【コラム】

兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃

102 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(42)PLM

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今回のテーマは「PLM」だ。

PMS(月経前症候群)に似ているし、こっちについて論じた方が有益な内容になるような気がする。だが、有益であると同時にデリケートな話題でもある。

PMSは体験しようのない男が理解しづらいのはもちろん、女同士でさえ非常な個人差があるので、症状が重い女が「PMSでつらい…」と言うと、軽い女は平気で「そんなの甘え、気持ちの問題」と言い捨てたりするのだ。

結局、その人間の苦しみは本人にしかわからない。同性だから、同じ立場だからわかってもらえると思ったら大間違い。全員敵、この世は地獄、慈悲はない。

このように、PMSについて語ると「人類は滅亡したほうがいい」という結論になってしまう、かと言ってPLMについて語るのも癪だ。

よって、間をとって一番平和的な「LS●」について書きたいと思うが、伏せ字にされてしまったところから分かるように、それだと「載せられない」という問題が出てくる。やはりこの世は全員敵で地獄である。

激アツホットシステムは「匠」の前に霧散する

PLM:工業製品開発の企画段階から設計、生産、さらに出荷後のユーザサポートなどすべての過程において製品を包括的に管理する手法。(IT用語辞典 e-wordsより)

「また出てきやがった」という話である。似たような意味の言葉を前に取り上げた記憶があるが、何だったか全く思い出せないので、このコラムは少なくとも筆者の知識向上には役立っていない。

(参考:連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(36)SCM連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(21)ERP)

だが、以前テーマにした言葉は思い出せなくても、こうも再三「今は全ての業務を一本化して管理するのがアツい」と言われれば、そういうのが旬なのだな、ということがわかる。

例えばフィギュア製作だったら、「このキャラにこういうポーズを取らせてオタクを爆発させよう」というアイディアから、嫁に勝手に捨てられるという廃棄段階までを一塊の単位として管理することにより、効率アップとコスト削減を図ろうというわけだ。

しかし、そういう激アツホットシステムを取り入れられるのは、そもそも余力のある大企業くらいである。新システムを構築するには金と時間がかかるし、外部のコンサルタントに依頼するならさらに金がかかる。

社員にやらせるとしたら、その社員は今までの業務をしながら新システムを作らなければいけないのだ。「残業をなくすシステムを作るために、まず法外な残業をしなければいけない」という矛盾が起こる。

さらに、それに携わる社員たちの意識と給料が激低だと、ほぼ5億パーセント「新システム」の話はいつのまにか霧散する。意識が低い人間は、物事をうやむやにしてフェードアウトさせる能力だけは「匠」と呼んでいいほど上手いのだ。会社ならそのうやむや期間にもコストはかかっているだろうから、企業にとっては「ただ小銭が出て行っただけ」という事態にもなりかねない。

昔ながらの製法を脱するには…

しかし、「新しいシステムを作るより、今やってることを続けた方が早い」というのは、典型的な淘汰される側の発想だということはわかる。

漫画だってそうだ、今私は、出版社などの依頼により原稿を描き、原稿料をもらうという「昔ながらの製法」で生計を立てている。しかし現在、作家が食っていく方法はそれだけではなくなっている。ネットを使い、出版社などを通さず利益を得ている作家はおそらくいくらでもいる。

昔ながらの製法だと、正直、仕事がもらえなくなったら餓死である。そして、その日はいつか来るだろう。だからその前に、自分一人でも利益が出せる方法を考えなくてはならない。

だが、考える時間と、実現するための金がないのだ。

何においても、利益なんてすぐ出るものではない。よって、利益が出ない期間に餓死しないだけの余力がいる。そのためには、今ある仕事をやるしかない。そして、今ある仕事をしていたら、とても新しいことを考える時間がないのだ。

「新しいことを始める余力がないので、今出来ることをするしかない」。個人でもこのようなジリ貧になるので、企業ならもっと新しいことを始めるのは難しい。

ではどうしたらいいかというと、やはりそれを考える時間がない。考えたとしても良いアイディアが出るとも限らないし、出たとしてもまた「それを実行する金と時間がない」という結論に達することがほとんどだ。

つまり「このことを考えると確実に暗くなるので考えないようにする」ようになる。もう何度目の登場かわからないが、「カーズ様状態」である。

暗い話になるだろうからPMSの話はやめたのに、PLMの話をしても結局暗くなったし、むしろより深い地獄の話になってしまったような気がする。

やはり、LS●の話をするのが一番ハッピーだったのではないか。使用したことはないが、上記のような悩みからは一時的に開放されるような気がしてならない。


<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集「ブス図鑑」(2016年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2017年3月14日(火)掲載予定です。

