中学生で理科の教科書の見返しになっていた周期表。そう、水素からはじまって、ヘリウム、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素……と元素がならんでいるあれですな。あの周期表の113番目のコマに、日本人が発見、命名する元素が掲載されることがほぼ確定しました。その名もニホニウム(nihonium:Nh)。ニホン(日本)で発見された元素だぞ、と主張している名前ですな。実は日本どころか、アジアで発見された元素はこれが最初なのです。ちょっとムネアツですな。今回は、ニホニウムについて知ったかぶりするための知識を紹介しましょー。なお、この件については、連載の59回目でもご紹介していますので、よかったらあわせてどうぞー。

知ったか・その1: 発見場所は、埼玉県和光市

そこからかい、と言われそうですが、5W1Hは、大切。ということで、ここからです。ニホニウムは、埼玉県和光市。東京の副都心、池袋から東武東上線の急行で14分。あるいは東京メトロの有楽町線と副都心線で19分。駅から東京郊外の住宅地を歩くこと15分。理化学研究所、いわゆる理研(リケン)の和光本所。そこがニホニウムの発見場所です。ちなみに理研和光本所は、1967年に都心の駒込から移転してきたそうです。当時は大和町だったので、大和研究所といわれていたそうです。神奈川県の大和市ではなく、埼玉県の大和町だったんですな。無駄知識ですが、1970年に大和町は、和光市になります。ちなみに市の名前は一般公募で決めたのだそうです

なおこの理研和光本所は、年に1度、4月の20日ごろに一般公開をしています。理研グッズ(実験ノートとか)も購入できます。ふだんは、守衛さんがいて、一般人は入れません。ちなみに、この理研は戦前は理研ビタミンとか、理研光学(現リコー)とか、理研電線(現古河電工)などを傘下にした巨大な企業群で、1944年には一瞬ですが、現在のプロ野球の中日ドラゴンズも経営していたことすらあるんですよ。現在、資本関係はなくなっています。

知ったか・その2: 元素名ニホニウムが確定するのは、2016年11月8日以降

あれー、決まったんじゃないの? と言いたくなっちゃうんですが、2016年6月8日から5カ月間はパブリックレビュー。いうならば、この命名に文句があれば受け付けて、検討する期間なのですな。まあ、でも、最後の関門までたどりついたわけなのです。これまで、2015年12月31日に森田浩介さんたちが見つけたのは、まちがいなく新たな元素であり、命名権が与えられ(理研のプレスリリース)、それに対して3月に提案し、討議のうえ、今回の公表・ものいい期間までこぎ着けたってわけなんですな。

知ったか・その3: ほかに3つの新元素がパブリックレビュー中

今回、ニホニウムと同時に、モスコビウム(115番)、テネシン(117番)、オガネソン(118番)も命名提案がパブリックレビュー中です。モスコビウムは、ロシアのドゥブナ研究所が発見したので、設置場所のモスクワにちなんで。テネシンは、テネシーのオークリッジ研究所で発見されたのでそれにちなんで。オガネソンは核物理学の権威、ユーリ・オガネシアン(1933年~存命)にちなんでの名前です。通常、元素の名前は「―ウム」になるのですが、117番はハロゲン元素の、118番は希ガス(最近は貴ガスにしようってことになってます)の命名規則にしたがった語尾なのだそうです。

IUPAC Webサイトでパブリックレビュー中

知ったか・その4: 発見のストーリーは、無料のマンガで読めます

理研の広報が愉快でして、ニホニウム(113番元素)発見のストーリーはまんがで読めます。それも、100ページもあって、発見者の森田さんの恋愛事情がかなりを占める(大げさです。すみません)という愉快な構成になっています。

ちなみに、このマンガがでたときは、ニホニウムという名前どころか、113番元素の発見が、まだ確定でないという時期です。ただ、研究のメインの部分はちゃんと描かれています。そして、その後の話も、理研の特集サイトに載っています。まあ、しかしやはりスゴイ成果ということで、理研の広報も大変力が入っている感じですね。

ちなみにマウスパッドとかのグッズもあるんですよ。そのうち、ゲームとか、スマホホルダーとか、チャームとか、生写真とか、アニメ化とか、ドラマ化とか、スピンアウト映画とか、いろいろでるんじゃないでしょうか(無責任発言)。いや、でも、冗談で言ってたはやぶさ帰還は、映画になったからなあ。

知ったか・その5: 発見は、ひたすらビスマスと亜鉛の原子をぶつけ続けた。ビスマスはきれい

超強力な電磁石の力でぶつけているうちに、二つの原子がくっついて、新しい元素が誕生するというのを狙ってやったのですね。ちなみに400兆回ぶつけて、1個とか、そんなペースなのだそうです。かかる時間も平均200日とか300日だそうです。

ぶつかってできた新元素ニホニウムは、1秒の2/1000の時間で、113 → 111 → 109 → 107 → 105というふうに壊れていきます。この壊れ方は理論上予想されていたので、それを調べることで、新元素が一瞬できたことを証明したのです。

ちなみにビスマスも亜鉛も金属なんですが、ビスマスはなかなかきれいですよ。石華工匠さんのサイトがおすすめ。ここのほかに、デイリーポータルZさんに、結晶の作り方がレポートされてます。また、作るのが面倒な人は、石華工匠さんでできあいのものが2000円とかで売っています。

あと、亜鉛はZn、ジンクとかいうんですが、健康食品として売ってます。人間の身体に2gくらいあるんですが、オシッコでどんどん出て行っちゃうのです。食品として摂取できて、カキ、ウナギ、アーモンド、さんま、高野豆腐などに含まれています。ちなみに、足りなくなると、免疫機能が低下するなどの問題があります。

そんなものから新元素。まあ、錬金術ですねー。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。