例年通り、ジャストシステムが次期ワープロアプリ「一太郎2016」と、その日本語入力システムである「ATOK 2016」を発表した。毎年12月に発表してベータテストを開始、翌年2月に製品発売というスケジュールで、この製品の発表会があると、今年ももう終わりかと実感する。まさに暮れの風物詩だ。
一太郎とPCの歴史
一太郎が製品名に年号をつけるようになったのは「一太郎2004」からだ。以降、毎年このパターンで新バージョンが世に出ている。
でも年号とは関係なく、パッケージとしての一太郎は、1985年に初代の「jX-WORD太郎」が発売されて以来、88年、90年、91年、92年、94年、00年以外は毎年新バージョンが発売されている。その丸30年間の歴史の中で、実に26回ものバージョンアップを果たしているわけだ。
一太郎の歴史をひもといてみると、89年春にジャストウィンドウという、国民機ことNEC PC-9800シリーズのMS-DOS上で稼働する独自のウィンドウシステムで動く一太郎Ver.4が出て、93年にWindows対応のVer.5が出るまでに4年間もかかっている。
90~92年にバージョンアップがなかったことと、DOS/Vの登場は無関係ではあるまい。DOS/Vこと「IBM DOS J4.0/V」を日本アイ・ビー・エムが世に出したのは90年で、それを機に、日本のPCシーンはは次第にPC/AT互換機時代に突入する。廉価なPCを大々的に日本で展開する黒船のごとく登場したコンパックショックが92年、翌93年にはWindows 3.1がリリースされた。一太郎Ver.5が出たのはそのタイミングだ。そして、95年秋には日本でWindows 95が出たが、一太郎7がfor Windows 95として本格対応して登場したのはほぼ1年後の96年9月だった。
こうして振り返ってみると、あれだけのPCシーンの激動期に、それほど頻繁なバージョンアップが行われていなかったことに意外な印象を持つ。
2016年は「情報の消費」に注目
一太郎2016とATOK 2016は、数々の新機能を搭載しての登場だが、その機能の多くはワープロとしての使い勝手、日本語変換の賢さといったことよりも、フォント関連や電子辞典リファレンスの充実に注力されている。
目新しさがあるとすれば、一太郎の「モバイルビューイング」と「タブレットビューア」だろうか。前者はiOSとAndroid用に提供される専用アプリで、クラウドに保存した一太郎文書を閲覧できるというもの。2019年まで無償で使えるクラウドサービスとして提供されるそうだ。また、後者はタブレットでのタッチ操作や文書を「見る」、「見せる」を追及したモードのビューアで、Windows 10のタブレットモードと連動して切り替わる。
ここにきて、ついに、一太郎が情報の消費に注目している点が興味深い。何をどう表現するかという生産性を追求してきた一太郎を全バージョン見てきた身からすると、この展開はちょっと新鮮だ。
とはいえ、Intelのプロセッサのようにチックタック的に隔年ごとに刷新するならともかく、ここ数年日本語入力システムのATOKがあまり賢くなっていないというムードもある。Windows 8以降のモダンアプリとの親和性問題の解決で、それどころではなかったという事情もあるのだろうが、ちょっとした寂しさを感じる。その間に、Windows標準のIMEも、かなりまともに使えるようになってきている。発表会で、この点について聞いてみたが、鋭意努力中とのことだった。ATOKがなければ日本語を書けないくらいに愛用してきた身にとっては、2017年あたりの革新的な進化を期待したい。
定番、だから盛り上る
Windowsも10となって最後のメジャーアップデートとなり、以降は、数年おきのバージョンアップはなく、日々、進化していくことが表明されている。そういう時代に、毎年パッケージソフトを新製品として発売するというスタイルをいつまで続けられるのか。
それでもiPhoneは毎年新しくなるし、発売時にはそれなりの盛り上がりを見せている。例年通りのスケジュールでのパッケージの刷新というのはマーケティング的には重要な要素なのだろう。その点で一太郎は成功している。だからみんな一太郎を忘れない。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)