"格安"というワードが消費のさまざまな場面で根づいて久しいが、旅行のシーンにおいてはことに実感することがある。温泉旅行も格安ブームだ。1泊5万円以上という超高級な施設が人気を博す一方で、1万円以下という施設も目立つようになった。もちろん、2食付きだ。
場合によっては、7,000円台、5,000円台という温泉旅館まで登場している。そのような施設の傾向として、旧態型の施設がリブランドやチェーン化が挙げられる。中にはバブル時に高級旅館として名をはせていた施設もあるだけに、充実した設備なども特徴のひとつである。
「伊東園ホテルズ」にはグルメプランも
7,000円台と言えば、関東・伊豆エリアで展開されている「伊東園ホテルズ」は人気だ。料金変動なしの均一料金チェーンで1泊2食飲み放題もついて7,800円~。グルメプランなども展開、ステイの質を重視し充実の温泉旅を提案する。また、鬼怒川など関東エリアで展開している「おおるりグループ」も、5,000円台で飲み放題など低価格チェーンとして有名。いずれも稼働率も高いようで予約がとりにくい施設が多い。
エンタメも充実の「大江戸温泉物語」
格安チェーンの筆頭とも言えるのが、全国へ展開する「大江戸温泉物語」だ。中国でそっくりな施設が登場してニュースとなったが、目下人気沸騰のブランドである。同チェーンで関東の旗艦施設なのが、栃木県の「大江戸温泉物語 ホテルニュー塩原」だ。
昔からの有名な温泉観光ホテルを大江戸温泉物語の運営で再生。今では年間約23万人が来館、1日平均630人がチェックインするというから驚く。充実の温泉施設に加え、無料歌謡ショーや縁日など三世代が楽しめる多彩な仕掛けも人気の理由。
一方、関西の旗艦施設が大阪府の「大江戸温泉物語 箕面観光ホテル」だ。こちらもスケールは大きく、"大阪平野1,000万ドルの夜景が一望"の規格外とも言える温泉「天空の露天風呂」は驚愕の一言。縁日広場や多彩なフードコートなど、エンタメも充実。毎日がお祭り気分だ。
大江戸温泉物語が人気の秘密は、基準料金1泊2食7,980円~という安さ。7,980円と聞けば安かろう悪かろうを想像してしまうが、あくまでもクオリティー重視の姿勢を貫く。バイキング料理では、1品ずつの温度を測り、適温で提供するという気配り。食材をグループ全体で大量仕入れするので、ハイコスパな料理が提供できるという。
箱根で注目の格安チェーン「一の湯」
温泉旅館低価格路線の先駆けとも言えるのが、神奈川県・箱根で展開する「一の湯グループ」だ。1630年創業、380年以上の歴史を有する「一の湯本館」が旗艦施設。ご多分に漏れずバブル期は高価格帯の旅館であったが、現代表の小川晴也氏が利用者のニーズを徹底研究、1万円以下という低価格路線に舵を切り人気沸騰のグループとなった。
コスパだけではなく、1万円前半程度でリザーブできる"客室露天風呂付き"の客室を多く設けるなどバリューを重視する点にも注目。現在では7店舗を展開するグループとなったが、独自のコンセプトでいずれの施設も驚異的な稼働率を誇る。定期的に開催される格安で芸者遊びができるプランや、人気店「肉山」とのコラボ企画など、新たな取り組みにも積極的だ。
1万円台も大満足の施設が
関東のみならず、今や全国区の知名度を誇るのが千葉県で展開する「ホテル三日月スパリゾート」チェーン。中でも木更津にある「龍宮城スパホテル三日月」は、都心からのアクセスに優れる施設としても人気だ。東京湾アクアラインを利用すれば都心から約40分でアクセス可能。
とにかくスケールの大きさに驚く。黄金風呂でも有名な温浴施設、縁日広場やダンシングウォーターショーといったエンタメにも力を入れる。もちろん、バイキング料理も満足度の高い内容だ。本館「龍宮亭」は1万円台からリザーブ可能だが、最近ではラグジュアリーな新館「富士見亭」も誕生。高級感を求める客層にも対応する。
年季を感じる施設と言えば、静岡県伊東市の「ハトヤ」は有名。昭和ノスタルジーが魅力というリピーターも多い。シーサイドラインの建物が印象的な「サンハトヤ」は、ディナーショーや海底温泉、水槽を眺めながら入浴できるお魚風呂などが人気。いずれもスタッフのアイデアによるものでサービスの進化が楽しい。ノスタルジー感じる温泉ステイは1万円台前半からリザーブ可能だ。
バブル華やかなりし頃、温泉旅館といえば高嶺の花だった。今や、そのような施設が秀逸な運営手法により再生。趣向を凝らしたアイデアやサービスでゲストからの支持を受けている。低廉な料金を実現したことで、旅行に縁遠かった人々へもレジャーの機会を提供する。いずれにせよ旅の選択肢が増えることはうれしいものだ。
筆者プロフィール: 瀧澤 信秋(たきざわ のぶあき)
ホテル評論家、旅行作家。オールアバウト公式ホテルガイド、ホテル情報専門メディアホテラーズ編集長、日本旅行作家協会正会員。ホテル評論家として宿泊者・利用者の立場から徹底した現場取材によりホテルや旅館を評論し、ホテルや旅に関するエッセイなども多数発表。テレビやラジオへの出演や雑誌などへの寄稿・連載など多数手がけている。2014年は365日365泊、全て異なるホテルを利用するという企画も実践。著書に『365日365ホテル 上』(マガジンハウス)、『ホテルに騙されるな! プロが教える絶対失敗しない選び方』(光文社新書)などがある。
「ホテル評論家 瀧澤信秋 オフィシャルサイト」