5月10日~12日にかけて、東京ビッグサイトで計12のIT専門展から成る「2017 Japan IT WEEK 春」が開催された。本稿では、ローソン 執行役員 オープンイノベーションセンター センター長 経営戦略本部 副本部長の白石卓也氏が登壇した特別講演「ローソンが次世代コンビニで取り組むデータ活用戦略」の模様をお届けする。
ビッグデータから顧客の"実態"を見える化
白石氏はまず、ローソンが置かれている環境を紹介した。同社は1975年に大阪へ第1号店をオープンしてから今年で42年を迎え、店舗数は全国1万3000店舗、1日当たりの来訪客は1000万人に上るという。
社会環境の変化や業界内での競争激化、人手不足や働き手の多様化など、小売業界全体にとって深刻な問題を抱える中、どのように生産性を向上させていけばよいのだろうか。「われわれは、コンビニエンスストアを変化対応業と認識しており、常にアンテナを張り巡らせ、何かが変わったら変えていくという対応を取っていかなければいけない」と語る。
同社のデータ活用戦略として、白石氏はサプライチェーン全体の見える化について説明した。「見える化という言葉自体は使い古されたものだが、レベルが変わってきている」と指摘、これまでPOSデータや会員データ、取引データ、発注データなどの分析で見えていると思っていたものは、あくまで想像に過ぎなかったと述べる。
POSデータからは「ユーザーが商品を買った」 という結果しか読み取れない。利用者がどのように考え、どのように行動し、本来はどのような人物なのかまでを判断することはできなかったが、テクノロジーの進化によりさまざまな実態をとらえることが可能となってきた。そこで白井氏は、同社でどのようなデータを取得し、活用するのかについて、踏み込んだ解説を行った。
まず、来訪客が店舗内でどのような動きをし、何を買ったのか、買わなかったのかについて分析しているそうだ。これまで収集できたデータだけでは「何も買わなかった」「在庫がなくて仕方なく別のものを買った」という事情まではわからなかった。現在は一部店舗でカメラやセンサーを使い、入店から退店まで1000程度のトランザクションを取得している。導線モニタリングのデータは1店舗当たり年間58GB、全店での実施を想定すると、736TBほどに上るという。カメラの映像データは圧縮をかけても1店舗当たり年間5.2TB、全店では66PBほどのデータコントロールが必要となってくる。
「こうしたデータを取って何がしたいのかというと、1人でも多くのお客さまに買ってほしいから」と語る白石氏。そのために、来訪した顧客が手に取ったけれど戻してしまったのはなぜか、他店舗と何が違うのかについて分析しようとしている。例えば、10%だった商品の購入率が特定の時間になると26%になる。ここで映像をチェックしたところ、商品を納入するタイミングであることが判明し、棚に商品が少ないと売れ残りのように感じて手に取らない利用者がいることがわかった。データで実態を把握し、どのように手を打つのかを考えられるようになったのだ。
「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」がもたらすメリットと課題
もう1つの事例が「RFID」だ。ローソンを含めたコンビニ大手5社は、今年4月にすべての取引商品へ電子タグをつけ、2025年までに商品の個品管理を目指すという「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を行った。
電子タグの取り組みそのものは以前から進められているが、さまざまな理由により実現できてない。白石氏は「コンビニ業界で電子タグに取り組む理由は、大きく生産性を改善させないと、将来生き残れないから」と語り、危機感から来る取り組みであることを明かした。
では、商品の個品管理を行うと、どのようなメリットがもたらされるのだろうか。製造側では、商品単位でのトレーサビリティを確保でき、例えば異物混入などの事件が起こった際も瞬時に製造ロットの商品が店舗にいくつあるのか判明する。物流面に関しては、配送の正確性や棚卸の大幅な時間短縮などに役立つ一方、販売においてはレジの効率化や万引き防止などの効果が期待できるという。「個品管理はいまだかつて行われたことがない。どのようなメリットが生まれるのか、ディスカッションしながら整理をしている」と白石氏は展望を語る。
無論、課題も山積みだ。これまでの商品管理に利用されていた「JANコード」と比べ、データのボリュームは何万倍、何十万倍となる。こうしたコストの解決や読み取りの精度、標準化、メーカーや小売業の協力を得られるかなどについて対策を講じなくてはならない。白石氏は「こうした施策をやらなければ日本の生産性は上がらないと確信している。山は大きいがチャレンジしていきたい」と強く訴える。
日々変化していくユーザー情報をチャットボットの雑談から獲得
また、ローソンではMicrosoftやLINEと共同で公式キャラクター「あきこちゃん」のAIチャットボットの取り組みも実施。ローソンのLINE会員は2000万人ほどだが、毎日5~70万人、平均10万人程度がLINE上で会話をしているという。
白石氏は「会員カードの登録で得られる情報は、住所や生年月日、家族構成や年収など。几帳面な性格、暑がり、肉が好き、好きな映画や芸能人など、チャットボットからはこれまで知りえなかった情報を得ることができる」と語り、チャットボットの雑談から得たリアルタイムの情報を「OTOMODACHIデータ」として活用している。
日々変化していく利用者の体調や趣味・嗜好に合わせた商品の提案も行うが、大きな目的は"顧客との信頼関係の構築"だ。「今後、お客さまにローソンを選んでもらうため、何らかの差別化がないといけない。この企業、このお店なら安心して買えるという信頼を普段の何気ないコミュニケーションの中で培っていく。こうしたやりとりが、われわれにとっての宝物」と白石氏は語る。
現在のところ、チャットボットの役割は商品の提案や店舗案内などが主だが、今後はユーザー個人に合ったデジタルアシスタントとしてさらに成長させていきたいそうだ。
企業のデータ活用に大切な7つのポイント
そして、白石氏は企業がビッグデータを活用する上で重要なポイントは、大きく7つあると述べた。
ローソンもまだ完璧ではないとしながらも、白石氏は「データさえ集めればいいやと考えず、必要なデータは何なのかを考える」「想像の見える化から実態を把握」「利用者との信頼関係の構築」「データは常に変化するものだと意識」「何をデータから見つけるのか」「データは一企業で抱え込む時代ではなく、共有しながらお互いに効率化していく」「データからどう業務を変えていくのか考えられるデータサイエンティストを育てる」とポイントを整理し、目標として取り組んでいきたいと語る。
最後に「サプライチェーン全体を使い、われわれの財産である1万3000店舗でお客さまのさまざまなニーズを解決するプラットフォーマーを目指す」と、講演を締めくくった。