これまで、5回にわたり、降着装置を取り上げてきたが、さらに降着装置の話が続く。今回は肩の力を抜いて、うんちくというか小ネタというか、そんな話をいろいろ集めてみた。

中心線から外れた首脚

収納方法はシンプルな前上方振り上げ式だが、取り付け位置が変わっているのがリパブリックA-10サンダーボルトII。普通、首脚は1本だけだから機首下面の機体中心線上に取り付けるものだが、この機体は右側にずれて付いている。

A-10サンダーボルトIIを正面から見たところ。首脚が中心線上に付いておらず、右側(写真だと左側)にずれている

その理由は、主兵装となる30mmガトリング機関砲「GAU-8/A」にある。この図体の大きい機関砲は戦車を破壊するために付いているのだが、大口径で威力が大きい分だけ、撃ったときの反動が大きい。だから、機関砲を機体の中心線上に取り付けないと、撃った時の反動でヨー方向の動きが発生して狙いが外れてしまう。

その結果、機首から胴体半ばにかけての機体中心に機関砲が陣取ってしまったので、押し出される形で首脚は右側に寄ってしまった。しかし、そのせいでタキシングが難しくなったという話も聞かない。

ロッキード・マーティン製のF-16ファイティングファルコンも中心線から外れたところに機関砲が付いているが、こちらは20mm径のM61だからGAU-8/Aより反動はずっと少ないし、フライ・バイ・ワイヤ(FBW)操縦システムが反動に起因するヨーを自動補正してくれる。F-35ライトニングIIもたぶん同じだ。ところが、A-10にはそんな高級な(?)メカは付いていない。

降着装置がむき出し

第2次世界大戦当時の軍用機だと、引込脚ではあるものの、引き上げた状態でも車輪が部分的に外に出ている機体が結構あった。

飛行中のボーイングB-17フライングフォートレス爆撃機。内側2基のエンジンを覆うナセルに主脚が取り付いているが、引き上げた状態でもタイヤが3分の1ほど露出したまま Photo:USAF

また、車輪部分の収納室扉がない、あるいは一部しかなく、車輪が外から見える機体も少なくなかった。メジャーな戦闘機だと、スーパーマリン・スピットファイア、メッサーシュミットBf109、日本の一式戦闘機「隼」あたりがそれだ。脚柱はちゃんと蓋をしているのだが。

と思ったら、いまどきのジェット機でも、脚収納室の扉がない機体がいくつもある。日本で見られる機体でいうと、ボーイング737、エンブラエル170、そして三菱MRJだ。

いずれも、主脚は一般的な内側振り上げ式で、収納した状態だとタイヤの側面と機体の外板がおおむねツライチにそろうようになっている。さすがに脚柱はちゃんと扉を設けて蓋をしているが、車輪は扉を追加することで増える重量(扉だけでなく、開閉機構の分も重量増になる)と、扉を追加することで減る空気抵抗を天秤にかけた結果、「扉は付けない」と判断したわけだ。

また、車輪が露出していると、ブレーキを使って温度が上がったときの冷却にも効果があると考えられる。

脚上げ状態のボーイング737。主翼付け根の下面にタイヤが露出している様子がわかる

そこで、ちょっとした工夫をしたのが三菱MRJ。扉がないのだから、当然、脚上げ状態ではタイヤと主脚収納室の間に隙間ができる。そこで、主脚収納室や扉の縁にブラシ状のものを取り付けて、隙間を埋めて空気の流れを乱さないように工夫した。

MRJの主脚。扉とタイヤの間に、隙間を埋めるためのブラシ状の物体が付いている様子がわかる。この角度だとわからないが、主脚収納室の縁にも同じものが付いている

胴体に主脚を取り付ける

三車輪式でも尾輪式でも、主脚の間隔があまり狭いと安定した離着陸が難しくなるので具合が悪い。

第2次世界大戦中の戦闘機だと、主翼に主脚を取り付けて内側に振り上げる方法が主流で、おなじみの零戦もその一例。こうすれば十分な左右間隔を確保できるが、主脚が取り付く部分の翼桁には大きな荷重がかかる。さらに、主翼に曲げ荷重がかかり、主翼と胴体の結合部にも荷重がかかる。つまり構造的にはつらい。

だから、胴体に主脚を取り付ける方が構造的には楽で、グラマンF4Fワイルドキャット、スーパーマリン・スピットファイア、メッサーシュミットBf109といった機体はそうやっている。

すると、主脚の収納は必然的に外側振り上げ式になる。F4Fは主脚を胴体側面まで振り上げて収納しているが、これがなんと手作業だ。だから、離陸なり発艦なりの後はハンドルをグルグル回さないといけない。一方、スピットファイアやBf109は主翼に収納しているし、手動式ではない。

米空軍博物館の展示品になっているスピットファイアV型C。脚柱の内側に扉が付いており、(角度の関係で見づらいが)外側に振り上げた位置に主脚収容室がある。ちなみに、タイヤの下の3分の1ほどは脚上げ状態でも露出している Photo:USAF

離着陸時の滑走速度が速いジェット戦闘機ならなおのこと、主脚の間隔は十分に確保したい。ところが、低翼ならいいが、中翼や高翼の機体だと、主翼に主脚を取り付けるわけにはいかない。脚柱が長くなりすぎるし、脚柱が長くなれば収容室のスペースも大きくなってしまう。

かといって胴体に取り付けると、左右間隔を十分に確保するのは難しい。特に、胴体の幅が狭い単発機はそうだ。F-15やF/A-18やF-22は双発機だから胴体の幅が広いし、F-35は単発機ながら機内兵器倉のおかげで胴体の幅は意外と広い。では、単発で胴体が細い機体はどうするか。

F-16は斜め下に向けて上げ下げすることで左右間隔を確保したが、その分だけ主脚の脚柱は長くなり、前後方向のスペースを食っている。アメリカではヴォートF-8クルセイダーやA-7コルセアII、ロッキードS-3ヴァイキングも同じ構造。

MiG-23の降着装置は傑作

一方、面白い方法を使ったのがミコヤンMiG-23フロッガー。脚柱の中間に前後方向の軸を入れて、「く」の字に曲げて畳み込むようにしている。ただし、それだけだと衝撃吸収のためのオレオ機構を組み込む余地がない。そこで、「く」の字型に曲がる脚柱の先に、F/A-18と同様のメカ(第29回を参照)を付けてある。

「く」の字型の脚柱のうち、上側の脚柱は下まで降ろさずに水平の位置で止めて、これで左右間隔を確保している。そして、下側の短い脚柱が垂直の位置まで降りる。その先にヒンジがあって、そこから後方に向かうリンクの先に車輪が付いている。

離陸すると機体重量が抜けるから、車輪が取り付いたリンクは下に降りてくる。その状態で主脚全体が「く」の字型に畳まれて、胴体側面の狭いスペースに納まる仕組み。

筆者に画才があれば3次元グラフィックのイラストかアニメを作って見せられるのだが、それができないのが悔しい。ともあれ、この構造を知った時には「やられた !」と思ったものだ(何に?)。こんなにメカ好きをうならせてくれる降着装置は、そうそうあるものではない。