米国のロケット会社「Vector Space Systems」は5月3日(米国時間)、開発中の超小型ロケット「Vector-R」の技術試験機の初打ち上げに成功した。同社は小型衛星の打ち上げに特化した超小型ロケットの開発を行っており、早ければ2018年から衛星打ち上げを実施したいとしている。
試験は日本時間の5月4日4時ごろ、カリフォルニア州にあるモハーヴェ砂漠で行われた。
今回打ち上げられたのは、「P-19H」と呼ばれるVector-Rとほぼ同サイズの試験機で、同社によると、今回の試験は実機のロケットで使う新しい技術を評価するために行ったものとしている。今後も同様の試験打ち上げを行うことが計画されており、今夏にはジョージア州カムデンに造られた「スペースポート・カムデン」から打ち上げるという。
Vectorは早ければ2018年から、地球低軌道に数十kgの打ち上げ能力をもつVector-Rの打ち上げを、さらに2019年からは100kg程度の打ち上げ能力をもつ「Vector-H」の打ち上げを始めたいとしている。
Vector Space Systemsとは
Vector Space Systemsは2016年に設立された、アリゾナ州ツーソンに本拠地を置くベンチャー企業。数十kgから100kg程度の小型・超小型の人工衛星の打ち上げるための、超小型ロケットの開発を行っている。
同社の設立者でありCEOを務めるジム・カントレル(Jim Cantrell)氏は、フランス国立宇宙研究センター(CNES)や米国航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)などに務めた後、イーロン・マスク氏率いる宇宙企業スペースXをはじめ、いくつかの民間宇宙企業の設立にかかわった経歴をもつ。
Vectorはその後、超小型ロケットの開発で名を知られていたGarvey Spacecraft(GSC)を買収。同社が開発していた超小型ロケット「NLV」のコンセプトをそのまま受け継ぐ形で、ロケットの開発を進めている。
同社は現在、Vector-RとVector-Hという2種類のロケットの開発を進めている。Vector-Rは高度250km、軌道傾斜角28度の地球低軌道に約60kgの打ち上げ能力をもち、コストは150万ドル(現在の為替レートで約1.7億円)。Vector-HはRよりやや大きなロケットで、同じ軌道に125kgの打ち上げ能力をもち、コストは300万ドル(約3.4億円)、またそれぞれ100万ドルで第3段を追加することもできる。Vector-Rは年100回、Hは年25回程度の打ち上げが可能だという。
Vectorの特徴の1つに、燃料にプロピレンを使っていることがある。ケロシンやメタンなどと比べ、プロピレンは密度がメタンより高く、またロケットの性能を示す指標の1つである比推力はケロシンより高く、メタンにも匹敵する。さらに酸化剤の液体酸素と温度が近いため扱いやすいなど、いくつかの点で潜在的に優れた性能をもっている。
またエンジンの開発、製造に3Dプリンタを利用したり、タンクをカーボン製にするなど、先進的な技術も積極的に採用している。さらに第1段機体はパラシュートで回収し、再使用することもできるという。
今回打ち上げられたP-19Hは、Vector-Rの試験機という位置付けではあるものの、カーボン製のタンクや、3基のロケット・エンジンをもっている実機に対して、P-19Hはアルミ製でエンジンも1基しか搭載されておらず、衛星を打ち上げる能力はなく、今回の打ち上げでの到達高度もわずか1370mだったという。つまりVector-Rと同じ形をしているだけでほとんど別物であり、GSC時代にはより高い高度に到達するロケットも打ち上げている。そのため今回の試験は、どちらかというと宣伝の意味合いが強かったと考えられる。