【コラム】

エンジニアのための英語術

43 論理のルールに従って主張を整理する - 英語でプレゼンテーション その2

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まつもとさん、ネタにさせていただいてありがとうございます!

前回、Rubyのまつもとゆきひろ氏の英語のプレゼンテーションを取り上げましたが、読者の皆様はYouTubeで公開されている映像をご覧になったでしょうか。前回は、英語のネイティブスピーカにわかってもらえるプレゼンテーションにするためにはどうすればいいかを解説しましたが、これだけで実践するのは難しいかと思います。今回、もう一度、まつもと氏のプレゼンテーションを題材にして、どのように直せばいいかを具体的に見ていきたいと思います。なお、プレゼンテーションの本連載への利用に関してはまつもと氏の承諾をいただけましたので、心置きなく修正させていただきたいと思います。承諾していただいたまつもと氏に感謝いたします。

Thesisは必ず最初にもってくる

まずは、最も重要なthesisをどのようにして考え出すかです。これはたとえ英語ネイティブスピーカであっても簡単ではないのです。私が今勉強している英文ライティングのクラスでは、1人ずつ自分が書こうとしているエッセイのthesis statement(文章)を発表して、それが妥当かどうかをディスカッションする時間がありました。評価項目としては

  • 知的興味をそそるような質問に答えているか
  • ひとつの話題に集中しているか
  • 明確であるか

などがありますが、すべての用件をそろえたthesisはすぐには作れないものです。そのためにディスカッションをしてthesisそのものを修正できる時間を設けているのです。ちなみに私は、"In those days, money changed people's lives more than these days."を考えたのですが、これを聞いた米人は???という顔でした。どうやら、明確ではないthesis statementだったらしく、私が何を言いたいのか理解できなかったようです。ようやく、"more influential"と言ったほうがいいのではないかとのコメントをひとついただきました。

このようなthesis検討の場もなく、自分で考えないといけない場合は、とりあえず作ってみて、見直して、revisingを行う方法で進めるといいでしょう。そのためには、ただプレゼンテーションとその原稿を眺めていても進まないので、前回紹介した、mappingという方法を試してみます。

たとえば、まつもと氏のプレゼンテーションのスライドを元に図に書いてみると、図1のようになるでしょう。まつもと氏が3枚目のスライドを見せながら「Rubyの一般的な話と1.9の話をします」と言っているように、2つの大きなトピックがあり、ツリー構造のルートが2つあるのですが、これ以外はほぼきれいにツリーに収まっています。ただ、?マークをつけた2つのトピックは話が出てきた順番を考慮すると、うまくマッピングできる場所がありません。たとえば、YARVのperformance chartですが、Ruby 1.9のNew Implementationの流れで出てきたはずなのですが、chartが表しているのはRuby 1.8でのベンチマークです。Ruby 1.9のツリー構造の中にはマッピングできません。

マッピングした図を眺めると、やはりこのプレゼンテーションはRuby 1.9の話に集中するべきで、一般的なRubyのトピックはいさぎよく捨てるべきでることがわかるのではないでしょうか。ただし、有名な誰かの言葉を引用する方法はconclusionで使えるので、Communityのところ(40番目のスライド)で引用したMartin Fowler氏の言葉はとっておくといいかもしれません。ほかにも修正した方がいいところなどを書き込んだのが図2です。

図1

図2

それでは、残ったRuby 1.9を中心とするスライド構成を改めて眺めながら、thesis、つまりこのプレゼンテーションで主張したいことは何かを考えてみましょう。無視できないincompatibilitiesの問題が発生するにもかかわらず大きな仕様変更を行い、実装についてもYARVにしぼってパフォーマンス向上を果たしていることを考慮すると……「進化したRuby 1.9はプログラミングを楽にしてくれる」ことを主張するのがひとつのthesisとして考えられるのではないかと思われます。

