世界最多の590バンドによる衛星観測

DIWATA-1のベースとなっているのは、両大学が共同開発し、2014年5月に打ち上げた超小型衛星「雷神2」である。雷神2の設計をなるべく引き継ぎ、新規開発の部分を最小限に抑えることで、約1年という超短期開発を実現した。

DIWATA-1の概要。ISSからの放出となるので、高度は400km程度

DIWATA-1の外観。観測カメラは底面側に搭載されている

観測カメラとしては、地上分解能、視野、波長の異なる4種類の装置を搭載。これらを組み合わせることで、多様なリモートセンシングを行うことができる。

地上分解能3mの望遠鏡で地表を詳しく観測できるカメラが「HPT」である。ただし、HPTは高分解能である代わりに撮影範囲が1.9×1.4kmと狭いため、視野180°×134°という魚眼カメラ「WFC」と、その中間の特性の中分解能カメラ「MFC」(地上分解能185m、撮影範囲121.9×91.4km)も搭載。用途に応じた分解能を選択することが可能だ。

底面の右奥に見えているのが「HPT」。望遠鏡の口径は10cmだ

HPTは雷神2で初めて搭載され、すでに観測装置としての実績がある。なお地上分解能が雷神2のときの5mから3mへと向上しているのは、DIWATA-1の軌道高度が400km程度と低いためで、望遠鏡部分の設計は同じということだ。

そして今回注目の観測カメラが、残る1つの「SMI」である。このSMIは地上分解能80m、撮影範囲52×39kmのカメラだが、最大の特徴は、590バンドという超多波長の撮影が可能であるということ。液晶フィルターにより見たい波長を選択する仕組みで、衛星による観測として、590バンドは世界最多だという。

底面の左手前にあるのが「SMI」。2つのカメラで合計590バンドを実現

多波長観測は非常に応用範囲が広い。これで他衛星との差別化を図る

多波長観測は、農林水産業や鉱業など、さまざまな分野で活用が期待されている。たとえば、病害虫を早期発見したり、稲の成長段階を把握したり、漁場を推定したり、鉱物を同定したり。SMIを開発した北海道大学の高橋幸弘教授は、こういった分野に対し「革命的な情報の深さを与えることができる」とアピールする。

衛星を使った観測の弱点の1つとして観測頻度の低さがあるが、DIWATA-1は高精度・高速な姿勢制御によるターゲットポインティング機能を実装。「事実上5,000kmが射程範囲に入る」(高橋教授)とのことで、角度が大きい場合は地上分解能が低下するものの、毎日1回程度の撮影が可能になるという。

そしてさらに、高橋教授が描いているのは「アジア・マイクロサテライト・コンソーシアム」という衛星コンステレーション構想である。衛星の数を増やせば、それだけ観測頻度は向上する。しかしアジアの新興国にとって、1国だけで数10機もの衛星を飛ばすのは財政的に難しいので、参加する各国で協力して開発しよう、というわけだ。

現在10カ国程度に呼びかけており、将来的には約50機規模の衛星観測網の構築を目指すという。複数の衛星間で観測データを連携するためには、センサー技術、データ、アプリケーションの標準化が不可欠。フィリピンのDIWATA衛星は、この取り組みの第一歩でもあるのだ。

「アジア・マイクロサテライト・コンソーシアム」構想

現在、9カ国11機関と実現に向けて動いているという