今回は、ヘリコプターの操縦に関する基本的な話についてまとめてみた。固定翼機とはだいぶ「勝手の違う」乗り物である。そこで、ヘリコプターの操縦をどうやって実現しているか、という話をしよう。

ローターの向きとローター・ブレードの角度

ヘリコプターは、回転するメインローターによって揚力を生み出している。メインローターが水平な状態なら、機体を支える力は真下に向けて発生するから、空中停止(ホバリング)を行える。では、前進したりバックしたり、あるいは左右に横移動したりする際はどうするか。

ヘリコプターの操縦席を見ると、固定翼機と比べて大きく違うようには見えない。正面には操縦桿みたいなものが付いていて、左側にはなにやらレバーがある。両脚はペダルを踏むのに使う。ところが、それぞれの操作系の機能がまるで違う。

アメリカ空軍の救難ヘリコプター・HH-60Gペイブホークの操縦席。ちなみに、固定翼機と違って機長席は右側

固定翼機は前進速度があることが前提で、それを受けて機体の姿勢を変える力を生み出すために、各種の操縦翼面を動かす。そのために操縦桿やラダーペダルが付いている。そして、前進速度を増したり落としたりするために、エンジンの出力を加減するスロットル・レバーがある。

ところが、ヘリコプターは前進速度によって揚力を生み出すのではなく、回転するメインローターによって揚力を生み出すので、操縦に際しての考え方も違う。

例えば、空中停止しているのは、揚力と機体の重量が釣り合っているからだ。ということは、メインローターが生み出す揚力を増やせば、機体は上昇する。逆に、メインローターが生み出す揚力を減らせば、機体は下降する。

固定翼機だと、エンジンの回転数、あるいは推力を増減させているが、ヘリコプターはそこが違い、基本的にはエンジンの回転数は一定。揚力の増減は、ローター・ブレードの迎角を変化させることで行う。(失速しない範囲内でのことだが)迎角を増やせば揚力が増えるし、迎角を減らせば揚力が減る。

では、横方向の移動はどうするか。メインローターが生み出す力を、真下ではなく斜めにすれば、それで横方向の移動が可能になる。例えば、メインローターの回転面を前傾させれば、生み出す力の向きは真下ではなく斜め後ろを向くから、それによって水平方向の分力が生じて前進できる。後退あるいは横移動も、向きが異なるだけで考え方は同じだ。

ただ、メイン・ローターの回転中心となるローター・ヘッドのメカニズムによって回転面の向きを変えようとしても、複雑になってしまって具合がよろしくない。そこで、ローター・ブレードは回転しながら迎角を増やしたり減らしたりできるようになっている。ホバリング中はブレードがどこを向いていても迎角は一定だが、動いているときにはブレードの向きによって迎角が変わる、という器用なことをやっている。

そこで出てくるのがサイクリック・ピッチという言葉なのだが、その詳しい話は次回に取り上げる。

最後に、機首の向きを変える必要が生じた場合はどうするか。前回、テイルローターの話をしたが、そのテイルローターが生み出す力を加減すれば、機首の向きは変えられる。通常は、メインローターが生み出す反トルクとテイルローターが生み出す力が釣り合っているから、機首の向きは変わらない。テイルローター・ブレードの迎角を増減させれば、テイルローターが生み出す力が増えたり減ったりするので、それによって釣合が崩れて機首の向きが変わる。

ただし、これはテイルローターがある場合の話で、タンデムローター、2重反転ローター、交差反転ローターの場合は、別の方法が必要になる。いずれも2個のローターを持っていて、それらが互いに逆方向に回転することで反トルクを打ち消しあっているわけだから、その釣合を崩せば機首の向きを変えられる理屈になる。

機種によってはメインローターやテイルローターだけでなく、補助として操縦翼面を備えている場合もある。米軍や自衛隊で使っているシコルスキーH-60シリーズが典型例で、テイルローターの下に水平尾翼が付いている。この水平尾翼の角度を変えることで、機首の上げ下げをアシストしている。もちろん、そこに気流が当たらなければ力を生み出すことはできないから、ホバリング中だと使えないが。

H-60シリーズでもう1つ面白いのは、テイルローターが真横を向いているのではなく、少し傾いていること。つまり、反トルクを打ち消すだけでなく、若干の揚力も生み出している。

真正面から見たUH-60J(海上自衛隊の救難ヘリ)。テイルローターの回転面が、真横ではなく、少し傾いている様子が明瞭にわかる。その下方、大きく角度が付けられた水平尾翼にも注意

なお、メインローター・ブレードが発生する揚力は、実はブレード全体で一様になるわけではない。飛行機の主翼と違ってメインローター・ブレードは回転するものだから、付根(ローター・ハブ)に近い部分と先端部では周速が違う。周速が違えば、発生する揚力も違う。

つまり、付根から先端部に向けて周速が上がっていく分だけ、発生する揚力も違うことになる。それではアンバランスが生じてしまうので、ブレードにねじりを持たせることで解決している。付根の部分では強いねじれを持たせて、その分だけ大きな揚力を発生させる。そして先端部に向けてねじれを減らすことで、全体で均一な揚力を発生するように工夫をする。

どの操作系で何を変えるか

では、機体の上昇・下降、進行方向の指示、速度の増減をつかさどる要素であるところの、「メインローター・ブレードの迎角」「メインローターが発生する揚力の向き」「テイルローター・ブレードの迎角」を、何を使って変えるのか。

まず、メインローター・ブレード全体の迎角を変えて揚力の増減を指示するのが、左手で操作するコレクティブ・ピッチ・レバー。後ろにヒンジが付いていて、引き上げたり降ろしたりすることで迎角を増減させる。

メインローター・ブレードについて、どちらを向いている時に迎角をどう変えるかを指示して、結果として機体が進む方向を決めるのが、正面に生えているサイクリック・ピッチ・スティック。前に倒すと機体は前進するし、その他の向きについても倒した向きに機体が進む。

テイルローター・ブレードの迎角を変えるなどの方法で機首の向きを変えるための指示を出すのが、左右のアンチトルク・ペダル。ラダーペダルともいうが、方向舵がないのにラダーペダルというのもなんだか変だ。

エアバス・ヘリコプターズ製H160ヘリの操縦席(モックアップ)。2016年の「国際航空宇宙展」に持ち込んだもの。左がコレクティブ・ピッチ・レバー、右がサイクリック・ピッチ・スティック、その奥にアンチトルク・ペダル。これは左席だが、右席も同じものが付いている

ちなみに、上の写真でレバーやスティックにボタンやスイッチがいろいろ付いているのは、いちいち手を離さずに操作できるする狙いによる。この話は別途、「軍事とIT」で取り上げる予定。