大量の制作ノルマを汎用素対で達成

バトンを受け取った赤堀このみ氏は、ここまで語られてきた「武器よさらば」ではなく、スマホRPG「アナザーエデン―時空を超える猫―」(以下、アナザーエデン)チームに所属。メインアニメーターとして2Dモーションなどを担当している。

赤堀氏の業務

アナザーエデンのために作る必要があった素材、モーション数。9か月という納期・少ない人員(2名)のなかでは膨大といえる

アナザーエデンでは、9か月という期間でキャラクター200体、それにつけるモーションを1000種類用意する必要があったという。しかし、常駐しているアニメーターは赤堀氏含めたった2名と人員は限られていた。

チームにたったふたりのアニメーター。だがFlash時代、ひとりのFlashアニメーターが3つのプロダクトを掛け持ちしていることも多かったという

そこで、Flash時代はひとりのFlashクリエイターが3つのプロダクトを掛け持ちで担当することもあったことを思い出し、ひとりでたくさんのキャラクターを作る方法を考案。素材を差し替えるだけでキャラクターの量産が行える、汎用性のある素体を作製した。

汎用的に使える素体の活用でスケジュールを予定より短縮でき、遊び要素の追加にもつながった

そうしたことでスケジュールに余裕が生まれ、待機状態が続いた時のおまけモーションも実装できるなど、作り込みにも繋がったと語った。Flashクリエイターであった時のことを思った作業フローの構築が今の現場に生きた結果となっていた。

"広く浅く"のキャリア、俯瞰的なマネジメントにつながった

最後に登壇したのは、同セッションの司会も務めた丸山彰吾氏。これまではFlashクリエイターから、別のツールを用いるクリエイターへの転身が語られたが、丸山氏はクリエイターからマネージャーへの転身例として、自身のケースを語った。

丸山氏はクリエイティブカンパニー「バスキュール」でFlashメインの業務に携わった後、GREEに入社。Flashを使っていた頃は少数精鋭のチームが多く、多くても6、7人程度だったという。一方、ゲームアプリ開発の現場では、ひとつの役割を10人で担当しているケースもある。役割ごとにその道のプロがいる状況を見て、浅く広く技術を身につけてきた丸山氏は、自分のやれることはないのではないか、と不安を感じたという。

Flashコンテンツ作成からゲームアプリ開発に場を移したところ、その環境の違いに驚いたという丸山氏

「持ち場」がないと焦ったが、人数の多さや立場の違いから調整が必要な状況を知り、その橋渡しを行うように。右の図だとけんかしているように見えてしまうが、そういう意図はないともつけたしていた

しかし、チームに参加した後、人数が多いだけに、各役割のチームごと、また役割の人員間での連携ができてない様子を目の当たりにして、やれることはいくらでもあると思い直し、各チームの橋渡しをするマネジメントの役割を担っていた。また、企画草案をFlashモックにしてチーム内の認識あわせに用いていたという。Flashであればジャストアイデアでもすぐかたちになるため、現場で重宝されたという。

Flash制作がそのまま生きた局面(画像左)もあったが、スケジュール管理や細かな進捗管理など、進行管理の側面が強い

決まらない仕様のミーティングを設けたり、遷移図を巻き取ったりと、広い領域で円滑な制作進行のために動く

丸山氏は、自身がひとつの道のプロフェッショナルでないと前置きしたうえで、Flash時代に積んできた経験もあり、俯瞰的な視点でプロジェクトに関われたとコメントした。また、マネージャーとして、スタッフの適性を見て新たな領域への挑戦を提案したことで、各々、そしてチームそのものが成長したことも語った。

その人の立場、現在の役割ごとに異なる5つのケースだったが、一貫して「Flash制作時の経験」が、新しい環境への適応に一役買っていたと語られていた。締めくくりの挨拶に、同セッションのタイトルはベストセラーのビジネス書「チーズはどこへ消えた?」のオマージュだと言及した丸山氏は、同書の勧めるように"腐ったチーズ"、すなわち使えなくなったスキルを捨てるのもひとつの手だが、新しい実務にも生かせる部分はあったと語った。

Flashに限らず、実務に用いる技術の衰退はイコールで自身の社会的役割の喪失とつなげて考えてしまいがちだ。しかし、今回語られた5人のキャリアパスは、それまでの経験を下敷きにした挑戦や適応を行うことによって、「Flashクリエイター」は別のプロフェッショナルに変貌できるのだというメッセージがこめられているように感じられた。