NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』で、"君ちゃん"こと村田君枝役を演じる女優・土村芳(26)。同じく子供服メーカー「キアリス」のメンバー役として出演している芳根京子(20)、百田夏菜子(22)、谷村美月(26)と比較すると芸歴は浅いが、それをカバーするだけの演技力と存在感で多くの朝ドラファンの心をつかんでいる。
2013年に事務所入りし、女優としてデビュー間もない彼女がなぜ抜てきされることになったのか。そこには不遇の時代でも自分と真摯に向き合う誠実さ、そして心に誓ったことを全うする静かな行動力が源となっていた。宣材写真に向けた鋭い眼差しのあの日から、輝く笑顔で人々を惹きつける女優へと成長するまでを追った。
――私の周りでは「君ちゃん」ファンがとても多いんですよね。
本当ですか!? ありがとうございます。
――演じられてしばらく経ちますが、どのような女性として受けとめていますか。
今は成長を遂げた姿を演じていますが、君ちゃんたちの青春時代はほとんど戦争に奪われてしまったようなものなので、「遅れてきた青春」というかそれを取り戻すような日々。今はすごく前向きに人生を謳歌している感じです。
――これだけ長い時間、同じ役柄と向き合うのは初めてだと思います。やっぱり毎日、君ちゃんのことを考えてるんですか。
考えちゃって……ますね(笑)。常に君ちゃんと一緒にいる感じです。
――ドラマの公式サイトでは、谷村美月さんのコメントに「ふだんでも君ちゃんはそのまんま!なので芝居の顔が、君ちゃんかご本人か分からなくなってきました」とありました。
どうなんでしょう(笑)。でも……大阪で現場の方々と一緒にいると自然とそうなるというか。周りの環境や出演者、スタッフの方々が、自分を君ちゃんにさせてくれているみたいな、そんな感覚です。
――セットの中で演技をするのも、初めてだったそうですね。
そうなんです。まず思ったのは、セットってすごいなぁと(笑)。スタジオの中にいくつもあるんです。少し移動すれば、全然違うシーンになって。スタジオの中にはいろんな世界があって、最初は不思議な感覚でした。衣装を着て、セットの中に入って、人がそろうと空気が変わる。セットは私にとっても、とても大切な意味を持っています。
――そのように実感できるようになったのは、現場入りしてからどのくらいですか?
最初はすごく緊張していたんですが、集中もしていました。もちろん今も集中しています(笑)。「ちゃんとやらなきゃ」「がんばんなきゃ」という気持ちがあって、どうしても視野が狭くなってしまっていたかもしれません。
――君ちゃんを語る上で、平岡祐太さん演じる夫・昭一さんは外せません。当時では珍しいとされる恋愛結婚ですが、君ちゃんの恋愛観についてはどう思いますか?
平岡さんと初めてお会いしてご一緒した日が、昭一さんが帰ってくるシーンだったんです。
――あの問題シーン(笑)。
問題なんですか!? (笑)
――君ちゃんはスケッチブックを落としたことすら気づかず、昭一さんの胸に飛び込んでいました。
そうでしたね(笑)。あれが最初にお会いした日。すごく緊張していたんですけど、どんな方なのか満足に話もできないままに。でも、君ちゃんというフィルターを通してお会いすると、なんか……なかなか言葉にならないんですけど、高ぶるものがすごくあったのは覚えています。
――谷村美月さん演じる明美さんの言葉は直球。心に残る言葉を投げかけてくれます。体調が悪化して入院し、働くことを諦めた君ちゃんに対して、明美さんは「これでええの?」と。君ちゃんの「えっ…?」という反応がすごくリアルで、不覚にも涙してしまいました。
恥ずかしいです(笑)。結果的にそうなることを予想していなくて。まさか自分があんな状態になるとは思っていなかったんです。君ちゃんの中ではきちんと心の整理はついていたはず。すみれちゃんと明美さんに思いを伝えて終わり……のはずでした。でも、いざカメラが回ると……最後のすみれちゃんの背中。足早に去っていくんですよ。泣きそうな顔を我慢しながら、スッといなくなる。そこからの明美さんの言葉だったので、自分の中ではタガが外れそうな感覚でした。もちろん、セリフとしての「えっ?」は決まっていたんですけど、気持ちの中では「やりたい」って言いたくてしょうがなかったんです。それが言えない……。
――昭一さんも働くことを反対していましたが、君ちゃんの体を思ってのことだった。
そうですよね。平岡さんとはこの作品で何度も共演させていただいて、すごく仲良くしてくださっています。周りの方は「すごく良い雰囲気だね」と(笑)。平岡さん、話題も豊富ですごく面白い方なんです。
明美さんから「これでええの?」と言われた病院のシーンが終わって、しばらく気持ちが引きませんでした。平岡さんはモニターでご覧になっていたみたいで、「もういいよ、君ちゃん」「もう俺分かったよ!」と声を掛けてくださって(笑)。「そんなにやりたいんだったらやっていい!」「やるな、なんて言えないよ……」と困ってる感じがとてもおかしかったです(笑)。