宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月20日、内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県肝付町)において、ジオスペース探査衛星(ERG)を搭載したイプシロンロケット2号機の打ち上げを実施する。前日の19日にはプレス向けのブリーフィングが開催され、最新の状況について説明があった。それでは現地の模様を早速お届けしたい。

本日(12月19日13時)の内之浦宇宙空間観測所。いまは快晴だが……

イプシロンの射場。ロケットは整備塔に入っており、まだ見えない

イプシロンは、全段固体燃料の3段式ロケットだ。打ち上げはまだ2回目であるが、2号機では「強化型」と呼ばれる追加開発が行われており、この仕様での打ち上げは今回が初めてとなる。初号機と強化型との違いについては、すでにまとめた記事があるので、詳しくはそちらの記事を参照して欲しい。

打ち上げの時刻は12月20日の20時ちょうど。ウィンドウは20時00分~21時00分となっているため、当日の状況次第では、その範囲内で打ち上げがずれ込む可能性がある。以下のWebサイトではライブ中継も行われる予定なので、チェックしてみてはいかがだろうか。

現地の本日の天候は晴れ。12月にしては暖かく、過ごしやすい気候だった。ただ、問題は打ち上げ当日の天気だ。JAXAが発表している気象情報によれば、当日は朝から曇り。夜には降雨も予報されており、打ち上げ時刻まで天気が持つかどうか微妙なところだ。打ち上げたとしてもすぐに雲に入りそうで、見学に来ている人にとってはやや残念。

JAXAによる内之浦の気象情報。かなり微妙…… (資料提供:JAXA)

イプシロンは少しくらいの雨や風では打ち上げ中止にならないものの、気がかりなのは上空の氷結層である。飛行中のロケットに落雷があると問題があるため、氷結層を含んだ雲の厚さが1.8km以上あるときには打ち上げることができない。森田泰弘・イプシロンロケットプロジェクトマネージャも「引き続き注視する」と述べていた。

イプシロンロケット2号機の打ち上げ制約条件 (資料提供:JAXA)

打ち上げ当日は、朝6時半より射場系の作業を開始。イプシロンは現在、整備塔の中に格納されているが、17時15分頃にランチャーを旋回し、姿を現す予定だ。

打ち上げ当日のスケジュール (資料提供:JAXA)

打ち上げから、13分27秒後に衛星を分離。なお今回は、衛星の軌道が特殊のため、従来の小笠原とクリスマス島の地上局に加えて、可搬型の地上局をマーシャル諸島のマジュロ環礁に展開している。ここに配置することで、衛星分離までリアルタイムに追跡することが可能になるとのことだ。

イプシロンの打ち上げは3年ぶり。その間、強化型の開発に取り組んできた森田プロマネは、「今回は強化型のデビュー戦。現在、小型衛星のニーズが高まっているが、この強化型の能力は、それにしっかり応えることができる。2号機の打ち上げを成功させ、強化型イプシロンで小型衛星の世界をリードしていきたい」と意気込んだ。

JAXAの森田泰弘・イプシロンロケットプロジェクトマネージャ

今回搭載するERGは、地球周辺の宇宙空間(ジオスペース)で発生する磁気嵐について調べる衛星である。ヴァン・アレン帯(放射線帯)では、高エネルギーの粒子が増えたり減ったりすることが知られているが、なぜ粒子が加速されるのか、そのメカニズムは明らかになっていない。ERGはこの謎の解明を目指す。

またERGは生活にも役立つという。放送衛星や気象衛星が多い静止軌道はヴァン・アレン帯の外側にあるが、磁気嵐のときには領域が広がり、衛星に障害を起こす場合がある。篠原育・ERGプロジェクトマネージャは、「メカニズムがわかれば宇宙天気予報が可能になり、この問題を避けられるようになる」とアピールした。

JAXAの篠原育・ERGプロジェクトマネージャ

2016年はJAXAにとって、苦難の1年となってしまった。2月にH-IIAロケット30号機で打ち上げられたX線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)が軌道上で分解。その後の検証において、JAXA宇宙科学研究所の開発・運用体制に問題があったがことが明らかになり、JAXAは組織改革にまで踏み込んだ対策を実施した。

ERGは、ひとみの事故後、初めて打ち上げられる科学衛星である。「当然、プレッシャーは無いわけでは無かった」と吐露した篠原プロマネだが、「事故後に行った総点検で、衛星のサバイバビリティや運用準備について、いろんな提言をいただいた。そのおかけで、よりミスが少ない形で運用できる体制が整った」と成果を述べた。

3年ぶりの打ち上げということもあり、地元・内之浦は町全体で盛り上がっていた

※マイナビニュースでは随時、現地からレポートをお届けする予定です。どうぞご注目ください。

イプシロンロケット2号機打ち上げの現地取材記事

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