コネクテッドな製品のライフサイクルを管理するPLMには何が求められるのだろうか。ドイツ・アーヘン工科大学発の電気自動車(EV)ベンチャーで、同大の産学連携施設であるヨーロピアン4.0トランスフォーメーションセンター(E4TC)に参画する、e.GO Mobile(e.GO)の運営に関わるE4TCのThomas Gartze氏が「PLMの進化」について語った。
本題に入る前に、E4TCおよびe.GOについて簡単に説明する。E4TCはアーヘン工科大学で進められている産学連携プロジェクトの一部として設立された施設で、政府からの支援に加えPTCなど企業から資金および技術の提供を受けて「製造業のデジタル化」に関わる先進的な取り組みを展開している。E4TCについてはこちらの記事で紹介しているので興味のある方は参照されたい。
e.GOは2015年4月設立のベンチャー企業。現在、第1弾製品であるコンパクトEV「e.GO Life」の試作を完了し、2018年初頭からの量産を予定。具体的な販売価格は1万2500ユーロ程度を見込み、安価で乗っていて楽しい車を目指している。
開発プロセスでは2017年前半よりテスト走行を行いデータを収集、最終設計に向けたブラッシュアップを行う。車両の機能面では、価格を抑えるために、マルチメディアシステムにスマートフォンを連携させることでカーナビなどの機能を賄う予定。開発における走行データの収集、スマートフォンを介したインターネットへの接続という2つの意味でコネクテッドなEVだといえる。
コネクテッド製品を開発するe.GOで製造を担当しているGartze氏はPLMの未来をどのように分析しているのだろうか。
e.GO Lifeの開発では、PTCのPLM製品「Windchill」やALM製品「Integrity」などを利用し、短いスプリントを繰り返す開発手法を実現することで「開発期間を50%短縮、コストも10分の1を目指す」(Gartze氏)としている。(資料:アーヘン工科大学) |
PLMにおける3つのステージ - 製品から体験へ
Gartze氏は、「PLMには5つの要素があり、進化において3つのステージがある」とする。同氏がPLMの進化に関わる要素として挙げたのは、「PLM上のデータ(Product Content)」「PLMが使用される部門・場所(Location)」「対象となる工程(Processess)」「ITのアーキテクチャ(Architecture concept)」「ユーザー(Users )」の5つ。
ステージ1では、メカ設計の情報管理が中心となる。対象となるデータは主にCADデータで、要件情報などは含まれていない。また、部門レベルでの活用に留まり、ITアーキテクチャはチームデータマネジメントやERPとの連携まで実現。ステージ1についてGartze氏は、「一般的にPLMの活用はまだステージ1にいる場合が多い。しかし、複雑性の高い製品ではより多くのユーザーがPLMを使用する必要がある」と語り、ステージ1ではコネクテッド製品に対応できないと指摘する。
ステージ2では、メカだけでなくエレキ、製造、サービス部門も対象ユーザーとなる。データには要件、機能情報まで含まれ、製品に関わる全てのプロセスをカバーする。使用範囲は開発および製造まで広がり、外部との連携も発生。アーキテクチャ的には全データの一元管理および各ツールの連携が可能となる。ここまで来ると、メカ・エレキの設計に加えて、センサー、エレクトロニクス、ソフトウェア開発までカバーできるようになる。Gartze氏によればe.GOは現在、このステージ2にいるという。
ステージ3では、製品を購入した消費者の「体験」までもが、PLMでカバーする領域となる。車を例にして考えると「AR技術を取り入れて近くにあるレストラン情報を車の中に表示したり、スマートデバイスとの連携も考慮しなければいけない」(Gartze氏)。このような状況を実現するには、PLM上の大量のデータを最適化して活用することが重要で、アーキテクチャの部分では、さまざまなデータから情報をマッシュアップしたり、ユーザーの属性(役割)に応じたUIを提供する必要がある。
Gartze氏が提示したPLMのステージ3を見ると、もはや製品のライフサイクルではなく消費者体験のライフサイクルを包含しようとしていることがわかる。つまり、製品だけでなく体験(=サービス)の提供を中心としたビジネスモデルの変革を前提としているわけだ。それだけにステージ1からステージ3まで進むのはそう容易いことではないが、コネクテッド製品が今後飛躍的に増加し競争が激化していく中で市場において優位性を獲得できるのは、「PLMの進化」という困難な課題を克服した企業なのかもしれない。