人材系メディアを多く運営するレバレジーズ株式会社。実は日本の会社には珍しく、代理店を利用しないインハウス運用を行なっています。今回はなぜ代理店ではなくインハウスにこだわるのか?メリットとデメリットは?などについて、プロモーションチームの責任者の棚橋さんにズバッと聞いてきました。
まずは棚橋さんご自身、そしてレバレジーズについて教えて下さい
レバレジーズは現社長である岩槻が1人で創業した今年で12期目となるベンチャー企業です。設立当初は、システム開発やSES事業を行なっていたのですが、その後ウェブ系のエンジニアやクリエイターの人材事業へと展開し、現在は看護師などIT以外の人材も扱うメディア企業として事業を行なっています。現在、社員数は500名を超えたところです。 私は、新卒でレバレジーズに入社し、現在で5年目になります。もともとマーケティングをしたいと思ってこの会社に入社し、立ち上がったばかりのマーケティング本部でアフィリエイトやDSPの運用を行なってきました。LPOをはじめとする、直接コンバージョンを獲得するための施策を回しながら、アトリビューションやバナー広告による視認効果の実証など、CPA以外の部分を取り入れた実験的な取り組みを担当し、2016年1月からはリスティング、DSP、アフィリエイト、データフィード広告をすべて統合したプロモーションチームの責任者をしています。
レバレジーズはどんなメディアを運用しているのですか?
ITの人材関連ですと、『レバテックフリーランス』、『レバテッククリエイター』『レバテックキャリア』などを展開しています。また、IT関連以外にも、看護師の転職支援サイト『看護のお仕事』 やアルバイト求人サイトの『バイトーク』などを展開しており、今後は人材以外にも事業を広げていくフェーズです。
CPAは大切。しかし本当にそれだけでいいのか?
棚橋さんが統括するプロモーションチームではどのようなことをしているのですか?
プロモーションチームのミッションはメディアの成長を加速させることです。私たちのメディアは人材系が多いので、会員の獲得が非常に重要です。そのために私たちは、アフィリエイトやリスティング、DSPなどの運用を行い、新しい会員を日々獲得しています。
レバレジーズでは様々なメディアを運営していますが、現在、プロモーションチームとして扱っているメディア数は10媒体程度です。メディアごとに対象のターゲットや目標が異なるので、それぞれのメディアが持っている予算に対し、そのメディアの運用担当者が会員獲得に動いています。
全体ではいくらくらいの予算を使われているのでしょうか?
DSPやリスティング、アフィリエイトなど、すべての広告予算のトータルで、月間で億単位の金額をプロモーションチームでは運用しています。といってもそれは、プロモーションチームの予算というより、各メディアの予算のうち、プロモーションチームが運用をしている予算の合計というほうが正しいですが。
レバレジーズでは、プロモーションチームが会社全体の予算を持って各メディアにアロケーションするトップダウンの方法をとっていません。各メディアの責任者が、事業の観点から新規会員が何人必要なのか考え、プロモーションチームがCPAの予想値を出します。すると、当然ですが、必要な予算額が出てくるので、それをメディアの責任者が確認し、問題なければ具体的なプロモーションがスタートします。メディア担当とプロモーション担当が二人三脚で予算と目標獲得単価を決める仕組みが、1つ1つのメディアごとに回っているイメージですね。
幸いなことに、多くの事業が比較的好調に成長しているので、どんどん使える予算が増えており、また毎年新規事業も出てくるので、プロモーションチームのメンバーはある程度大きな予算を日々運用しています。
月間で億単位の広告費のうち、どの程度の運用型広告を利用しているのですか?
運用型広告を利用しているのは予算の3-4割くらいですね。残りを純広告やアフィリエイトなどに利用しています。一通り主要なアドネットワーク、DSPは使ってみましたが、獲得効率の観点からほぼ一社に落ち着きました。もちろんそこでは取りきれないユーザーや、配信できないメディアがあるため、随時GDNやYDNも利用しています。
運用では具体的にどのようなことを大切にしていますか?
