キャンペーンの定義

キャンペーンという言葉はビジネスの現場で日常的に利用されているが、曖昧な定義の下で利用されることが多い。キャンペーンとは、もともと軍事用語であり、特定の目的を達成するための作戦を指す。これが政治やビジネスの場面に転用され、マーケティング・キャンペーンは「一定期間において、特定の目的の下で、多様なメディアを介して、組織的に人々に働きかける一連の活動」の定義で利用されることが多い。

このマーケティング・キャンペーンの定義は「プロジェクト」の定義に近く、IT部門にとって親しみのあるものではないだろうか。IT部門が複数のプロジェクトを並行して実行するのと同様に、マーケティング部門もマーケティング・キャンペーン単位でさまざまな施策を展開する。

なぜ、キャンペーン単位で施策を展開するのか。それは、不特定多数に対して一律に同じ情報を提供することを回避するためである。キャンペーンの対象者を特定のセグメントに絞り込めば、対象者に最適な情報を提供することができる。対象者が複数の小さなセグメントに分割される分、マーケターは一度に複数のキャンペーンを展開することになり、このほうが不特定多数に向けた情報発信をするよりコスト効率も高まる。

つまり、キャンペーンは施策が効果的に実施されたかを測るマネジメント単位というわけだ。そして、マーケティング・オートメーション製品は、キャンペーンの企画から、実行と実行状況の監視、キャンペーン終了後にどのような成果を得たかを評価するPDCAサイクルを可視化して提供する。

マーケティング・キャンペーンとは何か?

実は、前述したマーケティング・キャンペーンについての定義は、日米共に確固としたものではない。多くの企業において「マーケティング・キャンペーン」を値引き、割引クーポン、ポイントプログラムのような「セールス・プロモーション」と混同して使う場面がしばしば見られる。また、マーケティング・キャンペーンを「広告キャンペーン」と同じ意味で使用する場面も見受けられる。

いずれも複数のメディアを同時に活用する点では共通している。しかし、広告は訴求したいメッセージや情報を含むコンテンツの一類型であり、企業が提供できるコンテンツのすべてではない。さらに、広告キャンペーンは広範囲のオーディエンスから多くの認知を獲得することを目的として短期間に展開される。一方、マーケティングキャンペーンはいくつかのオーディエンス・グループに対し、それぞれに最適なコンテンツをそれぞれが必要とするタイミングで提供することを目的としている。この2つの点を踏まえると、マーケティング・キャンペーンは広告キャンペーンと区別するべきであろう。

面倒なことに、セールス・フォース・オートメーション(SFA)とマーケティング・オートメーション(MA)の両方で「キャンペーン」という言葉が使われる。つまり、マーケティング・キャンペーンとセールス・キャンペーンが混同される可能性もあるわけだ。しかし、SFAとMAが異なるビジネスプロセスに焦点を当てた考え方である以上、誰に対してキャンペーンを実施するのか、何をキャンペーンのゴールとするかは異なるものになる。

例えば、セールス・キャンペーンのオーディエンスが選び抜いたコンタクト先であるのに対して、マーケティング・キャンペーンのオーディエンスは同じ属性グループに分類されるいくつかのペルソナである。また、セールスキャンペーンでは、ある顧客からの期待収益やそれを得るためのコストを含めて成果を評価するが、マーケティング・キャンペーンではセールス・キャンペーンの対象者となる有望な見込み顧客(リード)をどのぐらい抽出できるかが成果指標となる。国内ではMAに関する認知度が日増しに高まっているが、こうした違いはキャンペーン・マネジメント製品から発展したMA製品の強みを理解するうえで重要である。

マーケティング・キャンペーンの設計方法

マーケティングキャンペーンを設計する際、考慮しなくてはならないのはその目的である。通常、企業の事業活動のゴールは単純であり、どの顧客層を対象に、どの製品・サービスで売上・収益を拡大するかという2つの観点から以下の3つに集約される。

  • 新規顧客の獲得
  • 既存顧客からの売上・利益の維持
  • 既存顧客からの売上・利益の拡大(クロスセルやアップセル)

マーケティング・キャンペーンやセールス・キャンペーンは、これらのゴールを達成するための「部分的」な手段であり、誰に(オーディエンス)、何を(オファー)、どうやって(チャネル)、いつ(タイミング)提供するかという4つの構成要素を明確にするのがキャンペーン設計である。

マーケティング・キャンペーンで重要なのは、見込み顧客(リード)や新規・既存の顧客層に対して、行動の変化をもたらすコミュニケーション・コンテンツを織り込むことである。そのため、企業はその製品やサービスのポートフォリオに応じて、目的が異なる数多くのキャンペーンを同時に展開することになる。

また、個々のキャンペーンには個々の目的に応じて相互関係が存在する。相互関係を決定づけるのは製品やサービスのブランドである。ブランドは時間の経過とともに資産価値が高まる無形資産であるため、企業としては長いスパンでさまざまなキャンペーンの効果を検証したい。

MA製品を活用する際、SFA製品と連携させた使い方を試みるのは、ブランドごとに関連するキャンペーンすべてを評価し、最適な経営資源配分のための意思決定を行うためである。