ビジネス書のチカラを主婦、中学生にも

会社を作るのは簡単です。特に会社法が改正され、資本金に制限がなくなってからは10万円もあれば誰でも「社長」になれます。問題は継続させることです。創業後1年以内に廃業する会社は3割を超え、3年以内で7割、10年以内に9割以上が倒産すると言われており、中小企業庁の統計でも同じような数字が算出されています。

筆者が独立した時も、多くの先輩社長から「3年頑張れ」と言われたものです。1~2年は勢いで乗り切れるが、3年目ともなれば時代が変化し環境も変わるので、そこが踏ん張り時だと励まされました。そして実際、独立から2年が過ぎた頃、月の売上が3万円(税別)となります。わずかな蓄えを取り崩す、明日をも知れない日々を救ってくれたのが「ビジネス書」でした。月商3万円だった筆者はマイホームを購入し、そして現在10年目です。

ビジネス書はノウハウを中心とした「実用書」と、精神論が中心の「自己啓発書」に大別できます。どちらもすでに成功した人の視点で描かれているか、あるいは独自の世界観で綴られているので、一般人が理解するにはハードルが高いものです。それを実戦で使えるように「カスタマイズ」するのがこの連載の狙いです。会社員でも技術者でも、というより主婦や中学生でも「使える」ようにビジネス書を「カスタマイズ」していきます。

願うだけなら「タダ」

『引き寄せの法則』(マイケル・J・ロオジエ著/石井裕之監修/講談社)。「ポジティブに願えばすべて叶う」と説いている

今回、取り上げるビジネス書は『引き寄せの法則』(マイケル・J・ロオジエ著/石井裕之監修/講談社)。2007年の初版以来、版を重ねているロングセラーで、ミクシィの中には「引き寄せの法則」と冠したコミュニティがたくさんあります。「引き寄せの法則」を紹介している書籍は多く、そのなかで最初に「マイケル版」を紹介した理由は「読みやすさ」です。文章が簡潔で、急げば1時間とかからず読了できます。その結論をひと言で述べればこう。

ポジティブに願えばすべて叶う

眉に唾を塗ったあなた、10年前の私と同じリアクションです。会社を辞めることを決断した頃、たまたま手にしたビジネス書が自己啓発系で、ページをめくり「そんな馬鹿な」とクールを気取りつつも、「願うだけで叶うなら丸儲け」という打算が勝ったことを告白しておきます。願うだけなら「タダ」。つまりこんなにお得な話は滅多にありません。

筆者も体験「引き寄せの法則」

「願えば叶う=引き寄せる」というメカニズムについて、本書では「原子」から科学を引用して「自然の法則」と結論付けるのですが、説明自体は文系の筆者にはちょっと難解。類書を読んでいなければ、そこで手放したかもしれません。だからその部分はスルーします。

というより、「引き寄せの法則」が「自然の法則」なら、経験則により存在が確認されている自然現象と理解するほうがすっきりとします。それは我々が求めるものがビジネス書からもたらされる果実であり、光合成の神秘を解き明かすことではないからです。

「引き寄せの法則」はオカルトやスピリチュアル、自己啓発セミナーのネタではなく実在すると言えるのは、筆者自身が何度も「引き寄せ体験」をしているからです。本書では「ジャニス」や「グレッグ」といった外国人が登場し、経験を語りますが、いかんせん海外のことですし、支払いの場面で「小切手」が登場するなど、生活習慣の違いから感情移入が難しい部分もあります。そこで筆者の体験から、引き寄せのメカニズムを解説します。

日韓ワールドカップを応援する自分を願って

そう、筆者は2002年に開催された日韓共催のワールドカップのチケットを「引き寄せ」たのです。日本の初戦・歴史的「勝ち点1」を記録したベルギーとの試合です。正規ルートからの購入は絶望的な難しさで、ヤフーオークションでは異常な高値で落札されていました。また、チケットの大半が超大手広告代理店やタレントなどのメディア関係者に振る舞われているとまことしやかに噂され、その後、試合を観戦したと自慢する芸能人の多くが入手ルートを告白していないことから、この話はあながち遠くないのでしょう。

当時は新聞社や出版社に知り合いがおらず、残る入手ルートは「プレゼント」だけでした。応募のために何個カップヌードルを食べたことでしょう。電動ヒゲそり機も買い換えました。そしてそのすべてにハズレました。そこで「引き寄せの法則」にあるように、代表のレプリカユニフォームを着て、スタジアムで応援するポジティブな自分のイメージを描きながら床につきます。もはや「願う」しか手段がなかったのです。

チケットはある朝突然に

開幕が直前に迫ったある日、取引先で訊ねられます。

「日韓戦のチケット欲しい?」

我が耳を疑いました。街角の不動産屋でチケットを入手できたのです。不動産屋の社長の親族に、ワールドカップ公式スポンサーの企業に勤務している方がいて、身内枠で2枚だけ購入できた1枚を譲ってくれるというのです。偶然だろうというのは簡単。しかし、明らかに「引き寄せ」たのです。

何度もスタジアムに足を運び、埼玉スタジアム2002のこけら落としとなった「日本対イタリア戦」で、「君が代」を歌う工藤静香さんの歌唱力に国際的に恥ずかしくなったエピソード、初めて元日本代表の木村和志さんの「曲がるフリーキック」を見た時の感動とともにサッカーへの情熱を語り、「ワールドカップを見に行くのだ」と会う人ごとに宣言していました。これが「引き寄せの法則」を発動させました。

引き寄せられるメカニズム

当時、「欲しいか」と問われれば、誰もが頷いたプレミアチケットです。それを筆者が「引き寄せ」ることができたのは、「宣言」していたからです。ここで「引き寄せの法則」を「カスタマイズ」。本書では主に内面的な変革を中心としたメソッドが用意されております。しかし、手っ取り早く「引き寄せの法則」を体感するなら、自分の願望を「宣言」します。

ワールドカップのチケットを入手できることになった取引先の人が一番に話を持ちかけてくれたのは、筆者が「宣言」していたからです。「チケット=筆者」と連想したと言います。これは引き寄せの法則のメカニズムの一端です。

自分の望みを「宣言」することで、協力者が現れる確率が飛躍的に高まるのです。本書に習って「科学的」に説明を試みるなら、質量保存の法則により、世界は普遍の質量を持っており、自分の願望を「宣言」により世界に押し込むことで、「世界」から「幸運」が押し出され戻ってくるといったところでしょうか。もっと簡単にいえば「押しくらまんじゅう」です。

「引き寄せの法則」は人気があるだけに、これだけでは終わりません。今回はここまでとし、次回も引き続き「引き寄せの法則」についてお話しましょう。

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi