単語にa/an、theが何も付いていません(この場合は両方ともtheが必要)。そして、2つ目のパラグラフの冒頭で出てきているmeta classはすでにこの話の中で触れられているので"a meta class"ではなく、"the meta class"とするべきところです。さらに"the behavior"ですが、これについては一度も触れていない上に、世の中で一意に決まる概念でもないので、"a behavior"とするべきところでした。

このように、外国人にとって難解なarticlesを使いこなすためにはどのようなルールになっていたかを何度も繰り返し確認して、自分の書いた文章を見直すしかありません。いくつものWebサイトに解説がありますが、特に参考になるのはPurdue大学のOWLにある"The Use and Non-Use of Articles"でしょう。ここにはExercisesもあるので、試してみてください。

Programとsoftware、数えられないのはどっち?

Articlesの使い方で日本人が注意しておきたいのは、日本語には存在しない複数形での表現です。複数形の概念が日本語にないわけではないのですが、日本語の文章を書くときに複数であることはとくに表現しないか、複数であってもあえて単数で表現するほうが自然です。私がarticlesやexercisesのように複数形で書いているところに違和感を感じてはいないでしょうか。日本語らしい表現ではたとえ英単語であっても単数形で表現し、おそらく冠詞のことをarticleと書くでしょう。

Countable/uncountable(可算/不可算)の区別もやっかいです。かつて、メキシコ人のクラスメートはfurniture(家具)がuncountableであることを知って驚いていました。数えられる/数えられないの概念は言語によってまちまちなので、そういった概念自身を翻訳する必要があるのです。名詞を見たら、あるいは使おうと思ったら、かならず辞書を引いて数えられるかどうかを確認することをおすすめします。たとえば、"program"は数えられますが"software"は数えられません。

ネイティブスピーカの冠詞の使い方に倣ってみる

このような難解な冠詞を正しく使いこなせるようになるには、できるだけ英語に触れる機会を多くすることです。本連載第48回で英語の歌で勉強する話をしましたが、ネイティブスピーカはどのようにarticlesを使い分けているかをColdplayの曲"Viva la Vida"で見てみましょうか。この曲はYouTubeにも投稿されていますが、現在、いかにもiTunesという感じの洗練された映像のTVコマーシャルが放映されているところです。本家、Coldplayが歌っているのを聞くのもいいのですが、ヒアリングという点ではColdplayersが歌っているカバーバージョンのほうが言葉がはっきりしていて聞き取りやすいかもしれません。Viva la Vidaの「盛者必衰の理をあらわす」という平家物語の一節を思い浮かべるような内容の歌詞を掲載しているサイトは多数ありますが、今回はこちらを参考にしましょう。

歌詞は"I used to rule the world"で始まっています。ありましたね、"the world"です。世界という意味でworldという名詞を使っていますから、あらかじめ触れていなくても一意に決められる意味なので"the sun"や"the earth"と同様に、definitive articleを付けて"the world"です。そして、すぐに"seas"とarticleなしの複数形がきています。特に限定していない、"いくつもの海"ですね。その後もthe word, the morning, the streets, pillars of salt, an honest wordなど、多数の名詞とそれに伴う/あるいは伴わないarticlesが現れています。これらひとつひとつについて、なぜそうなのかをOWL の解説を見ながら検証してみてください。おそらくarticlesの理解が深まるでしょう。

もうひとつ、スピーキングではどうなのかも見てみましょう。取り上げるのはGoogle App EngineのSDKを使うApp Engine互換アプリケーションコンテナのAppDropについてChris Anderson氏が解説しているビデオ"AppDrop / Google App Engine Talk @ PDX.rb"です。

Anderson氏の話し方は米国ではよく聞く、普通の人の口調です。Anderson氏は冒頭で

It's an application container, and right now, it's only hosting python apps. You upload the apps to it, and it handles all the rest. … That's the theory behind App Engine.

のように述べています。Articlesを理解するには、まず、nouns(名詞)を追いかけますから最初は"application container"に注目します。これは一般的なcontainerを指しているindefiniteな表現で、さらに母音で始まる単語の前に置くので"an"です。次に出てきた名詞は"apps"と複数形で、あのアプリケーションたちではなく、一般的なアプリケーションを指しているindefiniteなケースなので何も付けません。2つめの"apps"はすでに一度触れたappsを指しているので、今度はdefinitive articleの"the"が付きます。最後の名詞"App Engine"はproper noun(固有名詞)ですから何も付けません。……このように、きちんと使い分けられています。

難解なarticlesの話はいかがですか? 日本人が話す/使うのはしょせん、外国人の英語ですから、正確なarticlesの使いこなしができなくてもしかたがないのですが、理論だけは理解しておきたいですね。