病気予防や美容に役立つ指標を得られるということで、個人向け遺伝子検査サービスの利用が増えているという。今回、遺伝子検査サービス「MYCODE」を提供するDeNAライフサイエンスに取材して印象的だったことは、同サービスを開始するにあたり「ELSI(エルシィ)」を重視した公式会員サイトの構築が重要であったということだ。
「倫理的、法的、社会的な議論」が不可欠
「個人向け遺伝子検査サービス」の認知度は、今や、非常に高いと言えるだろう。同サービスの草分け的存在となる「23andMe(トゥエンティースリー・アンド・ミー)」では、全世界 約100万人が利用したと公表しているほどだ。
同サービスが人気を博した要因の1つは、簡単な手続きだけで検査できることだろう。DeNAライフサイエンスが提供する遺伝子検査「MYCODE」では、自分で唾液を採取・郵送し、3週間程度で解析結果をWebサイト上で確認できる。(同サービスの詳細は、こちらの記事を参照されたい。)
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DeNAライフサイエンス システムグループ グループリーダー 泉雄介氏 |
DeNAグループはこれまで、「インターネットを使ってリアル産業を変革し、人々の生活をもっと楽しくもっと豊かにする」をコンセプトに多彩な事業を拡大してきたが、健康ライフサイエンスも同コンセプトに当てはまるとし、その第一歩として誕生したサービスが「MYCODE」となる。
「MYCODEは、学術的基盤がしっかりしていることや、ELSIに十分な配慮をしていることが大きな特徴です」と語るのは、DeNAライフサイエンス システムグループ グループリーダーを務める泉雄介氏。同サービスは、東京大学医科学研究所との共同研究に基づき、アジア人・日本人を対象とした論文を中心に発症リスクモデルを構築した点が差別化のポイントだという。
そして、同サービスを運用する上で大切なことが「ELSI」だ。これは、「Ethical, Legal and Social Issues」の略であり、遺伝子研究を進める際に、倫理的・法的・社会的な議論を並行して進める取り組みを指す。
「遺伝子情報は非常にセンシティブなものです。使い方次第で有用なものになりますが、一方で差別などに使われる可能性もあります。米国では、従業員の採用にあたって遺伝情報に基づく差別を行ってはならないという『遺伝情報差別禁止法』が2009年から施行されていますが、日本には現在このような法令はありません。こういった背景があり、弊社も遺伝子検査サービスにおけるELSIを十分に議論しながら進めています」(泉氏)
Adobe Experience Managerを使って遺伝子データを守るシステムを短期開発
MYCODEがサービスを開始した時期は2014年8月。要となるWebサイトの開発には、アドビ システムズのデジタルマーケティングソリューション「Adobe Marketing Cloud」に含まれるWebコンテンツ管理(WCM)ソリューション「Adobe Experience Manager(以下、Experience Manager)」を採用した。
サービス開始時点から約1,500ページもあった膨大なコンテンツを効率よく管理できることや、医師が監修するコンテンツの作成・修正ステップを強力なワークフローで管理できること、そして、コンサルティングの窓口がしっかりある点を評価したという。
「トレーニングを3日間受けただけで、既に、シンプルなページは作り始めることができました。ドキュメントやQ&Aなどのサポートもしっかりしていた。つまり、開発にあたってのハードルを取り去ってくれたという印象です」(泉氏)
同グループは以前より、モバイルゲームのユーザー行動分析のためにデータ分析ソリューション「Adobe Analytics」を利用しており、Adobe Marketing Cloud内にWCMの機能があることは知っていたため、導入しやすかったという背景もある。
また、前述のとおり、遺伝子情報は究極の個人情報となる。必要なセキュリティレベルを、ELSIに沿ってさまざまな角度から調査・検討し、セキュリティポリシーを定めた。
「画像や説明文など共通のアセット・コンテンツはExperience Managerで管理し、検査結果を含む個人情報は切り離して管理することで、セキュリティポリシーに忠実な実装が容易に実現できました。Experience ManagerはJavaで構築されており、自由度が高いシステムのため、私たちが設計をする上で制約を課されることはほとんどありませんでした」(泉氏)
加えて、開発の柔軟性が高いことは、短期開発の実現にもつながっている。
「Experience Managerでは、エンジニアが開発したページを、ノン・エンジニアのスタッフが自分で修正することができます。これを使用しなかった場合、3~4カ月は余分に開発期間が必要となり、サービスのスタートも遅れていただろうと思います」(泉氏)
「研究」という行為そのものがインターネット技術で変革できる
DeNAライフサイエンスが掲げる次なる目標は、研究開発という既存の活動自体の変革となる。
「研究というと、いままでは少人数で研究室にこもって、結論が出るまで発表もしない、クローズドなイメージでした。しかしこれからは、一般消費者からデータを提供して頂いたり、アンケートで意見を聞くこともできる。インターネットというオープンな技術の力で、研究開発のサイクルを速くしていきたいと考えています」(泉氏)
遺伝子検査サービスが潜在的に持つ革新の力は、まだその一端を垣間見せたところにすぎない。今後、多方面にその効果が広がっていくことも予測されるが、あくまでも「ELSI」とのバランスをとりながら、進化させていくことが大切だ。