現在118種類発見されている化学元素。その名前の由来は、性質から神話、人物名、地域名などいろいろでございます。そして、その名付け親になれるのは、発見・確認者なのでございますな。その中には、日本人どころかアジア人が発見したものは一個もありません。いや1908年(明治41年)ごろに、「ニッポニウム」という名前がつきそうになったことがあるとか、最近ついに、新元素に名前がつけられそうだとか。そんなこんなで、元素にまつわるゴッドファーザーな話でございます。

理系でなくとも、周期表を覚えさせられた記憶というのは、共通体験でございますな。スイヘー・リーベ・ボクノフネ、なんて「呪文」のようにとなえ、テストが終わったら忘れる。というのが大多数でございましょう。まあ、関わっている人はいまでももちろん覚えているでしょうけれども。

この周期表は、150年ばかり前の1869年に生まれております。ドミトリ・メンデレーエフというロシアのおじさんが考えたもので、性質の似た元素をマトリックスにすると、うまくいくべえよ。というものですな。で、当時マトリックスから抜け落ちてみえるところも、そこに元素が未発見なだけなんだーという予言もしたんですな。で、その後、ガリウムやらなにやらの元素が、ズバリなポイントに発見されて、こらええわ。ということにあいなり、未来のワレワレが「呪文」をとなえることにあいなったわけですな。まあ、世の中には実物周期表というのがあって、なるほど見かけが近いのがならんでいるのがよくわかります。これ、東京なら上野の国立科学博物館、大阪なら大阪市立科学館などにそれがございます。

さて、この1869年の周期表、メンデレーエフおじさんが描いたものは、なんとwikipediaでその実物を見ることができます。

1869年にメンデレーエフが初めて作成した周期表 (出典:ウィキペディア日本語版)

水素Hの隣にあるヘリウムHeがないですな。で、鉛ことPbまでです。鉛は82番元素ですな。で、現在はというと、元素未発見の穴は次々にうまり、さらに拡張されて、118番までになっております。

文部科学省が作成、提供している周期表「一家に1枚 周期表」 (出典:科学技術週間Webサイト)

こちらは半導体製造装置大手の東京エレクトロン(TEL)のWebサイトにて見ることができる元素周期表。AndroidもしくはiOS用にARアプリが用意されており、アニメーションとして楽しむこともできる。半導体はさまざまな元素を用いて製造されており、そうした縁もあり、2012年に東京・上野の科学博物館にて開催された特別展「元素のふしぎ」にも特別協賛として参加するなどの取り組みを行っている (出典:東京エレクトロン げんそ博士の元素周期表 スペシャルサイト)

元素の発見は、最初は化学的性質などで区別していました。が、メンデレーエフさんのころには、その元素の蒸気を光にすかしたときに、光の何色が吸収されるか - スペクトルってやつ - でも調べられるようになります。さらにX線をあてて得られる写真だとか、電場からの影響だとか、色々な手段で区別がつけられるようになっていったんでございます。元素の発見はこうして次々となされてまいったわけですなー。アメリカのシーボーグ(なんか、スゲー名前ですな)なんかプルトニウムをはじめ、10個も見つけております。すべて人工的に合成したんですけどね。

そして、新しい元素が発見されると、名前がつけられるのですな。ヘリウムは、太陽の大気ガスのスペクトルから発見され、太陽(ヘリオス)の元素ということでヘリウムって名前がつけられました。神話ファンタジー系だと、ウラニウム、ネプツニウム、プルトニウムが、それぞれ神様の名前&惑星名です。プルトニウムのプルート(冥王星)は惑星じゃなくなりましたけれども。

性質からつけられているものだと、インジゴ(藍)色なのでインジウムだとか、塩素はクロリンですが、これは黄緑色で塩素ガス(毒です!)の色です。ラジウムは放射(ラジエーション)性があるからです。

人名も結構あって、前にフェルミ推定でとりあげたフェルミのフェルミウムがあります。フェルミは放射線をつかって新元素を多数作成した人なんですな。ノーベリウム、メンデリウム、キュリウム、アインスタニウム、シーボーギウムもあります。

あと、地名も多いですな。ユウロビウム(ヨーロッパ)、アメリシウム(アメリカ)なんていうのがわかりやすいですな。ガリウムはフランスの旧名ガリアから、ゲルマニウムはドイツの旧名ゲルマニアから来ています。カリフォルニウム、バークリウム(カリフォルニア大学バークレー校から)。

さて、ここまできて、一言いいたいでしょう、「欧米かっ!」。

そう、でてくる名前は欧米ばかり。それは、元素の発見者が欧米人ばっかりだからでございます。

ただ、実はですね1908年にニッポニウムというのが提唱されて、一部つかわれたことがあるんです。ニッポニウムは、後に東北大学の総長にもなった小川正孝(1865~1930年)さんが留学中に発見したもので、留学先で「これはニッポニウムという名前にするべきだ」と先生のラムゼイに言われたというのでございますな。元素番号は43番でございます。ところが、43番はテクネチウムなんですよ。1936年に人工合成されたもので、テクネチウムというのは「人工の」という意味なんですな。なんでこうなったかというと、発見と思われたのに、再現しないという、そういう話になったんですな。ただ、現在では小川さんは、75番元素を発見していたのに、43番だと思いこんでいたと考えられているんですな。75番は1925年に発見され、レニウムという名前になっています。幻のニッポニウムとなってしまったわけです。

さて、ということで、100年も前に日本な名前がつきそうだったのに、残念! だったわけですが、最近、日本に関わる名前がつきそうな元素があるんですね。現在発見されている118個の元素のなかで、命名されていない元素は4つあります。113番、115番、117番、118番で、暫定的にウンウントリウム、ウンウンペンチウムなどとよばれています。なんのことはなく、ラテン語で113番元素とか115番元素ってな意味です。

で、このうち113番元素は、2004年と2005年に理化学研究所の森田浩介さん(現 九州大学)たちが、1個ずつ合成に成功。2012年には3個目の合成に成功しています。この間に欧米の別のチームが合成に成功しています。111番のレントゲニウムはドイツのホフマンが3個合成に成功したあと、命名権を得ているので、森田さんが命名権を得る可能性も高くなっています。海外でも同様に発見している人がいるのでどこが命名権を得られるかが注目していますが、森田さんが優勢だといわれています。これは、2015年の8月に国際純粋・応化学学会で発表される予定だったのですが、見送られています。うーむ。気をもたせますなー。

さて、日本発の元素名がつくかどうかでございます。ニッポニウムはNpだとネプツニウムと同じになっちゃうので、ジャパニウム/ジャポニウム(Jp)とするか、リケニウムがいいとかいろいろ話がでていますが。さあどうなるでしょうか。いや、海外に命名権をもってかれる可能性ももちろんありますけれどね。ドキドキしながらというのが昨今なのであります。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。