前回、飛行機の降着装置を配置する際は「尾輪式」と「三車輪式」があるという話を書いた。最近の主流は、地上にいても前方視界を確保しやすい三車輪式だが、漫然と配置を決めて良いわけではない。そして、接地の際に加わる衝撃を受け止めたり、駐機中に機体の重量を支えたりといった仕事もある。

降着装置は機体構造材に取り付ける

本連載の第1回から第5回にかけて、機体構造の話について書いた。外から見ると単なる金属製の茶筒に見えるが、胴体にしろ主翼にしろ尾翼にしろ、骨組と外板を組み合わせて強度を持たせた構造になっている、という趣旨の解説をした。

そして降着装置の配置を決める時は、その機体構造材のうち、骨組にあたる部分に降着装置を取り付けなければならない。外板はごく薄いものだから、そこに降着装置を取り付けた日には、着陸した時の衝撃で外板を突き抜けてしまう。そんな設計をするエンジニアはいない。

これは首脚でも主脚でも尾輪でも同じだ。外から見てもパッとはわからないが、脚柱は外板ではなく、機体構造を構成する骨組の部分に取り付いている。引込脚の場合は引き込み操作のために脚柱を動かす必要があるが、その際の回転軸を支える耳金を骨組部分に取り付ける。

なお、軽量化が必須の航空機では、機体構造材にはアルミ合金を使用するのが一般的だが、降着装置は事情が異なる。強度も十分に持たせなければならないので、Ni-Cr-Mo鋼のような合金鋼が主体となっている。単に丈夫なだけでなく、加工性や疲労強度特性など、さまざまな要求がある。

また、近年ではボーイング777を嚆矢としてチタン合金を使用する事例が出てきているほか、耐食性の観点からステンレスを使用する動きもあるという。ただ、場所が場所だけに冒険はできず、新しい素材の導入には慎重にならざるを得ない。

油で受け止めて、空気で押し戻す

降着装置は普通、伸縮可能になっていて、衝撃吸収のための機構を組み込んである。業界ではオレオと呼んでいるが、クッキーとは関係ない。機構的にはオイルダンパー(ショックアブソーバー)と似ていて、内外二重になった筒の中に油と空気を入れてある。

外部から力がかかって縮む時に、2つに分かれた内部空間の間を油が移動するのだが、境界部分の穴(オリフィス)は内径と比べると小さい。その穴を油が通り抜けようとした時に抵抗が生じる。その抵抗が、結果として減衰力を発揮して衝撃をやんわりと受け止めてくれる理屈だ。

さらに、その穴には棒を通してある。棒の直径が一定なら穴のサイズも一定だが、棒の直径を変化させると、伸縮に伴って穴のサイズが変わる。つまり減衰力が変化する。棒を徐々に太くなるようにすれば、縮むにつれて穴が小さくなるから、減衰力が増すことになる。

しかし、縮んだものは元に戻さなければならない。そこで、空気が登場する。圧縮されて油が流れ込んだ側には空気が入っていて、その空気は当然ながら、油が流れ込んでくれば圧縮される。その状態から元に戻ろうとする力が、オレオを元に戻そうとする動きになる。要約すると「油で受け止めて、空気で押し戻す」ということになる。

通常は、この仕組みを脚柱の中に組み込むので、脚柱が伸縮することになる。その部分は金属地が露出して無塗装だから、すぐわかる。

「国際航空宇宙展2012」で住友精密工業が展示していた、ホンダジェットの首脚。脚柱自体にオレオ機構が組み込まれている

同じく、住友精密工業が展示していたホンダジェットの主脚。脚柱の途中にヒンジが入って折れ曲がる構造で、そこに別体のオレオ機構(脚柱の右側)が取り付いている

ボーイング787の首脚。2本のタイヤの中間に軸受と脚柱が付いている。その脚柱の途中、タイヤの上縁部に近いところに白ではなくシルバー無塗装の部分があるが、これがオレオの伸縮部。地上に止まった状態だから、機体の重量で縮んでいる。その上に2本、V字型にシルバーの筒が突き出た部分があるが、これはタイヤの向きを変える操舵装置

旅客機に乗っていると、着陸した瞬間には下からドンと衝撃が伝わるのがわかる。オレオを組み込んで衝撃を吸収できるようにしていてもこれだから、オレオがなかったら大変だ。衝撃が強ければ床が抜けてしまう(かもしれない)。

ちなみに、機体によってはオレオを使わないで、積層ゴムで済ませてしまった事例がある。第2次世界大戦中に活躍したイギリスの「驚異の木製機 (wooden wonder)」こと、デハビランドDH98モスキート爆撃機がそれだ。

鉄道車両の連結器に取り付ける緩衝器なら積層ゴムを使うのが普通だが、飛行機が着陸した時の衝撃ははるかに大きい。それを緩衝ゴムで吸収できるのかと心配になるが、モスキートの降着装置で何か致命的なトラブルがあったという話も聞かない。構造が簡単になるから、戦時の大量生産には向いていたのは確かだ。

ヘリコプターの場合は事情が違う(こともある)

ヘリコプターの中にはスキッドといって、車輪ではなく橇みたいな形状の部材を使うものがある。垂直離着陸できるのがヘリコプターだから、滑走する必要はない。だから、こういう方法も成り立つ理屈。

スキッドが付いているヘリコプターの例(陸上自衛隊のUH-1ヒューイ)

ヘリコプターでも、車輪付きの機体なら固定翼機と同様にオレオを組み込んだ脚柱を使うのが普通だ。しかし、スキッドを使う機体は脚柱もオレオもない。曲げたパイプ(クロスチューブ)を介してスキッドを胴体側面に取り付けているが、そのクロスチューブのしなりがバネとして作用することで衝撃吸収効果を発揮する。

ところが相手は金属材だから、長く使っているとクロスチューブがだんだんへたってきて、その分だけ機体の位置が地面に近付いてしまう事例もあるらしい。もっとも、ヘリコプターは固定翼機と違って、そんなにドスンと着陸することはないから、クロスチューブの弾性に頼る方法でもなんとかなるわけだ。

もちろん、これで地上を滑走したら壊れてしまうから、移動する時は車輪付きの架台に載せたり、少し浮上して飛びながら移動したりする(ホバータキシングという)。海上保安庁ではスキッド式の機体を船上に降ろしている事例があるが、これだと降着した後の移動が面倒そうだ。

そういう面倒はあるが、離着陸に際して滑走しないで済むのがヘリコプターだから、それに併せて構造を簡素化できるメリットはある。もちろん、構造が簡素になれば製作にかかる費用は安くなるし、部品点数は減るし、保守点検の手間も減らせると期待できる。

ちなみに、スキッド式は車輪と比べると接地面積が広いから接地圧が低く、不整地に降ろす場合には都合が良いそうだ。