分析機器大手のアジレント・テクノロジー(アジレント)が昨年立ち上げた「Cross Lab」は、消耗品やサービスなどアフターマーケットサービスを提供するビジネスブランドだ。その大きな特徴は他社製品にも対応している点で、消耗品・メンテナンス・ソフトウェアを含む領域をカバーし、ラボの運用をサポートする。

同社が「CrossLab」を立ち上げた背景、そして同ブランドを通じて顧客に提供していく価値とはどのようなものなのだろうか。

今回、来日した同社Senior Vice PresidentのMark Doak氏とサービス&サポート事業部 グローバル・マーケティング部長の鈴木健太郎氏に話を伺った。

サービス&サポート事業部 グローバル・マーケティング部長の鈴木健太郎氏(左)とSenior Vice PresidentのMark Doak氏

アジレントだからできる「From Insight to Outcome」

アジレントがCrossLabを立ち上げた背景にはラボを取り巻く環境の変化があるという。分析器業界で30年以上のキャリアを持つDoak氏は「サンプルの複雑化やレギュレーションの厳密化、テクノロジーの高度化などにより、ラボを取り巻く環境は以前より厳しくなっている。また、株主の要求も高くなっている。」と説明する。変化への対応に追われ、ラボが本来注力すべき業務に集中して取り組むことが難しくなってしまい、結果として科学的成果が損なわれてしまっているという。

こうした課題に対し、サイエンスと経済性の両面をサポートすることでラボが本来の注力領域に集中できるようにすることが「CrossLab」の目的ということになる。

CrossLabでは現在ラボが直面している多くの課題に対してソリューションを提供する (資料提供:アジレント・テクノロジー)

これを実現するためのアプローチとして同社は"From Insight to Outcome"というフレーズを掲げている。この中で特にポイントになるのは"Insight"、つまり"気付き"の部分だ。これは、同社がCrossLabの立ち上げ前に実施した顧客アンケートの結果に基づくもので、鈴木氏によれば「メーカーに何を一番期待するのか」「何が最も大きな差別化要因となるのか」「アジレントのどのような点が最も信頼できるか」という3点について調査した中で最も多かったのが"気付き"という回答だったという。製品が実際に作動するというのは当然のことで、それ以上にアジレントがこれまで培ってきた経験・知識を使って、目に見えない新しい成果を出すことが期待されていることがわかったのだ。

アジレントが積み上げてきた知識と経験がベースとなる(資料提供:アジレント・テクノロジー)

ラボ全体を最適化する

同サービスで提供しているソリューションは冒頭で述べた他社製品へのサポートのほか、コンプライアンス対応、資産のライフサイクル管理、装置の稼働率管理、ソフトウェアなど多岐にわたる。これらにより、例えば装置の数や稼働率などを考慮して、最もラボの効率が良くなる装置の組み合わせを導き出すことが可能となる。Doak氏はCrossLabを車と消費者の関係に喩え「車の場合、タイヤやエンジンなどのオプション購入によってドライバーの好みにパフォーマンスを代えることができる。しかし、消費者の立場からすると選択肢が非常に多くどこから手をつけて良いかわからない場合がある。目的によって最適な組み合わせになるようにコンサルティングするのが我々だ」と説明する。

CrossLabで提供されるソリューション(資料提供:アジレント・テクノロジー)

ラボの中には異なるメーカーの装置も存在する場合もあるため、マルチベンダーに対応するCrossLabならではのソリューションだと言える。例えば、ラボ全体の装置について分析する場合、アジレント以外のメーカーの装置も対象となる。現在、メーカー間で共通のデータ規格は存在しないため、アジレント側でフォーマットを統一する必要があるが、そうしたデータ調整の部分でも同社のノウハウが活かされている。

その効果は時に絶大であり、生産性が3-4割り増しになったケースや、ラボがこれまで把握していなかった装置が何千台も出てきたというケースもある。また、とある顧客では保有する装置5000台のうち30%がかなり古い装置であるものの最も重要なタスクを担っていることが判明し、新しい装置へスムーズに移行するのに役立ったという。

Doak氏によれば現在、CrossLabのビジネスは順調に拡大しており、特に欧米で広がりを見せているとのこと。業界別に見ると最も導入が進んでいるのはビジネス面でのプレッシャーが大きい製薬業だが、大量のサンプルを分析する環境や食品安全といった分野も有望視されている。

一方、日本ではCrossLabのようにラボ全体を横断的にカバーするソリューションが一般的ではないことから目立った実績はまだない。しかし、上述のアンケートでは日本企業が最もよく反応していたことから、日本でも"気づき"に対するニーズは潜在的に高いと見込まれており、今後の普及が期待される。