【コラム】

どこでもサイエンス

108 ハイテク素材と赤い炭

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墨染といえば黒。カーボンといえばブラック。水墨画は無彩色の世界。タイヤやカーボン繊維は黒。そう、炭は黒の代名詞でございます。なのですが、赤い炭も白い炭もあるでよ。と、今回はそんなお話withハイテク素材です。

肉や植物を燃やすと、できる「炭」。その色といえば、「黒」。でございます。というか、墨色といえば、黒のことですね。身近な炭といえば、エンピツやシャーペンの芯に使われるグラファイトがあります。描くを意味するグラフィックから出た言葉だそうですが、このグラファイトは炭素がシート状に組み合わさった物質でございます。グラファイトは黒鉛ともいいますが、鉛じゃなくて炭素なんですね。なめても鉛中毒にはなりません。色の濃さは、混ぜ合わせる粘度の割合で調整するのだそうでございます。

あと、書道の時につかう炭がありますねぇ。硯でする墨、あれはゴマ油などを燃してでる煙がついたススを集め、にかわで固めて作るのだそうです。こうすることで粒子がそろった上質な墨になるのだそうです。筆ペンでおなじみの呉竹に、その製造法の動画がございますな。工場というには、何か風雅な作り方でございます。ところで、日本の墨の9割は奈良で作られているのだとか。そんなに集積していたとはちょっと驚きでございます。

さて、そんな炭、あとは備長炭かなってな炭ですが、最近はハイテク素材としてもてはやされていますな。というと「?」な感じになるのですが、炭といわずにカーボンというと、そうか、となります。たとえばカーボン繊維。たとえばカーボン繊維強化プラスチック(CFRP)などですな。日本の東レが大量製造に成功し、最新の航空機の材料にも採用され、ブイブイいわしてる、あれでございます。

東レの炭素繊維「トレカ」 (編集部撮影)

さらに、最近ではフラーレンやカーボンナノチューブがハイテク素材として一般的になってきました。フラーレンは60個以上の炭素が球形のカゴのように結合したもので、建築家のバックミンスター・フラーが提唱したボール型の建築物の構造と似ていることからそんな名前がつきました。カゴ型なので、スカスカ。でも強固ということで、軽くて強い材料になるのですね。1985年に発見され、発見者のクロートーらは1996年のノーベル賞を受賞しています。昨今では、大量生産や応用がはじまっています。炭素はエジソンが電球のフィラメントに採用したことでも有名なように、電気を通しますので、接点不良を直すといった用途にも使われていますな。なお、発見者のクロートーは元々、天文学者で、宇宙の炭素の探索をしていました。フラーレンは地球の炭素での発見ですけどね。

さらに、フラーレンを伸ばしたような形のカーボンナノチューブは、1991年に飯島澄男さんが電子顕微鏡で発見し、電線や強固で軽量な繊維としての応用が注目されています。ちなみに、フラーレンのほか、グラファイト1枚だけみたいなグラフェンの発見はノーベル賞をもらっている(2010年)ので、カーボンナノチューブの飯島さんも間違いない…といわれてずいぶんたちますねえ。今年くらいはどうやろねー。

ということで古代から現代まで、まあ黒い炭に囲まれながら暮らしているわけですな。ただ、一貫して炭は黒いもの。ということになっておりますな。ちなみに、私はフラーレンの粉末を見たことがありますが、やっぱりというか、黒いものでございました。

ところで、炭素だけでできていても、黒くないものもあります。エンピツのように、粘度とまざっているから…ではなく、炭素だけなのに黒くないもの。それは、ダイヤモンドでございますな。ダイヤモンドが炭素であるというのは、19世紀のデービーという英国の天才科学者によって証明されています。ダイヤモンドを燃やすと、二酸化炭素がでるというので、証明したのですな。ダイヤモンドは炭素の結晶ですな。

もっともほとんどのダイヤモンドは黒っぽい色なのだそうです。不純物がすくないと東明、もとい透明になるのですが、それが宝石として使われるのだそうです。その宝石でも、ほとんどの宝石ダイヤはわずかに黄色いのですね。これは窒素がわずかに入っているためだからだそうです。結晶にわずかな欠陥があるので色づくのですな。つまり、黄色い炭はあるわけです。また、ダイヤモンドのなかにはブルーダイヤモンドというのがあります。ただ、これは炭のせいではなく、ほかの混ぜ物のいたずらですね。

