現在、アップルはアースデイにあわせた「Apps for Earthキャンペーン」をApp Storeで展開しているが、その特設ページの公開日と同じ15日、Apple Store銀座にて「Talk for Earth」と題されたイベントが実施され、東京大学名誉教授の養老孟司氏が「生物多様性」を身近に考えるヒントや楽しく学ぶ方法を紹介した。

東京大学名誉教授・養老孟司氏

当日モデレーターを務めたのは、世界保護基金(WWF)の渡辺友則氏。WWFは先述の「Apps for Earthキャンペーン」にもデベロッパーとして参加しており、「WWF Together」から独自コンテンツを楽しむことができる。このコンテンツは同キャンペーンのために特別に制作された、森林、海洋、淡水、野生生物の保護を賛同・奨励するもので、WWFがグローバルな取り組みで注力している食料や気候に対する脅威について説いてくれるというものだ。

世界保護基金(WWF)・渡辺友則氏

渡辺氏がWWFについての活動を紹介した後、養老氏を呼び込み、トークがスタート。養老氏はWWFの評議委員としてもその名を連ねている。

養老氏がハマっているというコスタリカのゾウムシ

まずは渡辺氏が養老氏に、最近ハマっている虫は何か?と問いかける。すると、二人のバックに、コスタリカのゾウムシの写真が浮かび上がった。ゾウムシは甲虫の仲間なのだが、あらゆる生物の中で最も種類が多いのが、この甲虫なのだ。そもそも生物種の中でも、半分以上が昆虫であるのだが、その中でも一番種類の多いのが甲虫なのである。ゾウムシは日本で名前がついてるものだけでも1,600種以上が生息しているという。これをイントロにして「生物多様性」に関する解説が始まる。養老氏は「違い」が分かると「生物多様性」も分かってくると説く。

「生物多様性」ということばの意味については、内閣府の調査では8割以上の人が理解していないというレポートがある。W.G.ローゼンによって考案された造語で、もともとあった「生物学的多様性(biological diversity)」を略して「生物多様性(biodiversity)」としたと養老氏。養老氏は「生物多様性」について、目で見て、さまざまな生き物がいるなと実感することであると言い添えた。

また、我々の体の中には多くの細菌が棲んでおり、すなわち「共生」しているのだと解説した。例として挙げていたが、人間の細胞に含まれるミトコンドリアは、真核細胞に住み着いてしまった細菌なのだそうだ。

続いて「ゲーム」と「生物多様性」の話題に突入。ゲーム好きとしても有名な養老氏だが、単純なルールで複雑な世界を構成できるものが好きだと嬉々とする。これがひとつの世界で、もうひとつはその反対側にあるという、整理しきれないくらい沢山ある世界が人間の基本にあると語った。前者が意識、後者は感覚に相当するものを構成するそうだ。また、今の人間の社会はこの二つに分化していく傾向にある中で、感覚を鈍磨させるようになってきているとも指摘した。人間以外の生き物は感覚で生きている「差異」に依存している、だからそれぞれに異なっている、対して人間は同質な世界に暮らしている。その証拠が「言葉」なのだと養老氏は唱える。同じ使い方をしないと言葉は機能しないからだ。

この後は、感覚を働かせるということは脳の働きを変えることだといった話が出たり、自分が変わると世界が変わるといった話に及んでトーク本編は終了。質疑応答の時間となったので、筆者も質問を投げてみた。こうやってApple Storeのイベントに登壇しているわけだが、アップルの環境問題に関する取り組みをどのように評価しているのだろう。これには、企業についてはわからないことが多いが、多分に意識的、すなわちアルゴリズム的な側面があるのではないだろうかと答えてくれた。自然発生的にできた人間社会と理屈でできた普遍的な人間社会の存在を指摘し、グローバリゼーションが抱える問題に言及した。

Apps for Earthキャンペーン」は4月24日まで実施

普遍か差異かという問題は現代思想の文脈でもしばしば取り上げられるが、この点においては、アップルは非常に難しい局面に立たされていると筆者は考えている。普遍的な思想を押し付けるだけでは立ち行かなくなくなっているのを理解した上で、どう事業を展開していくか、また、持続的な未来を描くことはできるのかといったことは今後も重くのしかかってくることだろう。この問題に直面しているのはアップルだけでない。

そこで、一連の環境問題への取り組みや、健康・医療分野への貢献はひとつの鍵となっていくはずだ。ともすれば守銭奴呼ばわりされても仕方ない事業を推進するような企業が数多く存在する中、アップルは、あらゆる事物への配慮が不可欠である、というテーゼを掲げた。これが単なるポーズではないよう、我々は今後の動向を注視すべきだし、アップルには掲げたスタンスを貫くことを筆者は期待したい。そこで初めて、未来を切り開くことができるようになるはずなのだ。