テクニック論的な話でいうと、入札単価の調整は重視しています。ディスプレイ広告でいえば、入札単価がとある金額を1円でも越えると一気に配信量が増える「しきい値」みたいなものがあるようなんです。したがって、キャンペーンごとに今回のユーザーの「しきい値」がどの辺にあるのかは、注意深く探るようにしています。
また、最近効果を実感しているのはデータフィード広告ですが、データフィードの組み方は非常に重要だと感じています。データフィードを正しく組むことが効果的なクリエイティブを作ることにつながるので、このあたりもとても気にしています。
先ほどディスプレイ広告の視認効果やアトリビューションというお話がでました。正直に申し上げて会員獲得系のクライアントさんはこれまでCPAをいかに安く抑えて多く獲得するのか?ということが重要だったと思うのですが、御社がアトリビューション分析などに力を入れている理由を教えて下さい
確かに最後の獲得だけ考えればCPAが最も大切な指標です。なるべく低予算で多くの会員を獲得できれば、ある意味それが正解だともいえます。
しかしそれは、会員になるためのたくさんのハードルの最後の1つの話ですよね。新しくメディアを立ち上げていくときに、広告を使ってある程度の会員を集めることは大切です。しかし、少しずつメディアが成長するにつれてSEOが伸びていきます。ソーシャルや口コミによる登録だって伸びてくる。つまりこれまで「会員獲得=広告」だったところから、「会員獲得=広告+SEO+ソーシャル+・・・」といった形で、広告が担う割合が少なくなるはずです。そうすると、これまで広告に必要だったお金が徐々に必要なくなる。その余ったお金を従来のCPA型の広告、つまりラストクリックのところではなく、認知からコンバージョンまでの様々なハードルを下げるために使えば、いろいろな施策の効果が底上げされます。
本当に視認効果って存在するのですか?
2年前に弊社が運営する「看護のお仕事」というサービスで、バナー広告には視認効果があるのか?という実験をしたことがあります。広告を配信する対象者を2つの群に分け、1つの群には「看護のお仕事」のバナーを見せて、もう1つの群には、弊社が運営する、ターゲットがまったく異なる別サービスのバナーだけを見せます。もし視認効果が存在しないのであれば、最後のバナーのクリエイティブのみがCVRに影響するはずで、それまでに関連する広告を見せていたか、見せていなかったかは影響しないはずです。つまりCVRはほぼ同じになると仮定されます。
結果は、CVRで1.5倍です。この結果はかなり衝撃的でした。ラストクリックの場所だけでCVRを1.5倍にするなんてかなり無茶ですよね。しかし、それまでのユーザーのタッチポイント1つ1つに対して施策を打って、ハードルを少しずつ下げてあげると、それが掛け算のように効いてきて、最後は1.5倍もの差になるんです。この結果をうけて、現在弊社ではラストクリック用のバナーに加えて、視認効果の高いバナーや動画の制作も進めています。
インハウスにする最も大きなメリットは、マーケティングの事業直結化
多くの獲得系クライアントさんが代理店に広告の運用を任せることが多い中で、なぜレバレジーズさんはインハウスでの広告運用を行うのですか? インハウス運用をはじめた当初は予算規模やメディア数が今ほど多くはなかったので、先輩運用者と私の2人だけで純広告、リスティング、アフィリエイトをすべて運用していました。それからメディアの数が増えたり、運用するツールが増えてもインハウスの姿勢を崩さなかったのは、インハウスで運用することにメリットがあると確信しているからです。
まず、なによりマーケティングのノウハウを社内で蓄積していくことが市場での優位性に繋がると思っています。事業の広告運用、メディア運用を自分たちの手で行うことは、一つ一つの施策のROIを細やかに判断しながら運用することにつながります。1CVあたりの売上期待値は、そのユーザーの属性や、どの経路から生まれたCVなのかによって全く異なります。場合によっては、仮にCPAが0円だったとしてもROIがマイナスになってしまう場合もあるわけです。インハウスのメリットは、そこまで見ながら精緻な運用が出来ること、そしてその過程で、どんな運用をすれば高いROIを実現できるのかを学習できることです。そのため、私たちはインハウスを選びました。
次に、スピード感を持った運用ができることです。例えば新たなターゲットやセグメントを発見しても社内であればすぐ対応でき、新しい施策などもすぐに実行できます。事業に必要なことを即断即決ですぐに実行できる。隣にエンジニアやデザイナーがいれば、すぐにLPやクリエイティブを変えられますよね。
そして、最後が一番大切なことだと思うのですが、事業に関わる人の目的意識や方向性が合わせやすいということです。どうしても自社の中長期の戦略などは他社さんには出せないこともあるので、お互いの目的意識や方向性をあわせることには限界があります。自社の社員であれば、中長期の戦略を早い段階で知ることができるために、自分のやっている仕事が事業全体にどういう意味を持つのか、どういうことが大切なのかといったことを深く考えながら日々の運用ができます。
また、自社の社員であれば、1人1人の運用者が、「自分たちが獲得した会員がどのくらいの割合で転職できているのか?」というCPAやCVR以前の「いったい自分たちのサービスはお客様のためになっているのか?」という自分たちのサービスの存在意義に関する情報も知ることになります。いくらCPAが安くなっても、CVRが高くなっても、その先に価値を提供できていなければ意味が無いですよね。そこまで自分たちのサービスを意識して日々の広告運用できるってすごい強みだと思うんです。
逆にインハウスで運用しているからこその課題やデメリットはありますか?