では、赤い炭はなんでしょうか? 実は先ほどでたハイテク素材フラーレンが、赤っぽい色をしているのです。というと、あんた「やっぱりというか、黒いものでございました」とさっき書いたばかりやないかいといわれそうですなー。

はい、粉末のフラーレンは黒いのですが、これをトルエンなどの透明な溶液にいれると見事なワインレッド、さらに炭素が70個のちょいと大きなフラーレンだと赤色になるのです。つまりフラーレンは赤い炭なのですな。

ただ、まあフラーレンなんて特殊だと思いたくもなります。ところがですね、調べるとフラーレンは自然界に結構あるってなことがわかってきたのでございます。フラーレンはクロートーが友人のロバート・カールとリチャード・スモーリー(ノーベル賞を共同受賞)に依頼して合成実験をしたときに、偶然できたものです。実験は、グラファイトに強力なレーザーを当てるといった方法で行われたのです。その後、グラファイトに放電してもフラーレンができることがわかり、さらに、どうも結構フラーレンって簡単にできてしまうことがわかってきました。ちなみに、カーボンナノチューブを発見した飯島さんも、グラファイトに放電してできた物質のなかに、電子顕微鏡でボール状の構造をみつけています。1980年のことですが、クロートーらの1985年の発見の論文を読んで、あわてて1987年に論文を書いています。

あるとわかると、あちこちに見つかったのがフラーレンなのですねー。ちなみに、フラーレンの構造については、日本の大澤映二さんが1970年に予言していますが、この大澤さん、おもしろいことに、奈良の墨に赤っぽい艶があるものを知って、それはフラーレンが混ざっているせいじゃないか? なんて言ったことがあるんですね。で、墨のなかのフラーレン探査も結構やられたもようですで、実際にフラーレンを見つけたらしい。ただ、色に影響しているという結論になったかどうかは、私にはわかりませんでした。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。