これを聞いて、どこかで見たような内容だとお気づきでしょうか。そうです、最後のスライド、つまりconclusion(結末)でそのような内容の話をしています。実はこれはconclusionではなくthesisにするべき内容だったです。このように、thesisにして最初に言うべきだった内容がconclusionで現れるのは日本人にありがちな、"これこれしかじかだからこうだ"という流れが出ているところですが、英語ではこれをやってはいけません。一番言いたい「こうだ!」という内容がthesisになるはずで、最初に言うべきことなのです。まつもと氏は"selfish(利己的)"だとsarcastic(皮肉っぽく)に言っていますが、英語ではこれをselfishと片付けないでassertive(断固とした)な主張にするべきです。

トピック(main ideas)は、思い切って削る勇気も必要

次に、各トピックを眺めてみましょう。各トピックはthesisをreinforce、強固にするものでなければいけませんが、どうでしょうか。これをチェックするためにはマッピング図のRuby 1.9の丸に直接つながっている各トピックについて、次のような質問を考えてみるとわかりやすいかもしれません。

  1. クリスマスにリリースしたことによって進化したRuby 1.9はプログラミングを楽にしてくれる?
  2. New Features によって進化したRuby 1.9はプログラミングを楽にしてくれる?
  3. Incompatibilities によって進化したRuby 1.9はプログラミングを楽にしてくれる?
  4. New Implementation によって進化したRuby 1.9はプログラミングを楽にしてくれる?

2つめと4つめはthesisをreinforceしていますが、1つめは明らかに間違いです。3つめは字面からは間違いのような感じですが、その部分木にマッピングされているサブトピックや例などを眺めると必ずしも間違いでもなさそうな様子です。ただし、New Featuresとして紹介するべきだったのではないかと思われるものも多々見受けられます。Incompatibilitiesという単語にはnegativeなイメージがあるので、positiveなincompatibilitiesはNew Featuresにできるだけ動かして、pros and consのconsとして小さくまとめた方がいいかもしれません。

さて、実はひとつとてももったいないトピックが抜けています。6番目のスライド、Ruby 1.9 = Bleeding Edgeのところで、「design flaw(s)を直した」と、ほんとうにひとことしか言っていないのですが、この質問はどうでしょうか。

Design flaw(s)を修正したことによって進化したRuby 1.9はプログラミングを楽にしてくれる?

答えはもちろん"yes"ですね。これはひとつのトピックを設けて詳しく説明してもよかったところではないかと思います。

細かいところですが、33番目のYARVの実行速度は実際には50倍速くなっていないというnegativeな話がでています。事実かもしれませんが、パフォーマンスが向上したというポイントをサポートしていないので、英語という観点からすると、この話は削除するべきでしょう。また、34番目にFeelingという言葉を使って感覚的に速くなった話をしていますが、まつもと氏以外の人が同じように感じるかどうかわかりませんので、これは logical fallacy(論理の欠如)です。「常識では…」は有名なlogical fallacyですが、「感覚的には…」も英語では通用しないので止めましょう。

今回はまつもと氏のプレゼンテーションを題材にthesisを導きだして、内容をrevisingする話をしましたがいかがでしょうか。自分が作ったプレゼンテーションの問題点はなかなか見つけられないものです。一方、他人が作ったものは客観的に見られる分、悪い点に気がつきやすいので、誰かに見てもらうといいのではと思います。