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インデックス

連載目次
第111回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(51)Industry 4.0
第110回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(50)CPS
第109回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(49)3Dプリンタ
第108回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(48)CPU
第107回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(47)e-文書法
第106回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(46)CGM
第105回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(45)MFP
第104回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(44)チャットボット
第103回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(43)メッセンジャー
第102回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(42)PLM
第101回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(41)CAD
第100回 100回にわたる連載を振り返って
第99回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(40)モバイルペイメント
第98回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(39)ダークネット
第97回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(38)IPアドレス
第96回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(37)JPEG
第95回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(36)SCM
第94回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(35)コグニティブ
第93回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(34)ハプティック
第92回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(33) 会話型UI
第91回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(32) APT
第90回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(31) 4K・8K
第89回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(30) コネクテッドカー
第88回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(29) ビーコン
第87回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(28) ゼロデイアタック
第86回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(27) 生体認証
第85回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(26)CPM
第84回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(25)NAS
第83回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(24)デジタルサイネージ
第82回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(23)テキストマイニング
第81回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(22)ファビコン
第80回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(21)ERP
第79回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(20) オンデマンド
第78回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(19) VoIP
第77回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(18) ディープラーニング
第76回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(17) テレワーク
第75回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(16) 5G
第74回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(15) O2O2O
第73回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(14)SaaS
第72回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(13)シングルサインオン
第71回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(12)オムニチャネル
第70回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(11)ユビキタス
第69回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(10)ホワイトハッカー
第68回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(9)ビッグデータ
第67回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(8)ランサムウェア
第66回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(7)クラウド
第65回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(6)ドローン
第64回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(5)人工知能
第63回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(4)マルウェア
第62回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(3)FinTech(フィンテック)
第61回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(2)VR
第60回 連続特集・カレー沢薫と「IT用語」(1)IoT
第59回 mixi時代のリア充アピールと「消灯」
第58回 春の花粉症と個々人の「体質」
第57回 飲み会に誘われた→たたかう、にげる?
第56回 SNS疲れと「インターネット上の友達」
第55回 カレー沢流・「真の親孝行」と「かんぴょう巻」
第54回 地方在住のオタクと「ガンジス川のまんじゅう」
第53回 カレー沢薫が激賞する「別腹で食べるべきスイーツ」
第52回 カレー沢薫、「ゆとり」「さとり」を語る
第51回 もしカレー沢薫の作品がアニメ/実写化したら
第50回 兼業漫画家が語る「健康法」と「クソゲー」
第49回 安直?楽勝?作家から見た「過去のヒット作のリバイバル」
第48回 兼業作家とマイナンバー
第47回 デザインを学んだカレー沢薫の「卒論」
第46回 カレー沢薫が「最後の晩餐に食べたい」一品
第45回 オタクがオタクであり続ける理由
第44回 漫画家・カレー沢薫がはじめてコラムを書いた日
第43回 カレー沢暴力からの卒業
第42回 兼業漫画家と女の「諦め」
第41回 カレー沢暴力(薫)が語る、「お断り」な仕事の依頼
第40回 女が「美」を希求する理由、そして“ありのまま”の罠
第39回 上京の旅路のロハスな過ごし方
第38回 酒もたばこもやらない兼業漫画家が愛する「嗜好品」
第37回 兼業漫画家と怒りの賢者モード
第36回 福山雅治の結婚と「公式設定」
第35回 もし「カレー沢薫」が改名するとしたら?
第34回 漫画家デビューしたいなら、まず石油王になってから
第33回 猫もまたいで通る「老後」の話
第32回 兼業漫画家が考える、「前の作風の方がよかった」と言われた時の対処法
第31回 カレー沢薫が偏愛する、ある猫の物語
第30回 「結婚すればリア充」なのか? 非リア充/リア充の境界線
第29回 猫派の兼業漫画家、「犬」を語る
第28回 漫画家の仕事をクールに演出する「作業用ドリンク」
第27回 続・「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第26回 兼業漫画家の「作業用BGM」
第25回 カレー沢薫が語る「恋愛」~壁ドンは本当にときめくのか~
第24回 兼業漫画家とLINEスタンプ
第23回 兼業漫画家に学ぶタスク管理の極意
第22回 酒やたばこより健康を害する、たったひとつの事柄
第21回 兼業漫画家の「夏の風物詩」
第20回 漫画家の夫になるということ(あるいは、夫婦が暮らすということ)
第19回 漫画家という職業選択と親心
第18回 二次創作の醍醐味と争いを生まないための「注意」
第17回 漫画家・カレー沢薫が語る「アイデアのつくり方」
第16回 猫よ、人の望みの喜びよ
第15回 カレー沢薫というペンネームを生んだ「病」
第14回 コミュ障界の石川五ェ門が人間観察をしない理由
第13回 「カレー沢薫先生サイン会」の開催動機
第12回 兼業漫画家の美容意識と"オタクの美醜"
第11回 あなたは米に「萌え」られるか
第10回 健康で文化的な兼業漫画家の生活
第9回 漫画家の絵の上達と「オウンゴール」
第8回 漫画家の夫をめぐる「傾向」と「受難」
第7回 カレー沢薫の華麗なる交友関係
第6回 漫画家は怒り、編集者はスコップを持つ
第5回 兼業漫画家は"大平原"の夢を見るか
第4回 カレー沢流・漫画制作におけるライフハック
第3回 "兼業まんがクリエイター"の日常を徹底解剖
第2回 確定申告、その経費と内訳~カレー沢薫の場合~
第1回 "漫画を描かない漫画家志望"がデビューするまで

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