【コラム】

航空機の技術とメカニズムの裏側

29 降着装置(4)降着装置の畳み方いろいろ

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前回、「降着装置はできるだけ、自然落下を妨げない向きに振り上げて収納する」と書いた。この基本原則に間違いはないのだが、取り付け位置と脚収納室を確保できる場所の位置関係をはじめとするさまざまな理由から、原則から外れる場面も出てくる。そして、畳む向きも構造もさまざまなバリエーションができる。これがメカ好きを楽しませてくれるところでもある。

ひねって畳む

民航機の降着装置は大抵の場合、どの向きであれ、脚柱の付け根に取り付けられたヒンジを使って振り上げて収納するだけ、というシンプルな形態だ。ところが軍用機、とりわけ戦闘機では、シンプルに振り上げるだけでは済まないことが往々にしてある。

例えば、F-16。この機体は胴体下面にエンジン用の空気取り入れ口があり、その後方に首脚が付いている。当然、首脚収納室の上には空気取り入れ口からエンジンに伸びるダクトが走っているから、そこに漫然と首脚収納室を設けたら、ダクトの中に首脚収納室がボコンと突出してしまう。

そこでF-16の首脚は、90度ひねって車輪を横に寝かせた状態にして収納するようになっている。こうすると首脚収納室の幅は増えるが、シングルタイヤだから幅は狭く、高さは抑えられる。よって、空気取り入れ口からエンジンに伸びるダクトへの食い込みは抑えられる。

米空軍のアクロバットチーム「サンダーバーズ」のF-16が離陸したところ。エンジン排気でカゲロウになっていて見づらいが、右端の2番機を見ると首脚が横向きにひねられている様子が分かる。他の機体と見比べてみよう Photo:DoD

ちなみに主脚は、胴体の左右それぞれ斜め下に取り付いており、付け根の耳金も斜めに取り付けてある。だから、真上ではなく斜め上に向けて振り上げられて、無事に胴体内に納まるようになっている。

伸びてひねって畳む

面白いのがF/A-18ホーネットの一族で使っている主脚。地上にいるときはこんな状態である。

F/A-18Eスーパーホーネットの主脚。脚柱の途中にヒンジを設けて曲げている

別の場面だが、ホーネットの主脚を裏側から見た様子。これだと構造がわかりやすい

一般的な降着装置のイメージと違うのは、頑丈な脚柱の途中にヒンジが付いていて、下半分が後方に曲がった状態になること。そして、ヒンジを挟んで上半分と下半分を結ぶ形でショックアブソーバーが付いている。

これは、空母にドカンと着艦する時にかかる負荷に耐えられるように、高い衝撃吸収能力を持たせたため。脚柱を途中から曲げて独立したショックアブソーバーを設けることで、ストロークを長くとれるようにしている。

だから、機体が空中に浮いている時、あるいは設置した瞬間だと、まだ脚柱は伸びた状態になっている。下の写真はEA-18Gグラウラー電子戦機だが、機体の部分はF/A-18Fスーパーホーネットと同じで、降着装置も同じだ。

着艦する直前のEA-18Gグラウラー。まだ脚柱が伸びた状態になっている Photo:US Navy

上の写真のすぐ後に、機体が飛行甲板にドカンとたたき付けられて、それとともに脚柱が曲がり、ショックアブソーバーが衝撃を吸収する仕組みになっている。

なお、空中に浮かび上がって荷重が抜けると主脚は下にだらんと伸びるが、その状態で90度ひねって後方に振り上げて収容するようになっている。だから、先に示した地上での写真を見ると、左側(後方)に主脚収容室扉が付いている。

ボギーだけ角度を変える

戦闘機だと、1つの脚柱に取り付くタイヤの数は1個か2個ということがほとんどだ。民航機でも小型の機体だと同様である。しかし、1つのタイヤで支えられる重量には限りがあるから、機体が大型になると、1つの脚柱に取り付くタイヤの数はもっと増える。

大型の民航機だと、首脚はダブル、主脚は2軸ボギーにしてそれぞれにダブル(つまり4輪)という形態が多い。ところがボーイング747の場合、その2軸4輪ボギーの主脚が主翼と胴体から2本ずつ生えていて、主脚は4本脚である。

