2012年6月26日、消費税増税法案が衆議院本会議で可決されました。参議院で可決されれば、2014年4月に消費税率は8%に、2015年10月には10%に引き上げられることになるとか。1,050円のランチが2年後に1,080円、3年後に1,100円に値上がりすると思えば「なんとかなるさ」と割り切れそうですが、建物代が3,000万円のマンションを買う場合、いまなら150万円の消費税が2年後に240万円、3年後に300万円になります。マイホームを今買うのと、3年3カ月後に買うのではかかるコストが150万円も違うのです。ビックリしますね。
消費増税による、急速な"なんちゃってインフレ"に打ち勝つには、戦略的にお金を使っていくほかありません。何気なく払っていた価値の低い出費(浪費)を抑え、今と将来のわたしにとって最善の消費選択をデキル人を目指しましょう。
人間の「性(さが)」を利用する
無駄な支出を削減するのに最も効果的なのは「予算立て」です。予算を立て、その範囲で暮らせるような「しくみ」を作ることで、家計管理のスキルは格段に向上します。
水は低きに流れ、人は易きに流れます。お金があるとたいていのことはラクに気分よくできてしまいますから、あればあるだけ使いたくなります。一方、人間は創意工夫をします。今月ピンチなときは冷蔵庫の中身と知恵を総動員して空腹を満たすオリジナル料理を作ったり、お弁当を持参してランチ代を浮かせたりするでしょう? 金欠だったけど暮らせちゃったという経験、あなたにも1度や2度あるはずです。
使えるお金の限度額(予算)を定めておけば、易きに流れる人間である自分にブレーキをかけられますし、創意工夫を促すことができます。さらにそれを楽しくできるような環境(しくみ)を整えられれば、やりくりは習慣化します。お金に対するコンプレックスや貯まらない劣等感から解放され、わくわく人生を歩いていけるようになります。
具体的に行うことは次の2点です。
(1)将来必要となる出費を予測する(=目標設定)
(2)家計の"見える化"をする(=現状把握、消費のクセを知る)
あなたらしく生きるために、何年後にいくら必要か?
イソップ寓話「アリとキリギリス」のアリたちは「冬になると食物がなくなる」ことを予測していました。だから夏の間に食料を備蓄することができたし、食物のない冬の期間もアリらしく、いつもの生活を送ることができました。キリギリスは……ご存知の通りの結末ですよね。
あなたらしく生きていくために、何年後に、いくら必要かを知ること。そしてそれを貯蓄目標にすることが、今のあなたの意識を変え、行動を変えます(上記(1)を参照)。将来かかる費用を予測することで、未来の自分のために毎月(毎年)いくら積み立てていけばいいかを逆算します。ここで注意するのは、消費税増税の時期。消費税アップ分は見越して目標金額を設定しましょう。
家計簿を付けていなくても大丈夫!
次に、家計の状態を確認します。図表1の「家計見える化シート」を使って、家計の流れを整理しましょう。用意するのは給与明細書と給料が預金通帳です。家計簿を付けていなくても、家計の"見える化"はカンタンに行うことができるのです。
直近の給与明細書を開き、給料の額面金額を(A)欄に書き移します。給与から天引きされている金額を「給与から天引きされているもの(黄色の枠)」に書きます。次に、預金通帳を見て、前月に支払った水道光熱費などを「固定支出(オレンジの枠)」記入します。習い事の月謝や小遣いなどの現金で支払っているものもここに含まれます。
給与の額面金額(A)から、給与から天引きされているものの合計額(B)と固定支出の合計額(C)を差し引いた残りが、現金でやりくりするお金になります。
この金額が普段財布から払っているお金よりも少ない場合は、慢性的に赤字になっているということです。毎月貯金をしているのにお金が貯まらないのはまさにこのタイプ。固定費にお金をかけ過ぎているのか、現金のやりくりが苦手なのか。はたまた、どちらも併せ持っているのか。家計の使い道を書き出すことで、やりくりをする上での弱点やお金の使い道の傾向がつかめるはずです。
今の自分と将来の自分、バランスをとって生きていく
現在の家計と将来必要となる資金を明確にすることで、「毎月(毎年)いくら使えるか」と「何年後にどのくらいの資産を築けばいいか」が見えてきます。
私が代表を務めるFP会社では、多くのお客様にこれらの作業をやっていただいています。将来の資金予測に関してはお客様の希望をお聞きした上で私たちFPが作成することが多いですが、「家計の見える化シート」にいたってはお客様自身で書いていただいています。書くことによって、目標が明確になり、思考が整理されるのでしょうね。「お弁当を作って昼食代を浮かせます」とか「今の保険を払済にして、保険料の安いものに入り直します」、「子供と話し合って、携帯電話料金の半分を小遣いから払わせることにしました」など、ご自身でさまざまなアイデアを出し、実践されています。
目標をもち、予算を立てて、それで暮らす「しくみ」を作ることができれば、どんな荒波が押し寄せてこようとも大丈夫! 強靭でしなやかな家計を手に入れることができるでしょう。次週はお金の習慣(しくみ)についてお話しします。
執筆者プロフィール : 柳澤 美由紀(やなぎさわ みゆき)
財布にやさしく、家計に役立つ知恵を発信するファイナンシャル・プランナー(CFP(R)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/株式会社家計アイデア工房 代表取締役)。毎日感謝をモットーに、お客様のわくわく生活を全力でサポートしている。得意技は社会資源と各種シミュレーションを駆使したアドバイス。著書には『人生の引継ぎを考える方にアドバイスしたい70のこと(きんざい)』、『書き込み式 老後のお金の『どうしよう?』が解決できる本(講談社)』などがある。
「家計アイデア工房ウェブサイト」
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