マリオのトレードマークに隠された「理由」

マリオといえば赤い帽子やヒゲ、そしてオーバーオールなどがトレードマークとして定着しています。初代から変わらないマリオのデザインですが、なぜあの見た目になったのでしょうか。実はここにもドット絵とファミコンの制約による理由が隠されていたのです。

マリオといえば、赤い帽子にオーバーオールというこのルックス。(c)1985 Nintendo

一つには「色」の問題があります。先ほどキャラクターは8×8を4つ重ねた64ピクセルで構成されていると書きましたが、ファミコンではこの8×8の中で色を4つしか使えないという制限があるのです。さらに、キャラクターのドットの周囲の色は「透明」にしないと背景グラフィックに溶け込まないため、4色のうちの一つは必ず透過色を選ぶ必要があり、実質使える色数は3つとなります。

マリオを構成する色は赤(帽子や服)、肌色(肌とオーバーオールのボタン)、緑がかったグレー(ヒゲなど)の3色で、オーバーオールのボタンは肌と同じ色が使われています。かなりシンプルですが、しっかりとマリオになっているところはさすがです。

ヒゲや帽子といったルックスにも理由があります。これは任天堂公式コンテンツ「社長が訊く」に詳しく載っています。

岩田:
圧倒的にドットが足りないんですよね。

宮本:
足りないんです。すぐ8×8ドットになっちゃうんです。
それで、鼻を描いてヒゲを描いたら口かヒゲかわからないので、そこでドットは稼げると。

岩田:
ヒゲを描けば、口は描かなくていいんですよね。

宮本:
描かなくていい、これは大きいです。あごは1ドットあればいいですし。
それに目は、縦に2ドットで描くとかわいいかなと(笑)。
で、髪の毛を描ききれないので、帽子をかぶせたら
帽子は2ドットで抑えられる。
(中略)
でも、残りのドット数でカラダを描こうとすると限界があるんです。
しかも、ちゃんと走らせたいので
アニメーションにする必要があったんですけど、
当時は3パターンしかできなくて。
そこで、走るとき、腕を振りますけど、
動きをわかりやすくするために
腕と体の色も違っていたほうがいいと思ったんです。
そんな服はあるのかというと・・・。

岩田:
オーバーオールですね(笑)。

そう、マリオのグラフィックは、64ピクセルという制約の中でキャラクターを表現するための苦肉の策だったのです。

「スーパーマリオブラザーズ3」画面 (c)1988 Nintendo

そんなマリオ、初代から3年後の1988年に発売された「スーパーマリオブラザーズ3」で、グラフィックが一新されます。

もっとも、ハードは同じファミコンですから、グラフィックに関しての制約は同じです。そんな中、しっぽマリオの立体感あるデザインは、当時のゲーム業界関係者を驚かせました。これ、実はよくみると、8×8の中で実質3色までしか使えないという条件はしっかりと守られています。がらりと変わったように見えるのは、使っている色が変わったことや、ドット絵の描き方が巧みになったからなのです。

今や世界的なキャラクターとなったマリオ。その誕生の裏には、ファミコンに課せられた厳しい制約と戦ったクリエイターたちのアイデアと工夫があったのでした。

【参考資料】
松浦健一郎・著「ファミコンの驚くべき発想力~限界を突破する技術に学べ~」技術評論社