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インデックス

連載目次
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第53回 重要なのは受け手を混乱させないこと - 定冠詞"the"再考
第52回 型破りの次期大統領候補・Barack Obamaが米国の若者をinspireした理由とは
第51回 日本人を永遠に悩ますa/an/theと複数形の使い分け
第50回 ブログ/SNSにも文化の違い - 日本でFacebookは受け入れられるのか!?
第49回 旅行/出張で気をつけたい"数字"に対する感覚の違い
第48回 歌詞に思いをはせて口ずさむ - 英語の歌でディクテーション
第47回 英語らしさを増してくれる"relative clauses"をもう一度
第46回 "だって飽きたから"で世界の経済をかき回したsubprime ledners
第45回 緊張感もほどほどに - 英語でプレゼンテーション その4
第44回 限られた時間を有効に使うための構成テク - 英語でプレゼンテーション その3
第43回 論理のルールに従って主張を整理する - 英語でプレゼンテーション その2
第42回 発音よりも語彙よりも大事なこと - 英語でプレゼンテーション その1
第41回 そのレポートは誰のため? - 英語でnote-takingのコツ その3
第40回 事前の準備とスピーチの最初がポイント - 英語でnote-takingのコツ その2
第39回 流れる言葉をどうcatchする? - 英語でnote-takingのコツ その1
第38回 ホンモノの格差社会を米国の医療制度に見る - 大統領選でも要注目!!
第37回 米国に住めば英語はペラペラの幻想 - 住んでるだけじゃダメなんです
第36回 現在、過去、未来…いったいどの時点の話なの? - 日本語と英語の不一致
第35回 生死がかかれば、英語なんて怖くない!? 病院と警察で意思疎通を図るには
第34回 発言しない日本人、自己主張が強い米国人
第33回 日本人のあこがれ? "映画を字幕なし"で楽しめるようになるには
第32回 Googleよりヤフーが日本で受けるワケ - 日米"流行りモノ"考
第31回 Rubyの隆盛に思うこと…四苦八苦した翻訳ボランティアの思い出
第30回 単語の結びつきにはルールがある - "collocations"を覚えよう
第29回 英語学習に王道なしというけれど…"効率的な勉強法"はありますか?
第28回 読むチカラと聞くチカラの相関関係
第27回 米国社会に深く根付く"小切手"のチカラ
第26回 Don't be shy! - ときには無礼にもなりかねない"恥じらい"を克服する
第25回 慌てず、騒がず、はっきりと - 電話の英語はコツがいる
第24回 笑って許されないこともある!? ヘンテコ英語にはご注意を
第23回 プレゼンの達人はエッセイもexcellent - Steve Jobsの手紙の論理性
第22回 Summarizationその2 - annotatingと要約を実際に行ってみる
第21回 Summarization - 要約の目的とannotationの重要性
第20回 英語慣れしていない日本人を苦しめる"動詞"の難しさ
第19回 笑顔疲れしないために - フレンドリーに会話を進めるコツ
第18回 仕事で必要な資料を効率よく読む方法 - 一度で理解しようと思うことなかれ
第17回 和→和→英のプロセスを経てより英語らしく - 直訳してはいけない和文とは
第16回 まずは日本語でブラッシュアップ - 英語の論理の組み立て方をトレーニング
第15回 「正しい英語」のはずなのに通じない - 1つの結論と複数のサポート
第14回 英文法の必要性 - 外国人だからこそ身につけたい論理の仕組み
第13回 IT用語も実は日常用語 - 単語全体のイメージを掴んでボキャ貧脱出!!
第12回 英文ライティング事始め(2) - 実際に"complaint letter"を書いてみる
第11回 英文ライティング事始め - 本当の"business letter"を書いてみる
第10回 口から英語が出てこない! パニックに陥らないための会話学習テクニック
第9回 英語での情報収集も"main idea"を意識する
第8回 英語らしいアクセントで話す - 強弱はっきり、リズミカルに
第7回 "英語らしい発音"への果てしない挑戦
第6回 通訳ナシでテクニカルスピーチを聴かなきゃならない、さあどうする!?
第5回 絶え間なく襲いかかる音の洪水と闘う - 単語のつながりと切れ目を探そう
第4回 リスニング上達のカギ -- とにかく最初の部分を聞き取ろう
第3回 強い思いの主張こそ、感情的ではなく論理的に展開する
第2回 たかがリーディング、されどリーディング - エッセイスタイルをモノにせよ
第1回 まずは「英語でなくちゃ、ダメなんだ」な状況を作り出す

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