開口合成で高解像度を実現

どれだけ細かいものが区別できるかという望遠鏡の解像度は、観測する波長とレンズ、あるいは反射鏡の直径の比で決まる。したがって、可視光より数1000倍波長が長いミリ波では、同じ解像度を得ようとすると、巨大な直径のパラボラアンテナが必要となる。

現実には、このように大きなパラボラを作ることは出来ないが、離れたところに置いたパラボラで観測することにより、等価的にアンテナ間の距離の直径のパラボラと同じ解像度を実現するのが「開口合成」という技術である。

2つのアンテナに届く電波の距離の違いが光路差

距離Lだけ離れた2つのパラボラで遠方の電波源からの信号を観測すると、右側のパラボラに比べて、左側のパラボラに到着する電波はL×Sinθだけ長い距離を進む必要がある。この違いを光路差という。

右側のアンテナで受信した電波を遅延回路で遅らせて、左側のアンテナで受信した電波と比較してみると、遅れ時間を電波がL×Sinθの距離を進む時間とした場合に、一番良く一致する。Lは正確に測られているので、L×Sinθが分かれば、電波源の方向であるθが分かる。

Δθだけ角度の違う方向からくる電波のL×Sin(θ+Δθ)はL×Sinθよりも少し長くなる。この光路差の違いが電波の1/2波長である場合には、右と左のアンテナからの信号を加えると、山と谷が重なり、打ち消されてしまう。

つまり、Lが波長に比べて大きい場合は、ほんの少し角度が変わっても1/2波長の光路差となって受信信号はゼロになってしまう。これは、わずかに違う方向から来る電波を見分けることに相当し、アンテナ間の距離Lに相当する直径のパラボラアンテナを使った場合と同等の分解能が得られる。

しかし、これだけではθ+2Δθ、θ+4Δθ、…の方向からの電波は1波長の光路差となり、山と山、谷と谷が重なって強く受信されてしまい、電波源がθ方向にあるのか、θ+2Δθ、θ+4Δθ、…方向にあるのか区別ができない。しかし、アンテナ間の距離である基線長Lを変えると、1波長の光路差となる角度が変わるので、色々なLで測定を行い、それらの結果を総合すれば本当は、どの方向から電波が来ているのかを求めることができる。

3つのスケールで描いたALMAアンテナの設置位置。黒い点は約200カ所の設置可能位置で、赤い点はパターン18のアンテナ配置(出典:"The Atacama Large Millimeter/Submillimeter Array" Proceedings of the IEEE Vol.97, No. 8, August 2009)

このように正しい電波の方向を知るには、色々なLのアンテナペアの信号を比べる必要があり、ALMAのアンテナパッドの位置は、このようなデータが効率よく得られるように考えて配置されている。このように複数のアンテナを使って高い解像度を得る手法を"開口合成"という。

なお、地球は自転しているので、観測する天体の方向や角度が変わって行く。このため、地上のアンテナ位置が一定でも基線長Lやθは時間につれて変わっていくので、 時間を掛ければいろいろな基線長のデータが得られる。

長い基線のアンテナ群の開口合成により高い解像度が得られるのであるが、大きく広がったガス雲のような対象では、すこし角度が変わっても信号の強さが変わらず、見えなくなってしまう。丁度、木に近づきすぎて森が見えなくなっているようなものである。森を見るような大局的な観測を行うためには、基線長を短くする必要がある。しかし、12mのパラボラの場合、アンテナ間の距離は15m程度が最短で、これより近くに配置することはできない。

ACAの4基の12mアンテナ (C) 国立天文台

これをカバーするのが直径7mのパラボラを12台持つACAである。パラボラの直径が小さいので、9m弱まで近接して配置することができる。アンテナ位置の図の中の左上の図の中央の少し上に点が固まっているが、これがACAアンテナの配置位置である。また、ACAは4台の12mパラボラを持ち、これらのアンテナは開口合成にも使えるが、単独のパラボラで電波の強度を測ることができ、より大きく広がった対象を観測することができる。次の図はuv特性と呼ぶもので、電気で言えば周波数特性のようなもので、12mアレイは図の右側の空間周波数が高い(より細かい)部分では高い感度を持っているが、低い周波数では感度が無くなるハイパスフィルタのような特性になっている。ACAの7mアレイはuv距離が7mから20mの中域の周波数で感度が高く、ACAの4基の12mアンテナからなるTPアレイは干渉計ではなく総電力を測るモードで動かしており、電気で言えば直流に相当する0mから5m程度のuv距離で感度をもっている。

ALMA望遠鏡のuv特性。横軸はuv距離、縦軸は受信感度に相当する(出典:"The Atacama Compact Array (ACA)",Publ. Astron. Soc. Japan 61, 1-12, 2009 February 25)

したがって、これらの3つのアレイの出力をうまく重ねることにより、ALMA望遠鏡が目標とする図中に点線で示されたフラットなuv特性を実現し、広がった対象から微細な構造を持つ対象まで広範囲の観測が行えるようになっている。

(次回は8月29日に掲載予定です)