日本HPの人事・総務本部長を務める羽鳥信一氏に話を聞いた

育児と仕事を両立するための働き方のひとつとして注目されている「在宅勤務制度」。導入する企業も増え始め、自動車大手のトヨタ自動車もこのほど、終日の在宅勤務を育児中以外の社員にも幅広く認める制度創設の検討を開始。政府も「2020年までに、週1日以上終日在宅で就業する人の数を全労働者の10%以上にする」という目標を設定し、普及に力を入れている。しかしその数は約220万人と、全労働者の3.9%にとどまっているのが現状だ(国土交通省「平成26年度テレワーク人口実態調査」)。

「在宅勤務制度」の導入には何が必要なのか。そして、課題と効果はどのような点にあるのか。2007年から導入を開始している日本HPの人事・総務本部長、羽鳥信一氏に話を聞いた。

業務効率化のために導入

日本HPが8年前に導入した在宅勤務制度は「フレックスワークプレース制度」と呼ばれるもの。システム保守などの業務を除くほぼ全ての職種の社員に、週に2回、月に8回に限り、在宅で仕事をすることが許されている。なぜ他社に先駆けてこのような制度を導入するに至ったのか、羽鳥氏はその目的を「業務の効率化」と主張した。例えば営業職の場合、取引先の企業が会社よりも家から近ければ、家で仕事をしてから営業に行ったほうが、時間を節約できる。羽鳥氏は、「制度の導入で、顧客と会う時間が増えたというデータも出ている」と指摘。結果として生産性を上げることにもつながっているようだ。

日本HPの社内では、社員が思い思いの場所で仕事をしていた

そうはいっても、新しい制度の導入に反対の声はなかったのだろうか。これについては、「フリーアドレス制の素地があったので比較的、理解を得やすかった」と話す。同社では2001年に社員が自席を持たない「フリーアドレス制」を導入。1人1台ノートPCを持ち歩き、社内のどこにいても仕事ができる環境が既に整っていた。その延長線上に在宅勤務があったのだ。

「海外の同僚や上司とのやりとりはほぼリモート。会議システムや決済の認証ツール、共通資料のファイリングなどもオンライン上で全て可能だった」と語った羽鳥氏。グローバル企業でありかつ、IT企業であったという同社の特色がいち早い制度の導入につながったのかもしれない。

震災が大きな転機に

一方で、制度が定着するまでには課題もあった。登録はするものの、実際に制度を利用する人の数がなかなか増えなかったのだ。社内には、「本当に活用できるのだろうか」という不安の声があったという。そんな社員の意識を変えるきっかけとなったのが、くしくも東日本大震災だった。震災の影響で出社できない、オフィスの節電が必要などの理由で、必然的に在宅勤務を行う社員が増加。結果として、働き方の変化に「慣れた」ことで、震災以降、登録をした社員の9割以上が制度を利用するようになった。

同社で定着が進んだ在宅勤務制度。ほかの企業でも導入は可能なのか。また、育児中の社員にとってはどのようなメリットがあるのか。後編でお伝えする。