ソフトバンクグループは11月4日、都内で2016年3月期第2四半期決算の説明会を実施した。同社の2015年上期は、ヤフーがアスクルを子会社化したことや、米スプリントの売上高が伸びたことなどから、売上高が10%増の4兆4238億円となった。

一方で純利益は、昨年アリババが上場したことによる一時益がなくなった影響から、23.9%減の4266億円にとどまり、増収減益の決算に落ち着いた。

決算説明会に登壇したソフトバンクグループの孫氏

携帯料金の値下げ議論に「大人の対応をする」

主力の国内通信事業は、売上高が5.6%増の1兆5039億円、営業利益が5.9%増の4247億円と、「順調に伸びている」と代表取締役社長の孫正義氏は説明する。

通信ARPU(Average Revenue Per User)は前年同期比40円減の4190円で、通信サービス自体の売上は減少しているものの、コンテンツなどのサービスARPUが60円増の540円と伸長しており、業績の伸びに影響しているとのこと。

そうしたことから今後は、9月に提供を開始したネットフリックスなどのコンテンツ契約を伸ばしていく必要があると孫氏が見通しを語った。

また、鉄塔などの設備投資が一巡したことからフリーキャッシュフローが対前年比で3倍近くに増えており、経営は日増しに改善しているそうだ。

一方で契約純増数が3万9000件にとどまったことを記者に指摘されると、孫氏は「かつて純増ナンバーワンにこだわり、みまもりケータイやフォトフレームなどを多数販売してきた反動で解約が増えているほか、ワイモバイルのPHSやデータ通信端末の解約も増えている。だがそれらは利益貢献は小さい」と話し、経営上問題ないと説明した。

国内通信事業全体では引き続き伸びを継続している

通信ARPUは減少しているが、それを補う形でサービスARPUが伸び、売上を支えている

ちなみに現在、安倍晋三首相の携帯電話料金値下げ発言を受け、総務省で料金引き下げに向けた議論が進められている。

そうした状況を受けて孫氏は「われわれは米国でも事業展開しているが、日本のネットワークはカバーエリアも速度面でも世界で最も進んでいる。しかもそのネットワークを、米国よりはるかに安い料金で提供している」と、収益がインフラ面の投資に生かされていることをアピールした。

さらに「世界で一番iPhoneを安く提供しているのも日本。その点を多くの人に再認識してほしい」と、通信料から端末代を割り引く仕組みにメリットがあることにも言及するなど、総務省の議論で問題視されているポイントには利点があることを強調していた。

しかしながら一方で、この議論に関しては「かつての私であればカーッとなっていたが、真摯に受け止める」と、大人の対応をしていくと孫氏は話している。

「(携帯電話事業者が)もうけすぎという声も聞かれるが、企業は業績を伸ばすことが使命。そのうえで、より安価なサービスや高度なサービスなど、多様なニーズに応えられる商品をそろえていきたい」とも話しており、料金プランなどに対して柔軟な対応をとる構えも見せている。

スプリントの業績改善に強い自信

続いて孫氏は、ソフトバンクグループで最も大きな課題となっている、スプリントの再建に言及した。

純減が続いていたポストペイド契約の契約数が、マルセロ・クラウレ氏がCEOに就任して急速に回復し、今四半期は55.3万の純増に至ったとのこと。なかでも孫氏が注目しているのは、売上で多くの部分を占めるスマートフォンなどの携帯電話端末の利用者、そして信用が高く、長期的に契約してくれる優良顧客の純増が増えていることだという。

これまでスプリントは、信用が低く、端末代を払うことなく解約してしまうような、サブプライムカスタマーを多く獲得することで純増数を増やしてきたという。

だが、マルセロ氏の体制に切り替わってから、そうした顧客を減らして優良顧客を重視する戦略をとった。また、広い帯域幅を持つ2.5GHz帯を用いて通信速度を向上させる施策などにより、売上も増え、解約率も1.54%に低下している。

ポストペイド契約数の中でも、携帯電話端末の契約が伸びていることが大きなポイントになるそうだ

解約率はスプリント設立以来最小を記録したとのこと

さらに孫氏は、スプリントの業績を反転させるため3つの戦略をとるとしている。1つは固定費(OPEX)の削減で、2016年度から人員削減も含め、毎年2千数百億規模の削減を続けている。それに加えて470項目の固定費を削減するためのプロジェクトを始動するとしており、今後も毎年、継続的に固定費を減らすとしている。

2つ目は、孫氏が自ら「1年前は最悪だった」と話すネットワークの改善。以前から話してるように、孫氏自ら毎晩深夜まで、米国のエンジニアと会議をしながら次世代のネットワーク設計を進めているとのこと。

それが現実のものになるには1~2年かかるようだが、孫氏は「ナンバーワンになれなかったら私のせいだと言ってもらって結構」と、改善に強い自信を見せるほか、「私にとってはこの会議が趣味のような楽しみの時間になっている。非常にワクワクする」と話している。

最後の3点目は資金調達だ。端末をリース販売する際に発生する収支のギャップを埋めるべくリースカンパニーを設立し、そこを仲介することによって資金の問題を改善していくとのこと。リースカンパニーの設立は今月中に実施されるそうで、これによって資金の流れが大きく好転するとしている。

これら3つの施策により、「ボーダフォン日本法人買収時のように4年で有利子負債を返済するというわけにはいかないが、徐々に外部負債が減ることで純利益を一気に改善させる好循環ができる」と、孫氏は改めてスプリント再建に自信を見せている。

固定費の削減、ネットワーク改善、そして資金調達の多様化によって、スプリントの業績を改善、反転攻勢に出たいとしている

孫氏は毎晩スプリントのネットワーク設計に関する会議に参加することが楽しみだという

ニケシュ氏の参画で投資事業が本格化

インターネット事業においては、ヤフーが広告やEコマースで好調な業績を示しているほか、投資先の企業においても、ソフトバンクグループが投資したアリババなど海外の多くのインターネット事業者が大きく伸びているとのこと。

また新たな投資先の有望株として、孫氏はフィンテック(FinTech:ファイナンシャルテクノロジー)関連企業が急速に伸びると説明。学生向け融資プラットフォームを展開する米国のSoFiに投資したことも明らかにした。

今後の企業投資は「ニケシュ(代表取締役副社長のニケシュ・アローラし)を中心に、密にやり取りしながら進めていく」(孫氏)とのことで、現在ニケシュ氏を中心とした、10名程度の投資チームを設けて積極的な投資体制を進めていくとしている。

ニケシュ氏がソフトバンクグループに参画する以前、孫氏は「特に通信事業を始めてからは、私が海外に飛び歩き、企業を見つけて投資するほどの時間や心理的余裕がなかった」状況だったと話している。

だが現在は、ニケシュ氏が世界中を飛び回って交渉を進められることから、より深く、専門的な投資ができるようになったとのこと。今後もインターネット業界に絞り込み、お互いのシナジーが出し合える企業への投資を進めていきたいと、孫氏は話している。

新たな投資先として、フィンテック関連企業のSoFiに出資したことを明らかにした

ニケシュ氏は孫氏と並ぶ形で今回の決算説明会にも参加していた