【レポート】

イプシロンロケット2号機現地取材 - 衛星の愛称は「あらせ」、宇宙の嵐に突入して論争の決着を目指す

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月20日20時、イプシロンロケット2号機の打ち上げを実施、搭載したジオスペース探査衛星(ERG)の軌道への投入に成功した。衛星の状態は正常。同日、内之浦宇宙空間観測所において開催された記者会見において、ERGの愛称が「あらせ」に決まったことが明らかにされた。

ERGチームの篠原育・プロジェクトマネージャ(左)と三好由純・プロジェクトサイエンティスト(右)

打ち上げ後、ロケットは正常に飛行を続け、計画通り、13分27秒後に衛星を分離した。同日20時37分にチリのサンチアゴ局で衛星からの信号を受信。太陽電池パドルの展開が正常に行われたことを確認したという。「あらせ」は今後、1カ月のクリティカルフェーズ、2カ月の初期運用フェーズを経て、定常観測に移行する予定。

「あらせ」という愛称は、以下の2つに由来するという。ひとつは、水が激しく波立ちながら流れている川のことを表す「荒瀬」という言葉。ERGが観測に挑むヴァン・アレン帯は、荒々しい高エネルギー粒子に満ちている。まさに宇宙の荒瀬と言え、そこに飛び込んでいく衛星には相応しい愛称だろう。

「あらせ」のポスター。宇宙の嵐について調べるのがミッション

もうひとつは、地元・鹿児島県肝付町に流れる「荒瀬川」だ。この川には、鳥の美しい歌声に関わる伝説があるという。ERGが観測するジオスペースの電波「コーラス」は、周波数が数kHzの可聴帯の電磁波であり、音声に変換すると小鳥のさえずりのように聞こえることで知られる。これにちなんだ。

クリティカルフェーズでは、前半の運用で近地点高度を300kmまで上げ、後半はワイヤーアンテナや伸展マストなどの展開を行う。その後の初期運用では、8つのセンサーを1つひとつ立ち上げ、観測できる状態に持って行く。この3カ月が終わると、いよいよ定常運用フェーズが始まる。ミッション期間は1年間。

三好由純・ERGプロジェクトサイエンティストは、「ヴァン・アレン帯は知名度はあるものの、なぜエネルギーが高い電子がそこにあるのか、なぜそれが増減するのか、まだ良くわかっていない。ヴァン・アレン帯の研究はいま世界で注目されており、NASAも専用衛星を上げている。ERGの観測装置で、決定的な証拠を掴みたい」と意気込んだ。

高エネルギー電子の供給源として、古くから言われている「外部供給」説と、比較的最近提唱され始めた「内部加速」説という2つの仮説がある。「あらせ」は後者の可能性にフォーカスしているとのことで、そのために新しい観測装置を開発して搭載したそうだ。「あらせ」の成果でこの論争に決着がつくか、期待したい。

またロケット側からは、森田泰弘・イプシロンロケットプロジェクトマネージャが出席。2号機は、第2段を新規開発した強化型イプシロンが初めて使われたわけだが、その第2段については、全く問題がなかった。初号機と違い、2号機には投入精度を高める液体推進系「PBS」は搭載されていないものの、軌道は「ど真ん中だった」という。

打ち上げが成功し、満面の笑みで登壇した森田泰弘・イプシロンロケットプロジェクトマネージャ

計画では、衛星は近地点高度219km±25km、遠地点高度3万3200km±2000km、軌道傾斜角31.4度の軌道に投入することになっていた。これに対し、実際の打ち上げの結果は、近地点の誤差は-3.5km、遠地点の誤差は-1279km、傾斜角は同値とのことで、いずれも許容誤差内に収まっている。

今後、イプシロンは、3号機でオプション形態(PBS搭載)を実証し、4号機で相乗り衛星への対応を進める予定。そして2020年にH3ロケットが完成するころには、第1段を新しくしたシナジーイプシロンが登場する計画。しばらくは開発が続くこともあって、弾みを付ける意味でも、2号機の成功は欠かせないピースだった。

森田プロマネは今回の打ち上げについて、「イプシロンがさらに発展していくための大事な一歩だった。それを綺麗に決められてホッとしている」と安堵の表情を見せ、「強化型イプシロンは小型衛星のニーズにバッチリ応えられる。小型衛星の世界をリードして、内之浦から小型衛星をバンバン打ち上げていきたい」と期待を述べた。

その実現のためには、日本の官需衛星だけでなく、世界の商業衛星のニーズも取り込む必要がある。国際競争に勝つのに、重要な要素は性能とコストだが、森田プロマネは「当面はシナジーイプシロンの開発までをしっかりやった上で、その先の計画として、どのくらいの性能向上とコストダウンを計るか考えたい」とコメント。

現在、JAXAの中で、それに関する研究を行っているという。ただ、「強化型を今後打ち上げていく過程で信頼性を上げるとともに、その研究成果を踏まえ、新たな性能向上とコストダウンの目標を設定していきたい」とし、現時点で具体的な数字について言及することは避けた。

宇宙研の科学衛星ではお馴染み、性能計算書の表紙を持つ森田プロマネ

毎回、衛星にちなんだパロディになっている。右がオリジナルのラベル

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