日本勢が先端半導体洗浄技術について7件を発表

米国電気化学会(ECS)のロゴマーク

米国電気化学会(The Electrochemical Society:ECS)主催の第14回半導体洗浄科学技術国際シンポジウム(14th International Symposium on Semiconductor Cleaning Science and Technology:SCST 14)が、アリゾナ州フェニックスでECS 2015年秋期ミーティング(19月11-15日)の併催行事として開催された。これは、半導体洗浄技術に特化したユニークな会議として、1989年以来、四半世紀に渡り隔年開催されている。世界中の洗浄技術研究者や製造現場のエンジニア、装置メーカーや薬液メーカーなど周辺産業の関係者が一堂に会して、最先端の半導体デバイス製造における洗浄技術について議論した。

シンポジウムは、基調講演(1件)、水と薬液(4件)、金属汚染(3件)、パーティクル除去(4件)、ウェハ乾燥(3件)、ウェット・エッチング(7件)、BEOL洗浄(2件)、非シリコン基板:エッチング・クリーニング・コンディショ二ング(8件)、ポスター(5件)の9セッション、合計発表件数37件で構成されている。プログラム上は42件となっているが、5件が発表キャンセルとなった。

国別の発表件数では、開催国の米国が17件と最も多く、日本は7件(表1のリスト参照)で2位、フランス5件、ベルギー4件、韓国3件、ドイツ1件と続く。

発表機関別では、開催地がフェニックスだったためもあり、地元のアリゾナ大学が6件でトップ、米国GLOBALFOUNDRIES(GF)とベルギーimecがともに4件、韓国のHanyang大学が3件、日本のSCREENセミコンダクターソリューションズ(旧:大日本スクリーン、以下SCREEN)、伊仏STMicroelectronics、仏Leti(国立電子技術情報研究所)が各2件と続く。これらの統計は講演論文筆頭著者の所属先によるものである。LetiとSTMicroは洗浄技術に関して広範囲の共同研究を行っていることがうかがえる。imecはSCREEN、栗田工業、ルーベン・カトリック大学などと世界規模で協業している。

発表企業 テーマ 備考
SCREEN 先端ウェット・プロセスにおける酸素制御 imecと共同
SCREEN BEOLにおけるパーティクルとポリマー除去のための2流体スプレー -
ソニー 先端ULSIプロセスにおける金属汚染制御 招待講演
東芝 ナノ構造の癒着における表面エネルギー減少の効果 -
オルガノ シングルウェハ洗浄プロセスにおける電導性リンス水としてのアンモニア水の効果 -
栗田工業 硫酸溶液中へのゲルマニウムの溶出 imecと共著
堀場製作所 マイクロサンプリングpHモニタを用いた超希釈薬液のリアルタイムモニタリング -

基調講演は、アリゾナ大学のRaghavan教授による「ウェット・プロセスにおける電気化学的効果の理解と制御」。異種金属の接触によって生ずるガルバニック腐食やHF溶液中のCu汚染などいくつかの具体的な例を挙げて、ウェットプロセスを理解し制御するためには電気化学的考察が重要であることを強調した。

「純水と薬液」のセッションでは、Air LiquideのBalazs Nano-Analysis部門が米Samsung Austin Semiconductor、GFと共同で、先端半導体プロセスにおける純水の要求仕様について講演した。純水に関するほとんどの仕様は、今後さらなる要求は必要ないレベルに達しているが、パーティクルに関しては、デバイスの微細化に伴いさらに微小なパーティクル除去の要求がある。しかし、最先端のフィルターでろ過しても取りきれないほどのレベルであるとともに、そのような微小パーティクルの測定法も間に合っていない。TOC(Total Organic Carbon)として計測される純水中の有機物質や、純水をUV殺菌する際に発生するH2O2が先端デバイスに悪影響を与えることが知られており、これらの制御も必要だと述べた。

SCREENはimecと共同で、Siよりも高キャリア移動度のGe基板を用いた最新のプロセスにおいては、溶液中の溶存酸素および雰囲気中の酸素を制御しないとGe表面にボイドが発生すると注意を喚起した。

「金属汚染」のセッションでは、ソニーが、先端半導体製造における金属汚染の検出、分析、防止、除去、ゲッタリングについてレビューした。ソニーが世界をリードするイメージセンサは金属汚染に最も敏感で接合リーク電流や暗電流の原因となるため、徹底した汚染制御が要求される。今後は、最先端ロジックICの高移動度チャネル材料として、III-V族半導体が採用されるようになるが、その汚染制御が大きな課題となるだろうと述べた。

「パーティクル除去」のセッションでは、韓国Hanyang大学が、 Extreme Ultra-Violet(EUV)リソグラフィ用のマスクおよびフラットパネルディスプレイの酸化物TFTプロセスでのパーティクル除去に関して2件発表した。GFからは「ウェハ裏面残渣のブラシ洗浄を用いた除去による歩留まり向上」という製造現場からの報告があった。

「ウェット・エッチング」のセッションでは、将来のデバイス構造と言われるゲート・オールアラウンド・デバイス構造(MOSトランジスタのチャンネル領域を円柱状のゲート被ってしまう3次構造)におけるGeおよびSiGeの選択エッチングに関する招待講演をベルギーimecが行った。東京エレクトロンの米国法人は3次元NANDフラッシュメモリにおける窒化シリコン膜のエッチングについて報告した。いずれも今後の半導体製造の鍵を握るホットな話題である。

「BEOL(Back End of Line:多層配線)洗浄」のセッションでは、米Intelより「多結晶金属の超微細エッチング:将来デバイスに向けた有望な技術」と題する招待講演が行われるはずになっていたが、直前になって中止となった。Intel内部で超微細化に関して解決せねばならぬ課題を多数抱えており、学会活動どころではない状況のようだ。多層配線工程の超微細Cu/low-k構造に代表されるBEOL洗浄は大きな問題となっている。SCREENは、2流体スプレー洗浄のBEOL工程へ応用し、パーティクルとフロロカーボン・ポリマー残渣を除去する報告を行った。

今回のシンポジウムで最大のセッションは「非シリコン基板:エッチング・クリーニング・コンディショ二ング」であった。非シリコンとは、前述したような、次世代ロジックLSI用の、シリコンよりも高キャリア移動度基板のGeやIII-V族半導体(GaAs、 GaInAsやInPなど)、パワーデバイス用のワイドバンドギャップ半導体であるSiCやGaNなどを指す。

まず、冒頭で、アリゾナ大学より、III-V族半導体のエッチング・パッシベーション・堆積の反応メカニズムについての招待講演の後、7件の講演が行われた。

アリゾナ大学およびimecからそれぞれ独立に、III-V族半導体およびGeのHCl/H2O2混合液によるエッチングに関する発表があった。仏LetiがSTMicroと共同で、「GaAs基板上の自然酸化膜の除去」、「InGaAsおよびInP基板の洗浄」の2件の発表を行った。アリゾナ大学はGaInAs基板のケミカル・パッシベーションについても報告し、同大学がIII-V族に関して集中的に研究していることをうかがわせた。仏勢も力を入れている。

硫酸溶液中でのGeの溶解現象について栗田工業がimecと共同発表した。米国General Electric(GE)研究所がニューヨーク州立大学やリガク(日本および米国法人)と共同でパワー半導体用SiC基板のウェット洗浄について発表した。これはニューヨーク州が主導し、GEを核として組織されているパワー半導体製造コンソーシアム(New York Power Electronics Manufacturing Consortium:NY-PEMC)の研究成果の一端である。

(後編は10月28日に掲載予定です)