【レポート】

第一線で活躍する研究者が語る「自分だけの研究テーマの見つけ方」 - 「第6回 科学の甲子園全国大会」特別シンポジウム

科学技術振興機構(JST)は3月17日~20日、茨城県つくば市において「第6回 科学の甲子園全国大会」を開催。各都道府県の選考を経て選抜された47校・361名の高校生たちが科学に関する知識やその活用能力を競った。本稿では大会3日目に行われた特別シンポジウム「君だけのテーマの見つけ方」の様子を中心にお届けする。

科学の世界においては、「どんな研究テーマを選ぶか」がその後の研究者人生を大きく左右する。同シンポジウムでは、第一線で活躍する3名の科学者をパネリストとして「自分だけのテーマをどう見つけるか」「テーマを見つける際に大切なことは何か」などといったことが、会場内の高校生たちからの質問や意見も参考にしながら活発に議論された。

特別シンポジウム「君だけのテーマの見つけ方」の様子

第一線で活躍する若手研究者はどのようにテーマをみつけたのか

パネリストとして登壇したのは、「生物ソナー」と呼ばれるコウモリの効率的な超音波センシングの仕組みを研究する同志社大学 飛龍志津子准教授、粘菌アメーバの並列処理法に学んだ「アメーバモデル」を組合せ最適化問題に適応し、これをさまざまなナノデバイスに実装することでさまざまな分野への応用を目指す東京工業大学 青野真士特任准教授、折り紙の折りたたみパターンを利用した医療器具「折り紙ステントグラフト」の開発者であり、現在は細胞折り紙技術を用いて再生医療の研究を行う北海道大学 繁富香織特任准教授の3名。彼らはどのようにして、現在の研究テーマにたどり着いたのだろう。3名はそれぞれ次のように振り返った。

「文系科目が苦手で工学部に進んだ。修士課程での研究が面白かったので博士課程へ進学したいと思ったが、女性ということで親に心配されたため進学を諦めて企業に就職した。しかしどうしても諦めきれず、結婚後に会社の制度を利用し博士課程へ進学。その際に指導教官から提示されたコウモリに興味を持った」(飛龍氏)

「高校生のときはラグビーのことしか考えておらず、文系・理系というよりは体育会系だった。大学では自分でビジネスをやっていたりもしたが、大学院進学を考えた際に現在の専門分野である複雑系科学に出会った」(青野氏)

「高校時代は毛利衛氏に憧れて宇宙飛行士になりたいと考えていた。大学は機械工学部へ進学し、フキの一種がどうやって折りたたまれているかを調べることでソーラーパネルの展開技術へ応用できないかという研究を行っていた」(繁富氏)

左から、同志社大学 飛龍志津子准教授、東京工業大学 青野真士特任准教授、北海道大学 繁富香織特任准教授

3名とも、初めから研究者になりたいと考えているわけではなかったようだ。青野氏は「テーマは常に変化するもの。研究でもスポーツでも、強烈に好きになる強さがあれば、テーマや目標が変わっても強いモチベーションでチャレンジしていける」という。

修士課程のときの学会発表が英国の大学教授の目にとまり、留学することになったという繁富氏は、「人との出会いが大切。また、これだけは譲れないという自分の武器を持つことで自信がつく」と研究テーマを引き寄せるコツを語った。

一方、飛龍氏は「コウモリ」という研究テーマを選ぶ際に重要だったのは直感であったと振り返る。「自分が面白いと思うことを、直感を信じてまずやってみることが重要。辛いこともあるが、コツコツやっていると世界のどこかで誰かが見てくれていると恩師の先生から教わった」(飛龍氏)

また、自分の研究テーマを見つける際に大切なのは、自分に正直になることであるとする青野氏。「能力の有無を、自分に正直に判断できるようになると自然と見えてくると思う。世間が正しいとしているからといって、そこに流れていくのは良くない。自分が何をやりたくて、何をやりたくないかを正直に見つめていくことが大切」と会場の高校生へメッセージを送っていた。

細野教授「研究テーマは、何か見つけ方があるわけではない」

同シンポジウムには東京工業大学の細野秀雄教授も参加予定だったが、当日の都合により表彰式に登壇し、研究テーマの見つけ方について語った。以下、講演の内容全文をまとめる。