もちろんあります。
まず代理店さんにお手伝い頂くのと比べると圧倒的に人員が必要ということです。インハウスで広告運用を1から10までを行うには、多くの人材が必要です。また、プロモーションチームには新卒入社が何人もいますが、彼らが一人前になるまでにある程度の教育の時間も必要になります。数も必要な上に、育成にも時間がかかります。まずはここが1つ目のハードルです。
2つ目のハードルはインハウス運用によってノウハウが蓄積される一方、属人化も進むので、ノウハウをチームで共有する仕組みを作らなくてはならないことです。レバレジーズではノウハウの共有のために、チームの上長と運用者が、その週にどんなことをしたのか、良かったこと、悪かったこと、課題や対応策を話し合う確認会というのを毎週行っています。同じメディアの担当者同士ではノウハウ共有の仕組が作れているのですが、それを横軸で他のメディアに共有できるような仕組みは出来ていません。そこが2つ目の課題です。
また、人材以外の面の課題は運用者の視野が狭くなりがちなことだと思います。インハウスで運用することは、他社やマーケットの情報が入ってこなくなるということなので、今の運用方法が他社と比べてどうなのか、といった比較ができないんです。これは、一部の信頼のおける代理店さんとお付き合いをしたり、同業他社の担当者と頻繁に情報共有することで解決しようとしています。
他に、組織的な課題もあります。今の運用体制は各メディア個別の事情を出来る限り反映させていく「個別最適」の方法です。もちろん事業のドライブに個別最適は必要なのですが、一方でレバレジーズとして、もしくは各メディアとして、均一のユーザー体験を提供するとか、各施策で相乗効果を生み出していくといった「全体最適」も考えなければいけません。そのさじ加減がむずかしいですね。
今後レバレジーズが考える代理店との理想の関係とはどういうものなのでしょうか?
きちんとお互いに信頼を築いた上で、目先の目標だけではなく、レバレジーズという企業がマーケティング活動を行う意図をきちんと汲み取ってくれるところとお付き合いしたいと思っています。たとえば、CPAをあわせるというところでも、私たちのサービスは転職サービスなので、いくらCPAが安くてもその後のユーザーが転職ちゃんとできないとサービスとしてはダメなんですね。難しいところですが、そこまで一緒に考えていただけるところだとすごくありがたいですね。とりあえずCPAあわせたらいいんですよね?という関係性はちょっと難しいかな思います。
もちろん代理店さんとお付き合いするメリットは数多くあります。たとえばクリエイティブの制作やプラットフォームの知識は我々よりも当然多く、キャッチアップも早い。また、新しく出てきた手法に対してトライして開拓していくのも代理店さんだと早いですよね。たとえば少し前のFacebookや、今だと動画広告などは、実は代理店さんと話をしながら導入を進めています。とはいえ、マーケティングというのは事業の一環ですので、できるだけ事業に近い目線が必要であるという考えなんですよ。それを実現できる関係性を我々も模索しているところです。
これからもっと広告の可能性を広げたい
棚橋さんが考える良い運用者とはどういう人ですか?
数字を数字として捉えない人でしょうか。同じ0.1%の可能性で起きるクリックでも、その背景は違うはずです。発生したインプレッションやクリックがどのような背景から起きたのか、クリックのうしろにはユーザーがいるはずなので、1つ1つの数字には意味があるからです。そこに対して疑問を持てる人が良い運用者だと思います。弊社でもどのようにそのような運用者をどう育てたら良いか模索しているところです。現在はOJT制度のみですが、今年からもう少し教育プログラムを充実させていきます。
今後挑戦してみたいことはありますか?
一言で言うと、広告の可能性を広げたいと思っています。どれだけブランド効果や認知度が上がっても、広告予算の増加にはつながらないんですね。結局はそれが会社の売り上げにつながらないと予算の増額はできないわけです。いまCPAという指標が重要視されているのも、それが売上と結びつきやすいからであって、だからこそ、そこには多くの予算を各社が投下してくる。一方で、ブランド効果や認知度に多くの予算を投下できない、もしくはまったくチャレンジできないのは、それがどれだけ売上に結びつくのかがわかりにくいからです。もしそこを少しでも明らかにできれば、マス広告やいろいろなマーケティング手法にも手を出しやすくなると思っています。
この時代、事業成長は継続的に求められます。継続的な成長が求められる一方で、どんなにCPAをあわせる画期的な方法を思いついても、そんなノウハウはすぐに陳腐化して、継続的な事業成長を支えられるとは思えません。だからこそCPAも大切ですが、それ以外の領域にも少しずつ足を踏み入れて、自社の強みや独自性をいかに作っていくのかが大切だと思っています。
最後に一言お願いします
レバレジーズは、創業から11年が経ちますが、まだまだ変化の激しい会社です。先進的な取り組みも理解をしてもらえる会社ですし、チャレンジのためのお金ももらえる会社です。私たちは全員が広告屋でなく、マーケターだと思っています。事業運営者の立場で、広い視野で働いてみたいという方がいましたら是非ご連絡ください。
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本稿は、fluct magazineに掲載された記事を転載したものです。