そして、地上を走っている時にスムーズに旋回できるように、胴体側の主脚は主翼側の主脚よりも少し後ろにずれて付いている。では、この4本脚をどう収容するか。

まず胴体の主脚だが、これは単純に前方に振り上げて収容する。だから収納室の高さは必要だが、幅はそれほどでもない。そして、その胴体側主脚収納室の前方に、内側振り上げ式になっている主翼側主脚の収納室が陣取る。

実は、漫然と主翼側の主脚を内側に振り上げて収容すると、胴体側主脚収容室と重なってしまう。そこで主翼側の主脚に取り付けられたボギーは、脚柱との結合部にシャフトを入れて、角度を変えられるようになっている。

空中に浮いている状態では、主翼側主脚の4輪ボギーは前上がりになっていて、その角度は53度だ。着陸して機体重量がかかると、前上がりの状態は解消する。こうすることで、主脚収納室の前後方向の幅を縮めることができる。その分だけ幅は広がるが、胴体側主脚の収容室は内側ではなく後ろ側に隣接しているから、干渉しない。

着陸進入中のボーイング747。主翼側の主脚を見ると、4輪ボギーが前上がりになっている様子がわかる

エアバスA380も4本脚だが、こちらは主翼側の主脚が2軸の4輪ボギーなのに対して、胴体側主脚は3軸の6輪ボギーだ。やはり胴体側主脚の方が少し後ろにずれて付いている。747と違うのは、そのボギーが空中にいるとき、前のめりになっていることだ。もちろん、着陸して機体重量がかかると、前のめりの状態は解消する。

ちなみに、3軸6輪ボギーの主脚はボーイング777でも使っている。これが777と767を見分けるポイントの1つ。重い脚柱の数を増やさずに、タイヤだけ増やしたわけだ。

タイヤを3列に並べているのが、C-17AグローブマスターIII。軍用輸送機の常で胴体両側面に主脚収納用のバルジを張り出させているから、幅が広くなるのはあまり問題にならない。むしろ、長さを抑えたかったということだろう。大きな機体重量を支えるために主脚が四本脚になっているが、高翼だから主翼に脚柱を取り付けることはできない。すると胴体両側面のバルジに4本の主脚を取り付ける必要があるので、長さが増えては困る。