東京工業大学 細野秀雄教授

私は現役の研究者です。現役の研究者として感じていることを率直にお話させていただきます。みなさん、科学技術の面白さは十分堪能していると思いますが、これから研究者としてやっていくには、楽しいだけではダメですよ。私自身は実際にラボを持っていて、頭のなかの95%は研究のことしか考えていないのですけれども、やはり研究というものは自分が面白いだけではダメで、結果的に世の中のためになったら良いなという願望を持っています。

実は、自分の子供が生まれたときに、「次世代」という言葉を初めて実感しました。自分が若手のとき、研究費の申請書類を書く際に「次世代材料」という形容詞を使っていましたが、どうもなかなか実感がわかない。ところが自分の子供が生まれたときに、次世代ってこういうことなんだと実感しました。それはどういうことかというと、「自分がいなければ生まれてこなかった」ということ。私は世の中の役に立つ物質である「材料」を研究していますが、そのときに、真面目に本気で材料をやろうとを思いました。

それから数十年たったわけですけれども……。大型の液晶テレビがありますよね。それを動かしているのは、私たちが作ったIGZOというインジウムとガリウムと亜鉛の酸化物、いわゆるガラスの半導体です。2週間くらい前にそれを実用化した会社の社長が来て、テレビを研究室の建物に寄付してくれたのですが、非常にびっくりしました。実際に自分たちのやったものが製品として世の中に出て、本当に役に立つんだ、と。

大隅先生(東工大・栄誉教授)は「世の中の役に立つという言葉が科学をダメにしている」と言われますが、そんなことはないです。世の中の役に立つほうが良いんです。ただ、世の中の役に立つということを非常に短い時間で目標にしてしまうと、科学本来の流れがおかしくなっちゃうこともあります。けれども、世の中には改善したほうがいいことや困っていることがたくさんあります。そういうものを科学を通じて良くする方向になればいいなと思います。

ここには、科学の道で食べていこうと思われる方がたくさんいらっしゃると思います。日本の科学の現状というのは、世界的に見てそんなに良くないです。世界的に見ると、どんどん落ちています。これは隠しようがない事実です。そして、それはそう簡単には止まりません。ですから今の日本の科学技術では、好むと好まざるに関わらず、競争が生じてしまいます。

科学の世界は、スポーツの世界と同じです。私は今でも超電導をやっていますが、1日でも早く1度高い超伝導物質を報告されてしまったら、負け。歴史に名前が残らない、非常に明確な世界です。プロの研究者というのは、その世界のどこで勝っていくかということを考えないとダメです。ただ面白いからやるだけでは……面白くないことをやったってダメですよ、面白いということは当たり前、面白いから一生懸命できる。だから長続きをして成果に繋がる。でも、面白いということだけではプロの研究者は務まりません。どこかに自分の強みを持って、世界に打ち勝っていくのがプロの研究者です。世界に対してこれが私がやった仕事なんだということを言って、それを世界が認めるのが、その人のオリジナリティです。

なかなか厳しいことを言いますが、科学の世界は非常に面白い世界でもありますし、結果的に非常に世の中の役に立つことができます。しかし、プロの研究者というのは同時に、世界的な競争のなかでやっていかなければなならない。

こういうことは一生続きます。そのなかで、自分がどこで勝負をしたらいいんだろうかということをよく考えてやってください。それは、自分だけ見ていてもわかりません。まわりの先輩や後輩、あるいは世の中を見て、自分がどういう人間で、どういう感受性を持っているのか考えながら、自分を生かせて、かつ自分でなければできない、ぜひそういうテーマを見つけてください。

テーマは、そう簡単には見つからないと思います。私自身もなかなか見つからないです。今でも研究テーマを見つけるのは非常に大変です。研究テーマは何か見つけ方があるわけではないと思います。その人が七転八倒して、自分の持っている感性と合わせて、結果的に決まっていくものだと思います。短期的にものごとを考えないで、テーマを考えていくということが一生続いていくと思ったほうが良いです。

若いというのは非常に羨ましいです。若いということは、それだけで可能性があるということです。若い人は時代の風を感じる非常に良いセンサを持っている。そのセンサ、あるいは勘と言っても良いかもしれない……勘というのは、その人の高速な思考なんです。生まれて今まで培ってきたものを一瞬にして判断する、それが勘なんです。勘というのをあまり軽視しないで、自分の感性に合わせて、ぜひ自分らしいテーマを見つけてください。

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