【レポート】

ABMを成功させるために注意すべき3つの「落とし穴」(後)

大橋慶太

前半の記事では、ABMを実践するにあたって企業が陥りやすい「落とし穴」について説明しました。今回は、そうした落とし穴に「落ちないための対策」について紹介します。

まずは、前回のコラムのおさらいから。ABMとは、企業が「攻略すべき企業群(アカウント)」をターゲティングし、「組織として」アプローチし、その企業群からの「売上を最大化する」ためのマーケティングの手法です。

売上につながるマーケティング手法として多くの企業がABMを実践していますが、じつはABMを実践しても「効果を感じられていない」企業が多いことも事実です。前回のコラムでは、その理由として以下の3つを説明しました。

【ABMを実践しても効果があがらないおもな理由】

●「プロダクト・マーケティング」の組織体になっている:セールス部門は「アカウントごとに担当」していても、マーケティング部門は「製品ごとに担当」している。「プロダクト・マーケティング」はできても、そもそもABM(アカウント・ベースド・マーケティング)を実践する組織体になっていない。
●ツールの役割を正しく理解できていない:MAやSFAといったツールを導入しても、ツール役割は「攻略できていない企業群」=「ホワイトスペース」を明確化することまで。ホワイトスペースにアプローチする手段がない。
●マーケティング部門が「待ち」の姿勢:狙うべきアカウントを絞り込んでも、その企業群から何らかのアプローチが来るまで動かない「待ち」の姿勢になっている。

こうした「落とし穴」について、どう対策をしたらよいのでしょうか。

まずはマーケット部門の「目線を変える」

まずは、「『プロダクト・マーケティング』の組織体になっている」ことについてですが、じつは日本の企業では、セールスは「アカウントに」、マーケティングは「プロダクトに」というパターンは非常に多いです。

多くの日本企業は、既存顧客からの継続的な「引き合い」が自社の売上の大半を占めることもあり、セールス部門もマーケティング部門も新規顧客に積極的にアプローチすることをあまりしてきませんでした。長きにわたって、既存顧客からの引き合いに応じて既存のプロダクトに改良を加えて納品するスタイルだったこともあり、「セールスはアカウントに」、「マーケティングはプロダクトに」が定着してしまった感があります。

こうした企業がABMを実践するには、マーケティング部門の「目線を変えること」が大切です。マーケティング部門の目線を「このプロダクトの販売量を増やす」から、「このアカウントからの売上を最大化する」に変えていく取り組みが必要です。

それには、組織体制を変えなければならないケースもありますが、企業にとっては「大手術」になってしまいます。そこで、「将来的に大きく売れそうなプロダクト」を扱っているマーケティング部門に限定して、従来のプロダクト・マーケティングではなく、ABMの考え方を取り入れて実践していくという手法があります。「限定的なABMの実践」が現実的な対策となるでしょう。

その際、売れそうなプロダクトについてのABMを実践する専門部隊を別の組織体として構成して取り組むことも選択肢の一つです。

新規顧客のコンタクト確保をアウトソースするという選択肢

次に、「ツールの役割を正しく理解できていない」ケースについてですが、これにはどのような対策が求められるのでしょうか。前偏の記事では、ツールの役割はあくまでも「自社がカバレッジできていない優良顧客を『見える化』する」ことだと説明しました。企業にとって「攻略できていない企業群=ホワイトスペース」を明確化するのがツールの役割です。

ABMを実践するには、ツールが明確にしてくれたホワイトスペースに対する何らかのアプローチが不可欠になります。アプローチを仕掛ける取り組みは、3つめの落とし穴として示した「マーケティング部門が『待ち』の姿勢」への対策としても有効です。

具体的にはどうすべきでしょうか。簡単に思いつくのは「電話をかける」、「ダイレクトメールを送る」、いわゆる「飛び込み」を仕掛けるといった施策ですが、いずれも思ったほどの効果は期待できないでしょう。

じつは、多くの企業がABMを実践しようにも効果を上げられない大きな理由は、ここにあります。つまり、ツールを駆使して攻略すべき企業群を明確にすることまではできても、そこに対してアプローチするノウハウや有効な手段を持ち合わせていないのです。

ここは、「インサイドセールス」と言われる、案件を生成することを目的とした専任チームをつくることが、最も効果的な手段です。ホワイトスペースを攻略し、ニーズを察知し、案件を作り、引き合いのチャンスを取りこぼさないための機能です。セールス部門は対面での営業活動に注力する一方、インサイドセールスチームは、電話やメールなどの非対面の手段で見込み客とのコミュニケーションをとります。(対面の)セールスチームは提案とクロージング活動に集中し、インサイドセールスチームは、その機会を創出するために、対象アカウントを網羅し、潜在ニーズをつかむことがミッションです。

同時に、セールス部門とマーケティング部門、双方の意識を変えることも大切です。既存顧客からの引き合いに応じて、製品やサービスに改良を加えて納品する「待ち」の姿勢から、ホワイトスペースにある企業群に能動的に仕掛けていく「プッシュ型」のアプローチです。とくにセールス部門は「引き合いを待つ」から「(マーケティングと協働で)引き合いを作りだす」姿勢へとシフトする必要があります。これは実は大きな変革が必要です。この実現のためには、まずはセールス部門長の理解と賛同、大きなリーダーシップが不可欠です。

ABMの実践とは、罠を仕掛けて「待つマーケティング」から、狙うべきアカウントを「攻めるマーケティング」への変革です。「プル型」から「プッシュ型」への転換を実現するにも、つてのない新規見込み客との接点の確保が重要になります。この課題を解決する有効な手段として、接点のない・薄い企業への新規アプローチ、コンタクト情報の確保までをアウトソースすることも賢明な選択肢のひとつです。プロに依頼することで、より効率的かつ効果的に、ホワイトスペース企業群を網羅することが期待できるでしょう。

大橋 慶太(おおはし・けいた)

マーケットワン・ジャパン プロフェッショナルサービス部 デジタル&コンサルティングG ディレクター グローバルデマンドセンター・コンサルタント

BtoB/BtoC企業のマーケティング・コンサルティングに15年以上従事。日本初の音楽配信サービスの立上げ、大手製造業のグローバルガバナンスの強化、企業変革など数多くのコンサルティング業務を経験。現在は多くの上場企業を対象に、グローバルマーケティング強化に向けたデマンドセンター構築を支援するコンサルタントとして活躍。実践ステップ策定、プロジェクト管理まで幅広い業務をこなす。



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