上場を前に日経平均株価が上昇、市場は歓迎ムードか

9月29日に1万6901円の年初来安値をつけた日経平均株価だが、10月26日にあっさり1万9000円を突破した。

6月に2万952円をつけてから3カ月で約4000円を下げていたが、一気に切り返す展開となったわけだ。

今回の日経平均株価の下げは、もっぱら中国株の大幅下げが原因と言われている。ただちょうど、1987年のNTT(日本電信電話・東1・9432)上場以来の政府放出株の大型案件である郵政グループ3社の上場が控えている。このまま市場に暗雲が立ち込めたら、郵政上場はどうなるとやきもきする向きもあったが、明るいムードが広がっている。

11月4日に上場することが決まっている日本郵政グループ3社だが、10月8日からブックビルディングを開始。19日にゆうちょ銀行(7182)とかんぽ生命(7181)の売り出し価格が、それぞれ仮条件の上限価格である1450円、2200円に決定。さらに26日、日本郵政も、同じく仮条件の上限価格である1400円で決定した(表参照)。

ゆうちょ銀行とかんぽ生命の売り出し価格が、それぞれ仮条件の上限価格である1450円、2200円に決定。さらに日本郵政も、同じく仮条件の上限価格である1400円で決定した

政府保有株では初の親子上場。子の力が強い!?

郵政3社は、1987年の日本電信電話(NTT・東1・9432)に始まり、1990年代、2000年代と続いた政府保有株放出の真打ちといわれてきた。初回売り出し規模は、2兆円を超えた1987年のNTTやNTTドコモ(9437)には及ばないものの、93年の東日本旅客鉄道(9020)や94年の日本たばこ産業(2914)よりははるかに大規模だ。

また、政府放出株では過去に例のない"親子同時上場"という点も注目だ。

親とは「日本郵政」、子とは「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」のことだ。というわけで、売り出し価格も、まず10月19日に子会社のゆうちょ銀行とかんぽ生命が決まった後に、26日、親会社の日本郵政の売り出し価格が決まるという2段階スキームになっている。

実際、2016年3月期の経常利益を見ても、日本郵政は8600億円を見込んでいるが、そのうち、銀行が4600億円、保険が3500億円と、その大半は2社に依存している。このため、「子」の価値が決まらなければ、「親」の価値が決められないという構造になっているのだ。

先々週、ゆうちょ銀行とかんぽ生命のブックビルディングの結果が発表になったところ、私の周りでも、意外と日本郵政グループに応募している人がいることがわかった。しかし、「ゆうちょ銀行が当たった」という人は見かけたが、「かんぽ生命が当たった」という人はいなかった。噂によると、かんぽ生命の応募倍率は30倍、ゆうちょ銀行が5倍だったという。

売り出し株数が、かんぽ生命が5280万株、日本郵政が3億9600万株、ゆうちょ銀行が3億2995万株で、かんぽ生命の株数が圧倒的に少ないのが、倍率が高かった理由だろう。

しかし、事業面で見ても、生保会社の健全性を示すソルベンシーマージン比率が1644%と大手生保をはるかに上回る健全性を示している。保険料収入も約6兆円と大手生保会社と肩を並べる規模を誇っている。

成長面では、保険分野で今人気の医療保険やガン保険などの販売で出遅れをとっており、商品開発→売り出しをするのにも、1回1回認可が必要なので、すぐには他社に追いつく目処は見えないが、伸びシロは大きいという見方もできる。

これに比べると、ゆうちょ銀行は、銀行の収益の柱となっている貸出業務をしていない。現在、認可待ちとのことだが、いつになったら事業を始められるかわからない状況で、株価にとって一番大事な成長面が不透明というところは、否めない。

配当利回りは3%前後と高配当株として安定。NISA利用も

それでも、今回、これだけの応募があったのは、やはり、安全性ではピカ一の日本郵政グループの信頼とブランド力があるだろう。売り出しに大きく貢献したのは、実は、銀行系の証券会社だ。今まで株式購入をしたことのない層に猛烈に営業をかけた。ある地方銀行証券担当者は、8月に口座数が4割アップしたと忙しさを口にしていた。

実際、株価の割安度を示すPBRをみると、ゆうちょ銀行0.47倍、かんぽ生命0.67倍と割安なのは確か。しかも、配当政策には前向きな姿勢を出しており、3社とも、配当利回り3%前後に達する予定だ。

これだけの配当をもらえれば、銀行系で購入した株式初心者は少しくらいの値上がりでは、手放さず長期保有者となる可能性が高い。空いていたNISA枠を使って購入した人も多いのではないだろうか。

来週に上場が迫っている3社。売り出しとともに、どういった株価動向になるかが注目だが、早々悪い展開はなさそうな勢いだ。

<著者プロフィール>

酒井 富士子

経済ジャーナリスト。(株)回遊舎代表取締役。上智大学卒。日経ホーム出版社入社。 『日経ウーマン』『日経マネー』副編集長歴任後、リクルート入社。『あるじゃん』『赤すぐ』(赤ちゃんのためにすぐ使う本)副編集長を経て、2003年から経済ジャーナリストとして金融を中心に活動。近著に『0円からはじめるつもり貯金』『20代からはじめるお金をふやす100の常識』『職業訓練校 3倍まる得スキルアップ術』『ハローワーク 3倍まる得活用術』『J-REIT金メダル投資術』(秀和システム)など。