今回は中国人社員へおこなった「英語によるマーケティング講義」の話をしよう。

私はこれまで社内研修やOJTでマーケティングを学んできてはいるのだが、人様に教えるような段階ではないのはたしか。しかし、これもお仕事お仕事。この講義は昨年も別の担当者により実施されていたので、昨年のスライドを流用させていただいた。

その中で気になったのは、テキスト中心のスライドになっていることだった。このままでは本番でテキストを読み上げる自分が想像できた。

マーフィーの法則通り、それは現実となり、前回の自部署の紹介と同じような棒読み説明になってしまったスライドが多かった。私の下手な発音の説明だけより、スライドに書いてあったほうが理解できるからこれも悪くない……となぐさめた(とほほ)。

中にはシンプルな図しかないスライドもあったのだが、昨年どのような説明をされたのかはスライドだけからはわからないので、そういうスライドは削除するしかなかった。やはり、スライドは自分で作らないと思い通りの説明はできないことを改めて思い知った次第。

とはいえ、私なりに工夫した点もあった。

マーケティング用語に「マーケットイン」と「プロダクトアウト」というのがあるのはご存知のことと思う。マーケットインとは顧客志向のことで、顧客のニーズをつかむことを第一とするアプローチのこと。一方、プロダクトアウトとは自社の強み技術を研究開発し、製品にするというアプローチ。

私の部署は研究部門なのでプロダクトアウトになりがちなのだが、マーケットインにより顧客のニーズに合うものにしないと売れる製品にならないのも事実。

ここでは両方が大事ですよーという説明をしようと思った。昨年のスライドにはmarket-in/product-outという言葉が使われている。しかし、どうやらこれらの言葉は英語ではないようなのだ。

Google先生に聞いても、英語のサイトでは一切使われていないので、よくよく調べたら、market-oriented/product-orientedが正しい英語であることがわかった。

そういえば「マーケットイン」という言葉を始めて聞いたとき、何のことかよくわからなかったのを覚えている。マーケットに何かをインするのか? マーケットに自分がインするのか、英語的発想で考えると私には意味不明だった。プロダクトアウトは何となく製品を外に出すのだな、というイメージはつかめたのだが……。

これらの言葉を作った人は「マーケット・オリエンテッド」「プロダクト・オリエンテッド」では日本人には理解しにくいと考えたのであろうか。大きなお世話である。顧客志向、製品志向とでもしておいてくれればよかったのに。皆さんも英語でmarket-inなどと使わないように注意されたい。

もうひとつ、テキストばかりのスライドを前に、これでは読み上げるだけで終わってしまい、時間がえらく余ってしまうことを危惧した私は、聴衆を巻き込むスタイルを導入した。

皆さんもよく見かけるのではないだろうか、プレゼンテーションで、観客に質問して反応を見るという形式。あれをやろうと思った。

market-oriented/product-orientedの部分で、「それぞれどんないい面と悪い面がありますか?」と聴いてみたのだ。What is good point? What is bad point?と。

これは想像以上に良い成果を上げた。中国人からは積極的に発言があり、私は、Good. That's right.などと(上から目線で)言いながらホワイトボードに書いていく。多少ピントはずれな発言であっても、「それは違う」などと言わずにホワイトボードに書いていく。ホワイトボードに余白がなくなったら、私の模範解答を発表する。

ホワイトボードに書いた聴衆のアイデアは特に使わない。ただ書いただけ。では何のために書いたのかというと、聴衆が自ら発言することで、講義への積極的な参加意識を引き起こすためだ。また、他人の意見を聴くことで、自分も物を考えるようになるという効果もあると思う。

しかし、これが日本人の聴衆だと残念ながら活発な発言は望めない。日本人は個人では積極的に発言しない性質があるからだ。日本人の場合は小規模なグループをいくつか作らせて、グループ内で議論して、グループとして発表するという形式がうまくいく。来年も機会があったら中国人にグループ討議をさせてみようかな、と思っている。

前回と今回の2回の英語プレゼンの経験からの反省事項はやはり、テキストが主体であるプレゼン資料のpoorさだ。そこで、自分なりに何とかしようと思い立って注文した『プレゼンテーション Zen』が届いたのでぱらぱらと眺めているが、プレゼンにおける革新的なことが書かれているので機会があったら紹介したい。

著者紹介

本多義則 (Yoshinori Honda)

日立製作所勤務のIT系研究者。10年前に趣味と実益を兼ねて英語学習を再開以来、アナログからデジタルまであらゆるツールを駆使して英語学習に励んでいる。職場では「英語ができる男」と見られているが、実はそうでもない真の実力との差を埋めるべく、英語学習をやめられなくなっている。休みの日の朝は英語のメルマガ執筆にいそしむのが習慣。取得した英語関連の資格は、英検1級、TOEIC955(瞬間最大風速)、通訳案内士(英語)。座右の銘は「あきらめない限り必ず伸びる」。著書に『伸ばしたい!英語力―あきらめない限り必ず伸びる