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インデックス

連載目次
第108回 ハイテク素材と赤い炭
第107回 8月7日(月)深夜・月食を見よう!
第106回 2017年の宇宙、どうでしょう? - 下半期・その2
第105回 2017年の宇宙、どうでしょう? - 下半期・その1
第104回 予言者? ジュール・ヴェルヌ
第103回 幻の毎日新聞プラネタリウム館 - 東日(毎日)天文館
第102回 地球は、どう、動いてる?
第101回 アインシュタインの方位磁石 - サイエンスな人の一品
第100回 アストロバイオロジーって、何それ、オイシイの?
第99回 太陽はスゴイ? - 成績発表会
第98回 実験装置、見たい?
第97回 地図と星は仲がいい
第96回 山が変える惑星の模様
第95回 ほとんどの星は爆発しない
第94回 それも「バラ科」ですか……!?
第93回 2017年の宇宙、どうでしょう? - 上半期編その2
第92回 2017年の宇宙、どうでしょう? - 上半期編その1
第91回 流れ星を見つけるコツ
第90回 コピー機の発明について、調べてみたよ
第89回 いにしえの中国やインドの宇宙
第88回 「火星の呪い」が発動
第87回 来年のノーベル賞予想ごっこ
第86回 天文学研究のため、レンジは使わないでください
第85回 カフェでリア充、科学者ハレー
第84回 お月見の日は、どう決まる?
第83回 たまご、熱すると固まるナゾ
第82回 8月12日のペルセウス座流星群と黒い彗星
第81回 絶滅のサイエンスとリョコウバトとウナギ
第80回 ジュノー探査機、木星到着
第79回 「ニホニウム」で知ったかぶりをするための知識5連発
第78回 2016年の「宇宙どうでしょう?」 (下半期)
第77回 増やせばワカルDNA - 「PCR」のお話
第76回 宇宙人を探すなんて、できるの?
第75回 海がない国 スイスで生まれた深海潜水艇
第74回 とりあえず春は、北斗七星。
第73回 くらべてワカル!? 宇宙の世界
第72回 さくらが春に咲くのは、寒さを越えるプログラムがあるから
第71回 ひさしぶりの日食のお知らせ - 日本は2016年3月9日午前11時前後
第70回 「重力波」つかまえました
第69回 春のこよみのサイエンス
第68回 火星をざっくり知っておきましょー
第67回 冬はハワイが近い!? - ジェットストリーム
第66回 2016年の「宇宙、どうでしょう?」(上半期)
第65回 年間最多の流れ星が見える! 12月14日夜はふたご座流星群
第64回 毒についてチョット調べてみました
第63回 凧とかみなり、フランクリン
第62回 はやぶさ2も見られるの?? 人工衛星を見るはなし
第61回 ノーベル賞をゲットしたニュートリノ探知装置
第60回 科学者が、虹遊びをすると…
第59回 日本人は、元素の名づけ親になれるか!?
第58回 数字のケントーをつける話=フェルミ問題
第57回 「星の名決定」総選挙に参加できるぞ!
第56回 夏休み、おてがるサイエンス
第55回 冥王星に接近しました
第54回 硬い冷たいダイヤだよ
第53回 2015年の「宇宙、どうでしょう?」(下半期)
第52回 潜水艦を発明した愛すべきおっさん
第51回 冥王星まめちしき10連発(ビフォー編)
第50回 ジュラ紀とかエディアカラとか、実はローカルな地名ばかりの地球の歴史年代
第49回 夜空の神2共演 - 金星と木星が接近するぞ!
第48回 キャンディをかむと光るのは本当か?
第47回 2015年4月4日夜9時。むこう3年ない皆既月食をみのがすな!!
第46回 浦島太郎とか双子とかとカーナビなサイエンス
第45回 100万年かけて、あったかいーの
第44回 電話より先に発明されたファックス
第43回 世界の「宇宙窓」から
第42回 圧力鍋は、できそこないのエンジン!?
第41回 2015年の「宇宙、どうでしょう?」(上半期)
第40回 12月13~14日は、年に一番流れ星が多い時期
第39回 はやぶさ2、打ち上げそして旅の友
第38回 これだけ知っとこ、小惑星探査機「はやぶさ2」
第37回 誘導ミサイルとポップコーン
第36回 地球上の生物は推定870万種。実はその9割が発見されていない
第35回 祝・日本のお家芸・青色LEDがノーベル賞
第34回 2014年10月8日夜8時。ゼッコーの皆既月食をみのがすな!
第33回 シロウトにチャンス到来・惑星の名前をつけられるぞ!
第32回 スゴイぜ! 彗星探査機「ロゼッタ」
第31回 天才&変人キャベンディッシュ
第30回 渡り鳥が作るV字型編隊の謎
第29回 やってはいけない!サイエンス
第28回 フロッピーの栄枯盛衰
第27回 2014年の宇宙、どうでしょう? - 下半期編その2
第26回 2014年の宇宙、どうでしょう? - 下半期編その1
第25回 100円で作れるちょっぴりキケンな科学オモチャ「アストロ・ブラスター」
第24回 5月24日土曜夕方に本当にでるのか!? - 「きりん座流星群」
第23回 いま、サイエンスで一番アツイ? - タンパク質ギョーカイをのぞく
第22回 英国科学雑誌のQ&Aコーナー - そんなに熱くなるなんて…
第21回 2年2カ月に1度のチャンス! - 火星ただいま接近中
第20回 科学なパーソナリティ列伝
第19回 今年が寒いのは太陽のせい? - 実は暗い太陽の未来
第18回 日本に降る雨は「だいたい雪」、だそうです
第17回 どこでもサイエンス-チョコレートは惚れ薬?
第16回 江戸時代からある「クローン」
第15回 2014年の宇宙、どうでしょう? - 上半期編
第14回 謎実験 - ニュートンビーズ
第13回 12月14日はふたご座流星群の日! - サクッとわかる観察ポイント
第12回 新月が出たぞという意味の「カレンダエ」からはじまった「カレンダー」
第11回 気持ちよく歌えるエコーのおはなし
第10回 ノーベル賞を楽しむネタ知識あれこれ(後編)
第9回 ノーベル賞を楽しむネタ知識あれこれ(前編)
第8回 ただいま接近中 ‐ アイソン彗星
第7回 信号ひとつは70ワット - 交通信号機にまつわる科学のはなし
第6回 いますぐ使える「月」の知識11連発(後編)
第5回 いますぐ使える「月」の知識11連発(前編)
第4回 飲める「リトマス試験紙」
第3回 カンタン工作 - 百均虫めがねで「カメラ箱」を作ろう
第2回 8月12日と13日の夜はペルセウス座流星群を観察しよう
第1回 教科書を覗いてみよう - 小学校3年生の理科より「明かりをつけよう」

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