3列にタイヤが並んだC-17Aの主脚。写真の上の方を見ると分かるが、降ろした降着装置の上端が胴体側面にはみ出しているのも珍しい Photo:DoD

C-17を下から見たところ。胴体両側面のバルジに四本脚が取り付いている様子が明瞭に分かる Photo:USAF

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インデックス

連載目次
第81回 飛行機の燃料(1)燃料の種類とアブガス
第80回 軍用機の兵装搭載に関わる制約
第79回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(5)戦闘機と推力重量比
第78回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(4)戦闘機の場合
第77回 飛行機を巡るさまざまな「○○重量」(3)軍用機の場合
第76回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(2)
第75回 飛行機を巡る「○○重量」を考える(1)
第74回 トランスミッションに関する補遺とブレード折り畳みの実況
第73回 STOL/VTOL(10)無人機(UAV)の短距離/垂直離着陸
第72回 STOL/VTOL(9)DARPAの実験機「VTOL X-Plane」
第71回 STOL/VTOL(8)スウェーデンのハイウェイは滑走路!?
第70回 STOL/VTOL(7)F-35Bの面白い挙動
第69回 STOL/VTOL(6)VTOLの実現手法いろいろ(3)リフトファン
第68回 STOL/VTOL(5)VTOLの実現手法いろいろ(2)サンダーバードとテイルシッター
第67回 STOL/VTOL(4)VTOLの実現手法いろいろ(1)リフト・エンジンその2
第66回 STOL/VTOL(3)VTOLの実現手法いろいろ[1]リフト・エンジンその1
第65回 STOL/VTOL(2)STOL機の事例
第64回 STOL/VTOL(1)短距離離着陸と垂直離着陸の基本を知る
第63回 ヘリコプター(12)マルチコプターの操縦
第62回 ヘリコプター(11)高温・高標高などへの対処
第61回 ヘリコプター(10)ヘリコプターの降着装置
第60回 ヘリコプター(9)人や貨物の変わった乗せ方
第59回 ヘリコプター(8)オートローテーション
第58回 ヘリコプター(7)速度限界の突破~ティルトローター機
第57回 ヘリコプター(6)速度限界の突破~推進装置を別に持つ
第56回 ヘリコプター(5)エンジンの数と配置
第55回 ヘリコプター(4)ローター・ヘッドとトランスミッション
第54回 ヘリコプター(3)最高速度の限界とローター失速
第53回 ヘリコプター(2)ヘリコプターの操縦
第52回 ヘリコプター(1)ヘリコプターの形態
第51回 操縦室(10)ヘルメット・マウント・ディスプレイ
第50回 操縦室(9)ヘッド・アップ・ディスプレイ
第49回 操縦室(8)グラスコックピット(その2)
第48回 操縦室(7)グラスコックピット(その1)
第47回 操縦室(6)計器の表示方法と配置
第46回 操縦室(5)計器の種類
第45回 操縦室(4)操縦室の場所と配置
第44回 操縦室(3)機体の姿勢
第43回 操縦室(2)高度・針路・方位
第42回 操縦室(1)いろいろな速度と計測の方法
第41回 客室と貨物室(8)客室のあれこれ - オーディオ、ビデオなど
第40回 客室と貨物室(6)ギャレーと機内での食事
第39回 特別編「国際航空宇宙展2016」で見かけたあれこれ
第38回 客室と貨物室(5)扉を巡るあれこれ
第37回 客室と貨物室(4)超特大貨物用輸送機
第36回 客室と貨物室(3)荷物室と貨物室
第35回 客室と貨物室(2)腰掛けと荷棚
第34回 客室と貨物室(1)窓周り
第33回 降着装置(8)しりもち対策
第32回 降着装置(7)空母搭載機の降着装置
第31回 降着装置(6)降着装置を巡るあれこれ
第30回 降着装置(5)タイヤとブレーキを巡るあれこれ
第29回 降着装置(4)降着装置の畳み方いろいろ
第28回 降着装置(3)降着装置の収納方向
第27回 降着装置(2)脚柱と衝撃吸収
第26回 降着装置(1)降着装置の配置
第25回 航空機の動力系統(12)電動式航空機
第24回 航空機の動力系統(11)同一機種にエンジンいろいろ
第23回 航空機の動力系統(10)エンジンの騒音低減
第22回 航空機の動力系統(9)エンジンの配置と架装
第21回 航空機の動力系統(8)推力の向きを変える
第20回 航空機の動力系統(7)2スプール・3スプール・GTF
第19回 航空機の動力系統(6)タービン爆発事故と品質管理
第18回 航空機の動力系統(5)エンジンの羽根を冷やす
第17回 航空機の動力系統(4)アクセサリーいろいろ
第16回 航空機の動力系統(3)エンジンの始動とAPUとRAT
第15回 航空機の動力系統(2)エンジンの動作を妨げる要因
第14回 航空機の動力系統(1)エンジンの種類と動作原理
第13回 飛行機の操縦(6)その他のあれこれ
第12回 飛行機の操縦(5)動翼の作動方法
第11回 飛行機の操縦(4)スポイラーとエアブレーキ
第10回 飛行機の操縦(3)高揚力装置
第9回 飛行機の操縦(2)動翼にまつわるあれこれ
第8回 飛行機の操縦(1)三次元の操縦操作と動翼
第7回 航空機の構造(7)航空機の機体構造材[2]
第6回 航空機の構造(6)航空機の機体構造材[1]
第5回 航空機の構造(5)主翼の配置と翼胴結合
第4回 航空機の構造(4)戦闘機の機体構造
第3回 航空機の構造(3)胴体の構造
第2回 航空機の構造(2)主翼の内部構造
第1回 航空機の構造(1)揺れたり、反ったり、空間が空いたり

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